格好悪くて言えない。(アバッキオ・なめ子様リクエスト)


「アバッキオ」

「なんだ?…手を止めるな」


書類仕事は苦手だ。
細かい事は好きじゃないし、間違えると追跡して修正なんて二弾構えで返ってきて面倒くさい。
それなのに、相方の名前は完全に手を止めてぼんやりしている。
まぁ、コイツを戦力にはカウントしてないがな。いないよりマシレベルだ。最も、ミスタやナランチャは論外なので、まだ名前の方が役に立つのだが。


「ねぇ、アバッキオ。恋って………何?」


青天の霹靂だった。
思わず固まってしまったオレの手から、バサバサと音を立てて書類が滑り落ちる。
あぁ、せっかく並べ終わるところだったのに…なんて、悲しむことも怒ることも忘れてた。


「アバッキオ、恋したことある?」


あぁ…お前に恋してるなんて、散々先輩面した後で言える由もなく。



ーーー格好悪くて言えない。




「は?まさかお前、今まで恋したことないとか言わねーよな?」


あぁ、こんな事を言ったんじゃまた怒らせてしまう。分かっていても今更引っ込みなんかつくはずもない。
案の定、名前はブスッとむくれっ面でアバッキオを睨むと、笑い出しそうな彼から顔を背けた。


「そんなわけないでしょ!?」

「じゃあどうしたんだ、言ってみろ」

落とした書類をバサバサと拾い集め、適当に纏めながらアバッキオは名前の向かいに座った。
窓から差し込む日差しは柔らかさを帯び始め、本来ならのんびりコーヒーでも飲んで一息入れたいような穏やかな空気だった。
しかし、今のアバッキオにはそんな事を考えつく余裕はなかった。
名前をからかう体を装うことこそ出来ていたが、密かに想いを寄せる相手のまさかの恋愛トークに、いつもの先輩面も年上風を吹かすことも忘れて聞き入る。


「それが…告白を「したのか?」


話の流れから、名前が告白された側なのは一目瞭然。しかしアバッキオの心がそれを認めたがらなかった。
誰かに奪われるのも嫌なのに、自分のプライドが邪魔して告白も出来ないなんて情けない。
この希望的観測は、当然…


「何でよ。されたの!!私が。告白されたのよ!」

などとあっさり否定されて、受け入れ難い現実が叩きつけられる。


「ふーん…。で?」

大層な物好きが居たもんだ。と言う言葉は、喉まで出掛かったが飲み込んだ。
墓穴を掘るようなことは全力で裂けるべきである。


「それでって…。それだけよ?」

「は?何て返事したんだよ」

「返事はしてない。しなくて良いって言われたの」


悩ましく眉を寄せてひじを突き、フゥと一つため息をつく名前に見惚れながら、アバッキオは慌てて眉を寄せた。
こんな風に、ふとした瞬間にいつも見惚れて、その度に気づかれていないか内心ヒヤヒヤである。


「好きな人とはさぁ、付き合いたいものじゃない?フツーはさぁ…」


なるほど、ここが名前を悩ませているところらしい。
アバッキオは長い髪を耳にかけ直して、手元の書類に視線を落とした。


「人それぞれだろ。気持ちを伝えて満足する奴もいるんじゃねーか?」

「分かんない」

「まぁ、お前がそこに入らないっつー事は分かった」

書類を順番に並べながら、アバッキオは顔を上げられなかった。
気持ちを伝えるどころか、一緒に居れることを優先している自分に言えることはこれ以上なにもない。
付き合うなんて以ての外である。
チームの中でも明るくムードメーカーの名前は両親がギャングだったらしく、まるで息をする事と同じくらい当たり前にギャングになった。
もちろん、ブチャラティが猛反対したのは言うまでもないが、成人女性が自分の人生を決めるのに他人の意見を聞くはずもない。
ジョルノと同じような志しを抱いて入ってきた名前は、いつだってアバッキオとは違う視点で物事を見つめる。
社会に絶望したアバッキオに対して、名前はいつも希望を持っていた。



