あの時あの約束は(?部 空条承太郎)


潮風が頬を撫でる。
明日にはこの日差しで真っ赤になるであろう肌を気にせず晒しながら、ひたすらに砂を掘った。

時々スコップを邪魔するように蟹がちょこちょこと通り過ぎたり、綺麗な貝殻を見つけたり。

まるで天然の宝庫だ、と名前は目を輝かせていた。


すると、少しだけ離れた場所に、同じような格好をして地面にくっついている誰かの姿が目に入った。

その子は恐らく私と丁度同い年くらいの子だと思う。
せっせと掘っては、何かを探しているようだ。

スコップとバケツを拾い、その男の子に近い場所に移動すれば、真ん丸の瞳はやっとこちらへ向けられた。


「何探してるの」


可愛いと思った。
長い睫毛、大きな瞳、ふっくらとした頬。

少し砂まみれになっているが、それはそれでまた可愛さを増す。
バケツの中を見せるようにその子に渡してみれば、わぁ、と男の子は目を輝かせた。

「キレーな貝がたくさん!こんなに!ヒトデもある!」


キラキラ光る笑顔を向けられれば、名前はバケツをひっくり返してこれもね、これもお気に入りなんだよ、と砂場に並べる。
すると男の子も、自分の青色のバケツをひっくり返すと、少し歪な形をした貝殻や、名前と同じようなヒトデをかざした。


「あっここ、首のところにヒトデがある!」


男の子の首には、何かの跡だろうか、星にもヒトデにも見えるアザがあった。

これと同じだね、とヒトデを持ち上げれば、男の子はにっこりと笑った。



それからすぐに仲良くなった二人は手を繋ぎ、他にも探そう!と崖の方へ足を運ぶ。
それがいけなかった。


岩に張り付いた変わった形のヒトデを見つけた名前は身を乗り出して手を伸ばした。


もう少し、とつりそうな手を必死に向けていたその時、ぐらりと重心が傾き、海へとまっ逆さまに落ちてしまった。

落ちる際に男の子が叫ぶ姿を目にしながら、意識はすぐにぷつりと切れた。






あの後、男の子の叫び声で駆け付けた大人にすぐ引き上げられたから良かったものの、近くに大人が居なければどうなっていた事か。

幸い命に別状はなく、墜ちた時に右の首もとを岩で切った程度ですんだ。
浅いとは言え、傷痕は残るでしょう、お医者さんにはそう言われた。


診察室からお母さんに手を引かれながら出れば、同じく綺麗なお母さんと手を繋いでいるあの男の子に出会った。

男の子は泣いていた。鼻水までたらして。

ごめんなさい、
僕がちゃんと見てなかったから、

と泣きじゃくっていた。

「ね、名前ちゃん。僕は、もっと大きくなって、海より大きくなって、つぎはちゃんと助けるから
だから、」

また、会おうね



結局、あの男の子が何て言う子か、名前すら分からないまま時は過ぎた。

過去となったその記憶は風化され、ある日友達と夏休みに海へ泳ぎに行こうと誘われた。

特に予定も無いので誘いに乗った私は、あの日以来のあの海へ繰り出す事に。


そういえば昔、ここで溺れそうになったんだっけな、呑気にそんな事を考えながら、着替えの終わらない友達を外で待っていた。

「きゃーーー!!!」


突然の女の子の叫び声。何事かと思い、慌ててそちらへ向いてみれば、何て事はなく、女子特有の甘ったるい叫び声だった。

その女の子たちに囲まれて真ん中にいる張本人であろう人物は、モデルかと疑いたくなるような容姿の持ち主である。
なるほど、女の子たちが騒ぐ訳だわ。


一人納得していれば、お待たせー、と友達がやっと更衣室から出てきた。
少し離れた所で騒いでいる女の子たちに同じように視線を向けた友達は、「何あれ」と呟いた後すぐに顔を赤らめて口元を手で覆った。


「じょ、JOJOじゃない!?あれ!」


「ジョジョ??」


やだー!知らないの!?とはしゃぎたてる友達が興奮気味に「学年が一つ上だけど、誰も知らない人なんか居ないわよ!校内一もてる男なんだから!」と話した。

元々そういう浮わついた噂に興味がなかった性格からか、全く知らなかったのは敢えて黙っておこう



「え、こっち見てるよ!」


友達の言葉に再び視線を向けてみれば、…確かにこっちを見ている、ようにも見える。

まさか、考え過ぎでしょ。と内心悪態をついていれば、彼の足は確かにこっちへ向かっているようだった。
引き止める女の子たちを気にもせず、ずんずんと向かってくる。

名前が立っている場所の後ろには、丁度足を洗う為の蛇口があるが、もしかしてここに居たら邪魔なのかな、と場所を少しずれてみたものの、やはり彼はこっちに来た。


頭何個分という身長の男が目の前で止まった事に、友人は最早失神寸前、同じく私は背中に冷や汗が流れた。

眉間にくっきり寄った皺が威厳を増す。
何を言われるのだろうと、嫌な鼓動が脈をうっていれば、大きな右手が私の首元へと触れた。


「…あの時の」


ぼそりと呟いた彼の言葉がすぐには分からず、取り敢えず嫌な汗は吹き出るままだったが、


「星の、アザが…」


すぐに分かった。
彼が、あの時の男の子だって事が。

恐る恐る顔を上げていけば、少しだけ笑っている彼と視線が絡んだ。


「そうだと思ったぜ。お前、名前だろ」


あの時の天使のような男の子が、まさかこんなに大きくなっているとは思わなかった。

約束通り、彼は大きくなったという事だろうか。


「あの時は助けてやれなかったからな。」


人差し指が優しく撫でる。それだけでぞわぞわと背筋が痺れ、腰が砕けるかと思った。

甘ったるい空気にくらくらしていれば、隣で倒れる音が聞こえた。友達がいよいよ失神してしまったらしい。


それを見た彼は少し後ろでかき氷を持っている男の人に「花京院、見といてくれ」と声をかけて私の左手を取って突然歩き出した。


あの女の子たちが見えなくなった辺りで、彼は手を離した。
くるりと向き合った彼は、やっぱりあの時の男の子よりかっこよくなっている。


「俺は諦めが悪いんでな。助けてやるから、
俺の目の届く範囲にいろ。」


プロポーズですか、それは。
彼はあの時果たせなかった事を取り返したいらしい。
けれど私ももう子供じゃないから、と言えば、やかましいと一蹴された。


「空条承太郎だ。覚えとけ。」

喧嘩の台詞のような言葉を放たれたものの、もう私は胸のドキドキが止められなかった。



(あんな、か、かっこよくなるなんて)


(こんなに女っぽくなりやがって。尚更離してたまるか)





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最初は幼少期だけで終わらそうと思っていたのに、伸ばし過ぎて話がこじれました。
挫折するかと思いました(;ω;)

伊真


(7/11)
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