奏(5部/リゾット)


「あれ、リーダーじゃね?」

「あぁ?」

ホルマジオとギアッチョが急に立ち止まったお陰で、私は荷物を抱き抱えたままよろけて壁にぶつかってしまった。

じんじん痛む肩を擦りながら二人が見ている方を覗き込もうと乗り出すと、ホルマジオは勢いよく私の目をその大きな手で覆ってしまった。


「ちょっ…ホルマジオ!?」

「っ人違いだった!!」

「…だな、名前が見るほどのもんでもねーよ!!あんなのリーダーでも何でも…」
「ごめん、見えちゃった…」



ホルマジオの指が目を塞ぐより一瞬早く、私はその人を見つけた。

黒いコートに、いつもの頭巾は被っていなかったけれど、太陽の光をキラキラ反射させる銀髪は、間違いなく私が大好きな彼のものだった。


「リゾット、笑ってた…」





ー隣の女の子は…誰?









アジトに戻ってソファーに腰かけると、盛大なため息が溢れた。


「気にすんなよ」

ホルマジオが必死に励ましてくれるから、私も気にしてない振りをして帰路に着き…
かと言って、一人になればやっぱりため息しか出ない。
こんなことなら、さっさと告白をしておけば良かった…。


「名前?」

背後からひょっこり顔を出したメローネが、不思議そうに私を覗き込む。


「久々に背後取っちゃった!!もしかして、オレの愛の包容を待ってたとか?」

「触らないでね」

メローネの都合の良い解釈を一蹴して睨み付けると、彼は「恐い恐い」と心にもない呟きで笑う。


「何、何かあったのか?」


薄い笑いを口許に浮かべたメローネが隣に腰掛け、流し目でこちらに視線を投げる様は、きっと何も知らない女の子なら大概が恋に落ちてしまうだろう。


「メローネ…笑わない?」

「あぁ、だから言ってみろ?」



そんなメローネと私は…



「リゾットが他の女の子と笑って「ブハハハ!!」

「………殺す」


悪友以外の何者でもない。










「アハハ、悪かったって!!」

「どうせ…暗殺チームに入っちゃうような女の悩みじゃありませんよ」


「そんなことないって、名前はベリッシモ可愛いよ」


メローネをからかって遊ぶならまだしも、そんな風に励まされるなんて…。

「悔しい…」

「ん?」


「……何でもない」


ニコニコ笑うメローネ相手に、どんな反論も通用しない。
喜ばせるだけだ。



「早く告白しちゃえば良いのに」


チームの他のメンバーにバレバレだと言うことは、リゾットにもバレているのだろうか。
そう考えたりもしたが、リゾットは自分の事になると急に鈍くなる。

昨日も、私がプロシュートとペッシとポーカーをして居るのをみて、「名前は妹みたいだな」と呟いていた。

(その言葉に落ち込む私を、プロシュートは大切に隠していたブランデーを開けて励ましてくれた。)



「だって…」


そうゆう対象に見てもらえる自信がなくて、ずっと言い出せずにいた。

ムッと唇を尖らせてうつ向くと、メローネはふと何かを考える仕草を取って笑った。


「じゃあさ…リーダーやめてオレにしない?」

「は?」


何を言っているのか分からずに目を丸くすると、怪しく笑うメローネに覆い被さられてしまった。



「フフ…オレも男なんだけど?」

「メローネ、ふざけるの止めてよ」



いつもとは別人のような顔で笑って、メローネは顔を首筋に埋めてくる。


「メローネ!!やめっ…」

メローネの体は押しても叩いてもビクともしない。
もうダメかと目に涙が浮かんだ時だった。


「ケホッ…ぅうごぁっ」

「??…メローネ?」


咳き込んだメローネが口からまち針を血と共に吐き出したかと思うと、ドカッと鈍い音を立てて姿を消した。


「メローネ…何をしている」

いつの間に隣に来たのか、リゾットは凄い剣幕で、頭を擦るメローネを見下ろしていた。



「リゾット!?」

「何をしてるんだ?」


私には目もくれずリゾットはメローネを見下ろす。
確かめるように繰り返される言葉が、リゾットの怒りを痛いほどに感じさせる。


「いってぇ、リーダーの蹴り…ディモールト効いた…」


リゾットの珍しいほど露にされた怒りも気にならないように、いつもの軽い調子でメローネは笑って謝る。


「見つかっちゃった?ごめん」

「見つからなければ良いような言い方だな」


リゾットの言葉に、メローネはわざとらしいリアクションで「おや?」と続ける。

「名前とオレが付き合うのにリーダーの許可が必要なの?」


リーダーをキレさせて、なお突っかかる物言いをするメローネも珍しい。
私は間に挟まれて、その迫力に入り込む事もできない。




「まぁいいや、今回はふざけただけだし」

何も言葉を返さないリゾットに笑って言うと、メローネは両手をヒラヒラと振ってそのまま部屋を出て行ってしまった。

取り残された私とリゾットに、重い沈黙が流れる。



「……………」








「………お、おかえりな「メローネと付き合うのか?」



先ほどまでメローネが居た空間を見つめていたリゾットの視線が、静かに私へ移される。


(リゾット、怒ってる?)

感情の読めない表情を向けられ、ゾクリと背筋が氷る。



「……つ、付き合わない」

喉が干からびて、やっとの思いで絞り出した言葉に、リゾットは無表情に「そうか」と呟いて、メローネが出ていった扉へと踵を返す。
このままにしていても、きっといつも通りいられる。
メローネは明日には笑いかけてきて、他のメンバーと笑って雑談だってできる。
リゾットとも……


「っ好きな人、居るし」



昼間の光景が頭を過り、気がつくとリゾットの服を掴んでいた。


「……そうか」

それ以上を聞こうとしないリゾットに、ギリッと奥歯が軋む。



「リゾット」

「どうした?」



名前を呼ぶと幾分か優しくなる表情に、堪えていた涙が溢れて視界が滲む。


「…私、リゾットが好き」



ーリゾットが別の誰かを好きでも。


その言葉は、目の前の衝撃的な光景に発する機会を失った。
無表情に話を聞いていたリゾットが、目を真ん丸にして首まで赤くなっていた。


「……リゾット?」


「いや…」



「おぃ!押すなよ!」
「痛い!!」
「うるせーよ、今良いとこ…うをっ!」



ーガタンっ!!


いつから居たのか
圧力に耐えかねて開いた扉から、メローネを筆頭にホルマジオとプロシュート、ギアッチョとペッシとイルーゾォが雪崩れ込んできた。
呆れたように笑うソルベとジェラートも、ちゃっかり中を伺っていたようだった。


「っ!!…お前達」

「あー…、気にせず続けてくれよ」

怒りに奮えるリゾットを目の当たりにして、メローネを残して全員が一目散に廊下へと駆け出してしまったその時。

「メタリカ!!」

「ごめっ…うぼるぁ」



メローネがカミソリを吐き出す姿は、リゾットの黒いコートに遮られた。


「リ、リゾット!?」

「名前……」



ポツリと耳に落とされたキスと告白に、私は再び涙を浮かべた。









「いいね、ディモールト良いよ…」

「今日は祝いだなリーダー!!気分がいいからソルベとジェラートの記念日とやらも一緒に祝う許可をする!!」

「まじ?ジェラートやったな!!」
「ソルベと俺のコンビ結成記念日…初めて皆で祝うな…」

「兄貴、オレ料理の材料買ってくるよ!!」

「イルーゾォ、俺たちも行くぞ!!ギアッチョ、車よろしく!」

「あぁ!?またかよ!!」

「まっ、待てってホルマジオ」



当人達の意見など関係なく、騒々しく笑うメンバーをリゾットは一見無表情な優しい目で見送っていた。


「私、皆と一緒で良かった」

「…そうか」





明日も今日も皆と一緒に、リゾットと生きていきたい。


(オレから言わなければならなかった…。すまない……オレも名前が好きだ)



息苦しい程の闇で、涙がでそうになる幸せを貴方と…。






全員出したら長くなっちゃうんだぜ!!
ってわけで長編書きます\(^^)/




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