有名人な二人(リゾット)


「名前のどこが好きなの?」


メローネの唐突な発言に、リゾットは表情に乏しいその目を僅かに揺らした。
質問を投げかけておいて何だが、メローネの目的はこれで達成した。リゾットを多少なりとも動揺させること。
ただ単につい今しがた思いついたただの遊び。悪戯だ。


「なに変なこと言ってんだクソメローネ!!」

「ギアッチョだって気にならない?リーダーの好み」


隣に座ってカフェラテを飲もうとしていたギアッチョは、メローネに悪態をついて耳を赤くしている。
人殺しを顔色一つ変えずにこなすギアッチョは、こういう話に殊更弱い。
ついギアッチョをからかう方にシフトしそうな己の興味を強制的にリゾットに戻し、メローネを見たまま動きを止めたリゾットにもう一度「どこが好きなの?」と問いかけた。


「どこって…」


寝不足なのか、いつもより反応の悪いリゾットは青白い顔を僅かに赤らめた。
ホント面白い反応だ。


「全部…だ」

「この空気で惚気る?」

面白くなくなりそうな雰囲気に、メローネは攻撃対象を変更することにした。


「名前は?」

「あ?名前はどっか行っちまったんじゃあねーか?」

「隠れても無駄だよ、名前」


柱の影に隠れてることは分かってる。
メローネの声にビクリと動く音を立て。名前が渋々と顔を出した。
リゾットの言葉を聞いていたことは明白で、白い肌は耳まで真っ赤になっていて、色の薄いふわふわの癖っ毛が俯く名前をふんわり隠していても表情が読み取れそうだ。


「はい、名前の番だよ」

「本当に居たのかよ」

「だって…」


自分のことに関する質問が耳に入って立ち止まらないはずがない。
うろたえる名前に、ギアッチョは呆れ顔だ。これは助け舟を期待できそうにない。


「リゾットのどこが好きなの?」

「う…え…っと…」


追い詰められる名前は、チラリとリゾットを伺い見た。
いつもより赤い顔をしたリゾットは完全に目が泳いでいる。


「えと…手…かな」

「えぇ!?手だけ!?!?!?」


ソファーから身を乗り出すメローネに、名前は少し後ずさった。
リゾットと同じように“全部”と答えれば簡単に逃れられるのに、名前はどうもこの辺りが不器用だ。そこをメローネに遊ばれているというのに。


「ちが、目、とか!!」

「目??何で?」

そんなこと聞かないで欲しい。
ますます追い詰められるは、もう首まで赤い。


「や…だって、優しい目をしてるから」

本人の前でこういうことを自白させられることほど恥ずかしい事があるのだろうか。
もう俯いて顔を上げられない名前に、メローネは首を傾げた。


「優しいぃぃぃい?????」

「…優しい?」

「こっちを見るな」


怪訝な目で見るメローネとギアッチョをシッシッと手で追い払うリゾット自身も、困惑しながら赤い顔をしている。


「リゾットが優しい目って、ちょっとイメージ出来ない」


メローネの言葉に頷くギアッチョ。
リゾットが「失礼な…」と返しても、変化に乏しいその表情では何の説得力もない。


「なんだ、面白そうな話してんなぁ」

「どういう感性してるんだホルマジオ、俺は下世話な話してるようにしか見えないけど?」


イルーゾォとホルマジオが買出しから戻ってきて、赤ら顔の二人を笑い飛ばした。助かった。きっとイルーゾォなら助けてくれる!!!


「名前をあんまりいじめるなよ、メローネ」


ほらね!!
あからさまにパッと表情を明るくした名前を見て笑ったメローネは、「はいはい。保護者が登場したんじゃあしょうがない」と両手を挙げて茶化した。


「わ、私っ、ちょっと出かけて来るから!!!」


このタイミングを逃したら逃げられない。
ここぞとばかりに部屋を飛び出した名前をぼんやり見ていたリゾットは、パソコンに視線を戻して報告書の続きを打ち込む。
カタカタとリズミカルに音を立て、手早くそれを仕上げて立ち上がった。


「リゾット、名前を追いかけるなら傘持って行ってやってよ。夕立きそうだから」

「…追いかけるとは言ってないが?」

「違うんならいい」


手元の荷物に視線を戻して仕分けを再開したイルーゾォに、リゾットは「…分かった」と小さく返した。
メローネが爆笑する声が背後から聞こえたが、仕返しは後にする。
どうやらなかなか美味しい思いをさせてもらったような気もしていた。














「名前」

「わっ!!びっくりした…リゾットったら、気配もなく近づくんだもんな…」

「すまない」


驚きに胸を押える名前に短く謝罪したリゾットは、彼女が腰掛けている隣に座った。
レンガ造りのこの街は、斜面に作られているためにがけのようになっている場所もたくさんある。
道の脇に作られた壁に座れば、足元からずっと先の海まで夕日に染まる街並みが一望出来る仕組みだ。
名前がこの場所を好んでいることもよく知っている。


「名前」

リゾットの声に再び肩を跳ねさせた名前は、夕日のせいか赤い顔をしていた。


「手…どこが好きなんだ?」

「へ?」

「俺の手が好きなのだろう?どうしてやればいいのかと思って」


人前で聞かれることは好まないリゾットも、二人だと平然と尋ねてくる。
それがまた恥ずかしい。


「べ、つに…何もしなくても…好き」

「そうか…」


よく分からないが、名前がそれ以上言わないような気がして頷いた。
ぼんやり街を眺めて、リゾットはふと思いついたように名前の手に自分の手を重ねる。
少し体温の低い手はリゾットの手。
骨ばっていて、名前の手よりずっと大きい。


