La ferita lacera del leone che va ad un vento (プロシュート)


名前は暗殺チームに配属されたことが不思議なほど、最初からよく仕事の出来る人間だった。
殺伐とした男集団の中で、彼女は凛とした佇まいを一貫してみせた。メローネの熱烈なアプローチもサラリとかわし、チームの誰にも靡かない。
誰にも縋らず、ただ一人孤高の獅子のように風に立つ。そんな姿に、少なからず好意を抱いていた。



「珍しい姿を拝んじまったな…」

プロシュートはフゥと紫煙を吐き出し、街の細い路地に座り込む名前を見下ろした。
女の色気を纏った見た目とは裏腹に、内面は女らしさとは無縁かと思った名前が、今は細い肩を抱くように座り込んで頬をぬらしていた。


「笑えば良いわ」

「…いや、名前がちゃんと女だった事にむしろ安心している」

ポケットから取り出したハンカチを差し出せば、名前は「こんな物を持ち歩くなんて女みたい」と小さく笑う。涙に濡れながら尚気丈に振る舞う姿に、プロシュートは胸が高鳴るのを聞いた。

「誰にも言わないで」

「…考えておく」

言うわけがない。こんな美味しいところ、他の誰にも見せたくない。心内で呟いて薄く笑うプロシュートに、名前は目を細めた。
笑っているようにも、悲しんでいるようにも怒っているようにも見えた。


「弱いと思われたくないの」

目を伏せ、足元を見つめる名前はそう呟いた。
ともすれば聞き逃してしまいそうな小さな呟きに、プロシュートは膝を折って名前と視線を合わせる。


「誰も名前を弱いと思ってない」

「女だからって…見くびられたくないし、護られたくないの。私も、ちゃんと戦えるわ」

「知ってる」

フーッと煙を細く吐き出して、プロシュートはタバコを雨上がりの濡れたレンガ造りの道に押し付けた。
ジュッと小気味良い音が響き、名前はゆっくりと視線をあげる。

「お前は強い。弱い姿は、俺だけの物だ」

「…どう言うこと?」

「弱い名前は、俺が隠してやる」

メローネのように口説き始めるのかと思って身構えた名前に、トンと優しい振動が響く。
細く見えた肩は思ったよりもずっとしっかりと男らしく、長い腕に抱き締められているのだと分かった時には涙が溢れた。
ぼろぼろと止め処なく溢れる涙を為す術もなくこぼし続ける名前に、プロシュートのタバコの香りが優しく香った。

「よーし、よしよし…」

「っ…ぅ子供扱いしないで…っ、…」

「名前一人で頑張り続けられることが強いって事じゃあないんだぜ?」


プロシュートの声が、体温が、名前自身が追いつめようとしていた自分を、少しずつ解いて開放するように感じた。








「クリーニング代は私が出すわ…」

見事に涙のシミをつけてしまったプロシュートのスーツを見つめながら、名前は申し訳なさそうに眉を下げた。
そうやってしおらしくしていればやっぱりただの女なのだが、名前はすぐにポケットから紙幣を取り出してプロシュートに差し出す。
紙幣をそのままポケットにねじ込むなんて、女らしさに欠けている。


「そりゃ大事にとっときな。俺らの給料なんてタカが知れてんだ。これくらいでクリーニングなんて贅沢だぜ?」

「まさか、洗濯機なんて止しなさいよ?型くずれしちゃうわ」

煙草に火を付けて、プロシュートは「ハン」と笑い、細く煙りを吐き出してから目を細めた。

「ペッシに上手いことやらすさ」

「プロシュートの弟分は大変ね…」

道理で手先ばかり器用になるはずだ。
これではペッシが暗殺者として成長するのはいつになる事やら…。


「……………プロシュート…、あの…」

「名前、一人で無茶すんな。俺が泣き言に付き合ってやる…」

頬に触れるプロシュートの指が、優しく涙をぬぐい取る。
男臭く粗雑なところのある彼の、精一杯の優しさだった。


「泣いてるのを見た後でも、名前を弱いとは俺は思わねぇ…。だから、泣く時は一人で泣くな」

「……それ、口説いてるの?」


ジッとプロシュートの本心を探るように真っ直ぐに視線を向ける名前に、プロシュートはタバコの煙を肺の奥まで吸い込み、スゥと細く吐き出して小さく笑った。


「口説いて欲しいなら口説いてやる。そういうのを求めてないなら、口説いたりしないで割り切る。どっちでも、好きなほうを選ばせてやるよ」

自信たっぷりに笑うプロシュートは、名前の腰に手を回してゆっくりと身体を添わせる。
さっきまでの子どもや弟分を労わるのとは違う手つきに、名前の心臓がドクリと跳ねた。
何も知らないまま拒絶することは容易い。
けれどこの手が無償の優しさを持ち合わせている事を知ってしまった。


「どっちが良い?」

唇の触れそうな距離で囁くプロシュートに、名前は答えの代わりのキスをした。
気高く孤高な姿は、凛とした空気を纏って二人で強く並ぶ姿へと変わった瞬間だった。





ーーーーーーーーーーーーーーーー

ありがとうございました。
アンケ上位のプロシュート兄貴。
かっこいい女性とかっこいい兄貴ってすごく絵になるんじゃないかなという想いからこんな感じの文章にしました。
兄貴かっこいい。(リゾットの次にな。←重病)
そんな兄貴のかっこよさを少しでも感じていただければ幸いです!!
タイトル超長いけど、風に向かう獅子の涙という意味…な、はず。
翻訳サイト様頼み…だけど日本語にしたくなかった。
意味分からないまま読んで欲しかったのだ!!
たまには長くても良いさね




(16/21)
[back book next]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -