愛遭い逢い(3部花京院)
「上か、いや、下か」
「何ブツブツ一人で喋ってるの花京院くん。」
後ろの席に座っている花京院の様子がどうもおかしい。
文頭にも書いてある台詞を何度繰り返していることやら。お昼の貴重な休み時間だというのにも関わらず、彼は机の上に力なく置いた両手を動かしながら一人ごちている。
その両手にはまるでコントローラーでも握っているかのように、彼の両手は先程からぶれた様子を見せない。
いよいよ心配になってきたので、声を掛けてみれば、花京院君はこっちを見た途端目を見開いて後ろに仰け反った。
「わあ!いつからそこにいたんだい?」
失礼な、とまだ間抜けな表情を浮かべている花京院君を思い切り睨みつけてやる。
「さっきからずっと居たよ。なのに、ずっと考え事しているみたいだから。
しかも独り言呟いてたし。」
「え、僕何か言ってた?」
まさか、無自覚だったというのか彼は。
信じられないと言わんばかりの視線で花京院君を凝視していれば、何故か彼の顔は真っ赤に、茹蛸の如く染まっていく。
「…何か悩み事でもあるの?」
上手くいけば、彼との進展が望めるかもしれない。いや、下手したら「好きな子ができたんだ」って玉砕するって事も無きにしも非ずだが。
こうなったら相談に乗ってあげるしかない!と、机から身を乗り出して花京院君に近付く。
そうしたことで彼との距離は縮まったが、元々仰け反っていた彼の身体は私から一定の距離を保とうと、更に背中を反らした。
「い、いや。名前が気にすることでもないんだ。」
「気にしまくるよ!あんなにぼうっとしてる花京院君なんて珍しすぎる!」
詰め寄る私に彼はもう汗ダラダラだ。季節はもうすぐ冬を控えているというのに。
暖房が利き過ぎだろうか、暑いのか。はたまた熱でもあるのだろうか。
どちらにしろ、その元凶は先程から彼の行動をおかしくさせているその悩みに違いない!
「そ、その…」
「うん。」
「引かないでくれるかい?」
「うんうん。」
「…絶対だよ。」
彼の言葉を一文字すら聞き逃さないように、しっかりと耳を傾けて頷いて見せる。
やっと観念したのか、花京院君は長い前髪を掻きあげながらぽつり、ぽつりと言葉を紡いでいく。
「この間、あるゲームをプレイしてみたんだ。ほら、女の子もやってる、乙女ゲームの…」
「…まさか、ホモに目覚めたとか?」
思わずそんな事を零した私に、花京院君は顔を顰めながら「まさか!」と首を横に振った。
その様子にほっと安心しながら、次の言葉を待つ。(好きな相手が男です、って言われたら私、勝てる気がしない)
「僕がやったのは、その…男がやるゲームだよ。女の子おとすやつ。」
「ああ、なるほど。」
「選択肢を間違えると、くっつかずに終わったりしちゃうんだけど。」
「ふむふむ」
「昨夜、そのゲームをしながら寝落ちしちゃったんだ。
そしたら夢で」
君が、出てきて
「…、それで?」
どうしてその後私が夢に出てきただけで、恥らっているのだろう。
次の言葉を躊躇う花京院君がもどかしい。
私の視線で言いたいことを汲み取ったのか、苦い表情を浮かべて彼は視線を下へとずらした。
「究極の選択肢なんだ。
ここで間違えたら、きっと、僕は君を僕のものに出来なくなる。」
そこで、時間が止まったような感覚に陥った。
今、彼は何て言った?
「ええ、と。つまり…?」
いやいや、早まっては駄目だ。
もし私の考えている事と、花京院君の考えている事が異なった場合、痛い。痛すぎる。
けど、脳内っていうのは都合よく考えてしまうもので。
花京院君は、私の事が、好き、なのだろうか。
「…っ!そこまで言ったのに、僕の言いたい事が分からないのかい?」
ああ、もう。
茹蛸どころじゃない、彼の顔は熟れすぎたトマトみたいになってしまった。
ドキドキしながら、遂に立ち上がって花京院君の胸ぐらを掴む。
ガタン!!と音が教室中に鳴り響いた。
勢いよく立ち上がったせいで椅子が倒れたのだろう、周りの視線が集まっている。けどそんな事より今はこっちが優先だ。
「上か、下かの選択で、僕は君を手放してしまうかと思うと、」
思うと、の言葉は途中で途切れた。
うじうじと話す花京院君の唇なんて、言葉ごと私が食べてしまおう。
私が花京院君の唇を食べてから一瞬間をおいて、外野の声が響く。
(ああ、もう少し静かにしてて)
「っ、三次元に帰ってきて!
だから…本物の私を口説いてみて。」
そんな過激過ぎる私の行動のせいからか、胸ぐらを掴まれたまま花京院君は完全フリーズしてしまったようだ。
・名前を黙ってベットへ強引に引きずり込んで愛を育む
・名前に好きだと告白する
(ね、究極の選択肢だったろ?)
(どうしてこんな選択肢で悩んだの…エロ明め。)
花京院を困らせたかった。
本当ゲームオタク\(^o^)/
伊真
(2/11)
[back book next]
|