「な…」


真っ赤になっているのは恐らく夕日のせいだけではないだろう。


「いけなかったか?」

「そ…そんなことないよ!嬉しい…」


恥ずかしいのかおずおずと握り返す名前の手が温かく、なるほど確かに手も良いものだと思った。
朱色に染まった街を映すパッチリとした目も、見開かれて自分を映す目も、くるくると忙しなく表情を変えるようで愛らしい。


「メローネに感謝しなくてはな」

「メローネ?」

「あぁ、名前の事をより知る事が出来た。俺はあまり口が上手くないからな…。きっと俺からそんな事を聞くことは出来なかっただろう」


なによりそんな質問を投げかけるようなこと、年甲斐もなくてとても出来ない。
自分よりも年下の名前に、多少は見栄も張りたかった。


「声も」

「ん?」

「声も、好き」


困ったような顔をして、街並みを映したまま、名前はキュッと繋いだ手に力を込めた。



「さらさらの髪も、石鹸の匂いも、っ、好き」



この気持ちをどう表現すれば伝わるだろうか。
口が上手くないと言い切ったリゾットは、言葉を捜して眉を寄せた。
心臓が今までに聞いた事がないほどの早鐘を打ち、うざったくなるほど全身を猛スピードで駆け巡る血のせいで頭もクラクラする。
僅かに手が震えて、この瞬間の幸福に涙が出そうだ。
真っ赤に頬を染めた名前が、「あとねっ」とリゾットを振り返り、自分の頬よりもずっと柔らかなそれに手を添え、ふっくらとした唇がその言葉の続きを紡ぐより早く口づけていた。


「んっ…」


驚きでこぼれた名前の声が脳の芯の方を痺れさせる。
上手く出来ない呼吸を短く吐き出しては角度を変えて再び重ねる。
何度も何度もキスの雨を降らして、チュッと音を立ててゆっくりと離した。
自分の唇にかかる名前の呼気が熱く、潤んだ瞳が色っぽくリゾットを挑発する。


(余裕なんか…あるはずもないな)


呆れて嘲笑の笑みすら零れそうだ。
短い呼吸を繰り返した名前は、見たことないほど赤面したリゾットを見た。
いつもの、感情の薄いリゾットも好きだ。
いつだって自分の事を、自分よりも大人な目線で見て、自分よりも冷静に判断し、引っ張って言ってくれる。そんなリゾットが好きだ。
それを上手く伝えられない自分が嫌いになるほど、名前も余裕なんかとうの昔に失っていた。


「後ね…リゾットの…」

「うん?」

「き…キスも」


ぎゅうと抱きついた名前が「好き」と呟くのを、リゾットはポツリと夕立が降り始めた雨の世界の中で聞いた。




















「知らないのか?」

プロシュートが差し出したタオルで名前の小さな頭をガシガシ拭きながら、リゾットは「何がだ?」と眉を寄せた。


「だから、あんたら近所で有名になりすぎだって言ってんだよ」

「有名??」


そんなに目立つ自覚はない。
暗殺者が有名になるような行動を取るはずがない。
むしろ誰の記憶にも残らないほどひっそり暮らすべきだ。


「自覚なしかよ…」


呆れた様子のプロシュートの隣で、ペッシも困ったように渇いた笑みを浮かべている。
どうやら嘘をつかれているわけではないようだ。
ペッシにポーカーフェイスを教える必要がありそうだ。


「俺も、今日見てびっくりしたよ」

「そうそう、そりゃあ有名にもなるよな」


ジェラートとソルベも今帰宅したらしい。
仲良く二人で入っていた傘を畳んで笑うソルベの隣で、ジェラートは機嫌がよくないように見える。

「ジェラート、ソルベ、お帰りなさい」


名前にハグとキスで挨拶をしたジェラートは、キッとリゾットを睨みつける。
ジェラートはどうにも名前は甘やかしてリゾットにキツイ傾向がある。



「あんな往来でキスなんかしやがって!!!」

「「ブフッ!!!!」」


顔を真っ赤にしてむせるリゾットと名前の後ろで「だから言ってんだろう」とプロシュートがニヤリと笑う。


「近所でも有名な“バカップル”って」


言われてない。
むしろ勿体つけられていた!!!
されるがままに髪を拭かれていた名前も、表情は見えないが完全にフリーズしている。


「止めてくれよ、本当に恥ずかしいんだからな?なぁ、ペッシ」

「いつ結婚するのかって、隣のおばあちゃんが聞いてたよリーダー」

隣の!?
これは次に顔を合わすのが恥ずかしい。
今日もイルーゾォに言われた傘を差すのを忘れて名前にキスをしていたなんて知れたら…あぁ、そう言えばジェラート達に見られていたんだった。


「…………い」

「ん?」

「もうリゾットと一緒に外出ない!!!!」

「名前!!?」


その日一晩中平謝りするリゾットの声が夜の静寂に響き、二人のバカップル評価はますます上がることになる事を、この時の二人が知る由もない。





短編が人気だと知って、さらにアンケート途中経過でぶっちぎり上位のリゾットさん。
そしてやっぱりアンケー(ry)上位のバカップル。リア充なバカップルって、つまりこういうことで良いんでしょうか???キャピキャピわっかんねぇwww
やっぱりリゾット良いよね!!!みんな好きなんだよね!?!?!?私も大好き!!!!
だけど短編は久々に書いたぞ!!ジョジョーーーーーーー!!!!!
楽しんで頂けていれば幸いです。





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