ポッキーの日(四部逆ハー)


「ポッキーの日!?」


あからさまに不機嫌な顔で声を荒げる露伴に、名前はそんな事を気にも留める事なく「そう」と笑顔で答えた。
放課後はカフェ・ドゥ・マゴでお喋りして帰るのが日課になりつつある名前は、いつものようにスケッチブックを抱えて現れた露伴に声をかけた。
ちゃっかり隣に座ってみたが、露伴が嫌がらないのでそのままカプチーノを注文すると、名前は怪訝な顔の露伴を振り返る。


「学校でね、皆がポッキー食べてたの」

「下らないな。どっかの製菓会社がバラまいた戦略にまんまと乗っかってボロ儲けさせてりゃ世話ないじゃないか」


露伴ならそう言うと思っていた。名前はフフッと笑みをこぼし、鞄から赤い箱を取り出した。


「おいおい、まさか名前、お前までそんな安っぽいイベントに乗ったんじゃあないだろうな!?」

「そのまさかですー!」


エヘヘと笑った名前はその箱を露伴に渡し、「残りだけど」と説明して食べるように勧めた。
さすがにカフェで持ち込み飲食物を食べるのはマナー違反なので、後で食べると言う話になり、二人は取り留めのない会話を(と言っても、露伴は終始文句をつけていたが)交わし、カフェ・ドゥ・マゴを後にした。
せっかくだしと公園を散策する事にしてすっかり黄色く色づいた銀杏が立ち並ぶ道を選んだのは、大失敗だった。
突然呼ばれて振り返ると、仗助と億泰が名前に向かって手を振っていたのだ。


「げっ!?」

「何が『げっ!?』だよ、俺達だってテメーに会いたかったわけじゃあねぇよ」


顔をしかめる露伴に仗助が眉を寄せ、一瞬にしてムードが険悪になる。
そんな事など微塵も気にせず、名前は億泰と仗助を見上げて「久しぶりに皆が揃ったね」と微笑む。
満足げなのは名前だけで、三人は曖昧な笑みをぎこちなく作って、ひきつった笑いを返すのが精一杯だった。(本当は仲が良いのではないだろうか?と言いたくなる息の合いようだった)


「これから露伴先生とポッキー食べるの」

「え?」「は?」


この言葉には仗助と億泰は心から驚いた。
名前は何の後ろ暗さもないようだが、ポッキーの日の一大イベントと言えば、学生の間には一度は必ず流行るポッキーゲーム。
一人がポッキーをくわえ、もう一人と共に両端から食べ進め、“ドキッ!あの子と唇触れ合っちゃった☆というう嬉ハズかしドキドキイベントなのだ。


「名前、俺達にもポッキー分けてくれよ!」

「そうだよ!露伴と二人で、なんていかがわしい」

「億泰、お前の低脳さが口から露呈しているぞ」


億泰の言葉を冷たく言いのけた露伴は、名前の手を引いて先を急ごうとする。密かに二人を置いていこうと試みたのだが、その目論見は名前があっさりと「良いよ、みんなで食べようよ」と笑ったことで失敗に終わった。


「二人で食べたかったからわざわざカフェで俺を誘ったんじゃあなかったのか!?」

「えー、露伴先生ってこういうイベント参加しなさそうだから、巻き込んでみたいなと思って」

「・・・なんだそれは・・・・・・」


エヘヘと誤魔化して笑う名前を横目に、露伴は溜息をついて頭を抱えた。これで騙させるんだから自分のお手軽さに頭が痛くもなる。
そんなわけで集まった結局いつもの四人は公園内に設置されたベンチに腰かけた。


「じゃあ、はい」


鞄の中から取り出されたのは何の変哲もない普通のポッキー。
露伴と億泰と仗助の三人はジトッとした目で互いに牽制し合い、いっせいに立ち上がると突然ジャンケンを始めた。


「「「じゃーん、けーん、ほいっ!!!!!」」」


彼らは本当に仲良しだと思う。思わずにはいられない。
突然の何の申し合わせもない動きであるにも関わらず、一分のずれもない完璧にシンクロした動き。声も申し分なく揃っている。
これが本当の男子の友情なのだと名前がうらやましく思っていると、どうやら仗助が勝ち残ったらしい。
嬉しそうに名前の前に立ち、「俺が一番なっ!!」と高らかに宣言する。
名前が笑って箱を差し出し、仗助は箱から一本のポッキーを取り出して口にくわえた。


「・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・???食べないの??」


たっぷりの沈黙の末の名前の言葉は、仗助を含む三人の空気を凍らせるには十分すぎる威力を持っていた。
ピシッと音を立てて固まった三人は、真ん丸目のまま眉間に皺を寄せて顔を見合わせた。


「名前」

ぎこちなく首を動かして振り絞るように声を発した億泰に、名前は「ん?」と首を傾げる。


「ポッキーゲームをするためにここに来たんじゃあないのか?」


気付いてみれば、露伴も仗助も億泰も困惑顔で名前を見ていた。
ハラハラと紅葉した銀杏や楓の葉が風に舞う音が四人を包み、名前はもう一度首を傾げる。






「ポッキーゲームって、どんなゲーム?」






「「「え」」」








ザ・ワールド。時が止まった。
自分の耳を疑い、聞こえた声を疑った。
目の前の不思議そうな名前を信じられず、三人は今始めて心を通わせた。


(((ここに天使を放ったのは誰ですか?)))


純真すぎる。
まるでそんな下心など全くなく、ただポッキーの日というとある会社の商法であるイベントに純粋な心で参加しようと楽しげな笑みを浮かべていたのだと知れば、自分が酷く穢れたもののようにすら感じられた。


「いや・・・」

「それは・・・」

「どうやってするんだったかな?」


しらばっくれる三人に眉を寄せ、名前は三度首を傾げた。
おかしな三人である。


「とにかく、ポッキーを分け合う日って、テレビで見たのよ」


だから分けましょ!と笑う名前に、三人はベンチの上に正座をして箱に手を伸ばしたのだった。










四部はこのノリが一番書きやすいです。
ポッキーの日を随分過ぎていますが、書きかけをこのままにするのも面白くないので上げました。後悔はしていない!!!




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