お月見しよう(柱の家族/ほのぼの)
「子供達はどうした」
「寝てるよ……名前以外は、な」
バレた。
エシディシ様はこっちを向いていないのに、どうてか私の寝たふりにいつも気づいてしまう。
なんと聡明なことか…。
くるりと首だけで振り返ったカーズ様と目が合い、私は仕方なく起きあがった。
「まだ寝れません」
「名前、仕方のない奴だ。あれだけワムウやサンタナと走り回って修行しておきながら、まだ体力が有り余っているとはな…」
「子供のくせに、数年に数日しか寝やがらねぇ…ワムウとサンタナは毎日昼寝しているぞ?」
「彼らは子供なのです…」
「お前も子供だろうが」
エシディシ様がジットリと目を細める。
こういう目をされる時は、大概が子供抜きでのんびりお酒が飲みたかった時だ。
少々申し訳なく思いながら、カーズ様の手に導かれるまま胡座をかいた脚の間に座った。
カーズ様は大人しく座る私だけはいつもこうやって抱えるように座らせて下さる。
ワムウとサンタナは騒ぎ始めるから毎回放り出されているが、私はこうして座らせて頂く事がとても気に入っているから、二人のような馬鹿な真似はしない。
「名前の髪は私に似て夜の闇のようだな」
酒をちびりと飲んだカーズ様がそう呟きながら私の髪に指を通す。
まだまだ子供な私の、小さい頭をカーズ様の手のひらは片手でポスンと撫でてくれた。
温かくて心地がよい。
エシディシ様はもっと温かいが、夏は熱すぎるのが難点だ。
「綺麗な満月ですね」
大きな月を見上げてそう言えば、カーズ様とエシディシ様は酒を飲みながら「そうだなぁ」とぼんやり答えた。
私達は、太陽の光を知らない。
人間どもの数万倍以上の時を生きる事が出来、その身体能力も彼らの比ではない。
そんな私達の種族も、残されたのは私とエシディシ様とカーズ様。そしてサンタナとワムウ。
長い時を生きているのはカーズ様とエシディシ様で、私を含む三人はまだたったの数百年しか生きていない。
「名前!!そっちに行ったぞ!!!」
「いっただっきまーす!!」
ドドドドと轟音を立てて走ってきた猪に、私は何の躊躇いもなく飛びかかる。
捕まえるためではない。食べるためだ。
ずいぶん大きな猪だから、一食分にはなるだろう。
私を攻撃しようと直進していた猪が急に方向を変え、野生の勘で危機を察して逃げに転じたことに気づいた私は全速力で猪を追いかける。
「夜行性どうしの戦いでは、私にお前が適うことはないのよ」
パッと地面を蹴って飛びかかり、私は逃げる猪の背中に飛びついた。
ーズギュウゥゥゥウン……
久しぶりに見つけた大きな獲物に、細胞の一つ一つが歓喜に震える。
「名前!!食べ過ぎ!!俺も腹減ったんだ!」
キラキラと月夜に金糸を輝かせて闇から飛び出してきたサンタナは、私が食している途中の猪に飛びつく。
まだカーズ様やエシディシ様のように素早く食べる事ができない私達は時間をかけてソレを食す。
人間のように口からではない。細胞の全てでソレを吸収するのだ。
「うーん、獲物が減ったなぁ」
ガサッと音を立てて現れたワムウは、片手に兎を捕まえていた。
可愛いのに残念。
ワムウがそれを離すわけがない。
「カーズ様とエシディシ様に相談してみるしかないな」
ワムウはそう言いながら、兎を腹に押し当ててペロリと食べてしまった。
「カーズ様ただいま帰りました!!」
「あぁ、エシディシがお前達に軽食を用意したと言っていたぞ。行ってみるが良い」
「わぁ!!エシディシ様のおやつ久しぶり!!」
「腹減った…」
「サンタナはさっき名前の猪まで半分横取りしていただろう?」
ワムウの指摘にサンタナはムッと下唇を突き出した。
「兎をたったの十羽では腹の足しにならない!」
「サンタナはよく食べるな」
感心したように目を丸くするカーズ様に私が「食べ過ぎなんですよ!」と言うと、カーズ様は少し笑って「良いことだ」と言った。
「エシディシ、どうして私のおやつが無いのだ!」
「たまにはお前が子供達の分を作ったって良いんだぜ?」
「私は研究が忙しいのだ」
「一身に子供の世話を担ってやってんだ、文句言うな」
エシディシ様の機嫌はよろしくないようだ。
いや、戯れにそうからかっているだけなのかも知れない。
最近少しだけ、エシディシ様がそういう意地悪を言ってからかうのを楽しんでいる事が分かるようになった。
私もこの前の夜、エシディシ様に髪の毛をくるくる巻きにして遊ばれた。頭の上で髪の毛がタワーになっていたのに気づいた時、エシディシ様は至極楽しげに笑っていた。
「ぬぅ…あんまりではないか…」
「ふん、お礼を言うなら考えてやらんでもない」
「エシディシにはいつも感謝している」
あっさり。
サラリと笑顔で言ってのけたカーズ様に、エシディシ様は「つまんねぇなぁ」と文句を言いながらおやつの甘いお団子を出していた。
「俺も感謝しています、エシディシ様!」
「お、俺の方が感謝しています!!」
「ワムウ、競う事じゃないのよ、感謝の気持ちっていうのは、競ってたんじゃ意味ないのよ?」
「しっかりしてると言うか、名前は子供らしくないな」
「っ!?!?!?」
エシディシ様の一言にゴクリと咽が鳴る。
子供らしくないなと言われては、子供らしく振る舞うのが求められている気がするが、子供らしいとはなんだ…?
「名前、子供と言うのは素直な気持ちを表現することだ」
「カーズ様、それでは、感情の制御は必要ないと?」
「うむ」
理解した。
パッと笑って理解できた喜びを示すと、エシディシ様が「そのやり取りがなぁ」とボヤいていた。
「エシディシ様!お代わりが欲しいです!!」
「名前!俺が貰うんだ!!」
「お前達は猪を喰っただろう!?俺が食べるっ!!」
猪はサンタナに半分も取られたのに!!
ムッと頬を膨らませて抗議すると、サンタナが空になった皿を手にお腹をぐぅう…と鳴らした。
つられるようにワムウと私のお腹も鳴る。
「…仕方ない。作ってやるから手伝え」
「エシディシ様大好きです!!」
「…名前も案外現金な奴だな」
ハァとため息をついたエシディシ様は、団子を作るために洗い場へと向かった。
たくさん作って、またお月見をしようと思う。
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ありがとうございますヽ(^0^)ノ
柱の家族。雰囲気を原作から離しすぎないように書いたつもりですが、どうでしょう?(・∀・)ドキドキ
サンタナは本名が出ないので、サンタナ表記で。
サンタナは子供の頃は元気な子供で、ワムウと仲良し(ライバル関係)だと良いなと思います(*´∀`)
石仮面の研究をしつつ、子供達の成長を待つ。
そんな家族感が好きです(●´ω`●)
アンケ上位ではなかったのですが、見たいというお言葉を頂きましたので(`・ω・´)+
ありがとうございました!!!
空
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