「アバッキオはどうなの?」

「は?」


自己嫌悪に浸っていたアバッキオは、名前が自分の恋愛観について聞いているのだと分かるのに時間がかかった。
長い睫を瞬かせて、アバッキオは「俺?」と聞き返す。


「俺は…そうだな。好きなら守ってやりてぇ」

これは嘘ではない。
大切な人間なら、誰でも護りたいと思うだろう。


「私はね、アバッキオ。

好きな人とはキスがしたい」


「…は?」


大きな目を臥せていた名前は、呆気にとられたアバッキオを視線だけで見上げた。
自然と上目遣いになる名前の表情に息が詰まって心音が高鳴る。
母親が日本人だと言う名前は、大人になってもどことなく幼く見える。
長いまつげとふっくらとした唇。きめの細かい、白く透き通るような肌の名前に、アバッキオは頭がグラグラと煮えるような気がした。抱き締めてキスして、そのまま押し倒してやりたい。



「キスして、ハグして、とろけるほど甘い時間を過ごしたい。明日も生きていたくなるくらい」

「……………ドラマの、見すぎじゃあないか?」


しどろもどろにそう言ったアバッキオに、名前は「そうかも」と小さく答えた。
ちくしょう、マジで可愛い。
そんな純粋な少女みたいな事を好きな女から言われて、たぎらない男が居るなら会ってみたい。


「まぁ……それくらいなら恋人が全部叶えてくれるだろ。ねだる必要もねーな」


話を切り上げて立ち上がると、服がツンと突っ張って転びそうになった。
この長い服は、まれにそんな風にテーブルやイスに引っかかる。
何も今じゃなくても良いだろう。と振り返ると、名前がアバッキオの服を掴んでいた。


「なんだ、まだ聞いて欲しい事でもあるのか?」

「本当に、ねだらなくても、してもらえるのかな?」


名前の赤い顔に、アバッキオの心臓も跳ねる。
あぁ、カッコいい先輩で居たいのに、顔が熱くなるのが分かる。


「そりゃお前…、お前の事好きな男ならな」

「アバッキオは?」

「は?」


まさか酔っぱらってんじゃあねーだろうな?
真っ赤な頬まま、名前はじっとアバッキオを見つめる。
恥ずかしいやらどうにも襲いかかりたいような気持ちが湧き上がるやらで、視線を泳がせたい気持ちでいっぱいになりながらアバッキオは目を細めた。



「私ね、アバッキオにして欲しい」



時が止まるというのは、こんな感じに違いない。
ガッと頭に血が登り、どうしたもんかと狼狽える。
いっそからかわれているなら蹴飛ばしてやるのに、名前は真っ赤になった顔を隠すように下を向き、アバッキオの服を握り締めた手は小さく震えている。


「本気で言ってんのか…?」

「冗談なんか、アバッキオには言えないよ。蹴られるもん」


あぁ。どうしてこんな事になったんだっけか?
名前みたいに未来や希望ばかり見ている人間に、自分のような人間が映るなんてあり得ないと思っていたのに。
アバッキオは名前の震える手に視線を落として、持っていた書類を投げ出した。
バサバサと書類が落ちる音に驚いて顔を上げた名前に素早く近づいて顔を寄せる。
睫毛の触れそうな距離。
柔らかそうだと思っていた唇は想像以上にふっくらと柔らかく、名前の甘い香りが鼻孔を擽る。


「………アバッキオ…」

「ご要望に応じてやる」


あぁ、ちくしょう。
どうしてこんなに上からの物言いしかできないんだ。


「明日も明後日も?」

「今日だけで良いのか?」

「嫌っ!」

「じゃあ、明日も明後日もだ」


テーブルに乗せられたままの名前の手に自分の手を重ねて、アバッキオはそっと名前の唇に自分のそれを重ねた。
ゆっくりと、角度を変えながら何度も口づけて、一度だけ小さく呟いた。


「好きだ、名前」


首まで赤くなった名前が目を見開くのを見ながら、アバッキオは笑って彼女を抱きしめながらもう一度口づけた。








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「恋ってなに?」って言わせたくて書いた。私の力ではこんなもん。
誰か、恋を教えてください。←
大人になるとね、好きなだけでは駄目なのだよ(+_+)
あぁ、でも、子どもみたいな恋はもうできない(笑)
なめ子様、超絶ヌルいアバッキオになってしまいましたが、いかがでしょうか?
もう少し大人なもの…もしくはR18…ご希望がありましたら、また拍手のコメント欄からお申し付け下さいませ。






(10/21)
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