願い(5部・暗チクリスマス)


今まで私は、いつだって「ずーーっとみんな一緒に居られますように」と神様にお願いしてた。

だけど、メローネが「みんなが結婚したりとかしたら、それぞれ帰って来なくなるだろ」なんて言うから、少し悩んだ。
一緒に居られないのは寂しいけど、みんなに大切な人が出来たら、それはディモールト・ベネだ。
メローネにしては珍しくマトモな意見。

だから私は少し考えて、「ずーーっとみんなが幸せで居れますように」とお願いする事にした。
何故かみんな変な顔をしていたけれど…。











「あぁ、今日はクリスマスか…」

プロシュートはテーブルに並んだご馳走を見て目を丸くした。イベントの為とはいえ、こんなご馳走が並んでいるのを今までこの暗殺チームとしては見たことがない。


「名前がすげー張り切ってるんだよ」

「は?戻ってきてんのか?」

プロシュートの疑問は尤もだ。
彼女はリゾットと共に家を出て、最近はプロシュート達と同じく多忙な仕事のおかげでめっきり来なくなってた。
少々寂しくはあるが、仕事のせいなのだから仕方ない。
誰もがそう納得してはいたが、イベントのためにわざわざ戻ってくるなんて名前らしいと言えば名前らしい。


「おら、ぼーっとしてねーで手伝えよな!」

せっせと料理を運ぶソルベに文句を言われながら、プロシュートはコートをソファーに投げてキッチンへと入る。
すでに全員で手伝っているために狭くなったキッチンで、忙しなく動き回る名前を見つけてハグをした。

「久しぶりだな」

「そうだね、忙しくて来れなかったから」

「リゾット、相変わらずだな」

ちょっと挨拶してるだけなのに、プロシュートを目を細めて見るリゾットにも、手を振って挨拶をした。
こうして全員が集まるのは、本当に久しぶりだった。
ガラにもないが、ソルベやジェラートじゃなくったって少しテンションが上がる。

別にリゾットがムードメーカーなワケじゃない。
名前だ。名前。



「じゃあ、ご飯にしよう!」

そうそう、このテンションが空気を良くするんだ。

「ハッピークリスマス!!!」

名前の号令で、メンバーはグラスを掲げて乾杯。
和やかに食事が始まるかと思いきや、名前はグラスを掲げたままもう一言。


「そして、ハッピーバースデー!!!」

「「「「「「あ…」」」」」」


忘れていた。
完全に忘れていた!

昨年、ペッシの発案で、クリスマスに全員の誕生日を祝う事にしたんだった。
あんまりにも多忙で、すっかりキレイさっぱり忘れていた。


「わ…ワリィ、言い訳しかでねぇ」

「やだ、みんな忘れてたの?」


喉元過ぎれば…って奴だ。
あんなにも名前を大切にするって心に誓ったのに、仕事を言い訳に彼女の表情を曇らせることしか出来なくなっている。
かと言って、他に取り繕う事が出来るわけもない。

「ご…ごめん」

「そうだと思ったんだよね!」

いい加減、たくましくなりすぎたんじゃないだろうか。
名前は凹む所か、予想通りと笑う。
…いや、たくましいのは元からか…。


「最近すごく忙しいから、みんな忘れてると思った!リゾット、私の勝ちよ!」

「仕方ないな…」

何やらごそごそと袋を漁っていたリゾットは、おもむろにそれからサンタ服を取り出してTシャツの上に着込む。

「ほら、お前達も。忘れてた罰ゲームだ」

「「「「「「何故!?」」」」」」


知ってるか?
逆らえるはずもないんだぜ?
命令口調だったもの。
袋の中を覗き込めば、涙がでそうなほど愉快なクリスマスグッズ。


「しょーがねぇなぁ」

やれやれと
手を出したホルマジオは、トナカイの角らしきものを取り出して頭に乗せる。
その瞬間、そこにいる全員が理解した。
頭ではなく、心で。


「まともなの早い者勝ちじゃねーーか!!」

「オレこれ!」
「ずりーぞプロシュート!」

「あ、それオレが取ろうとしてたんだぜ!?」

「「「「どけーーー!!」」」」



食事は一転、賑やかなパーティーへと姿を変える。
ホルマジオが取ったトナカイを取ろうと、イルーゾォが鏡からソッと手を伸ばし、気づいたホルマジオはリトルフィートで逃れる。
ペッシとプロシュートは、サンタ帽子を賭けて、ソルベとジェラートと睨み合いが膠着状態と化していた。


「ギアッチョ、クリスマスツリーの被り物なの?」

「オレは別に何でも良いんだよ」

さっさと人気の無さそうなものを取って食事を再開するギアッチョを、メローネは笑って眺める。

「…テメー、メローネは何取ったんだ?」


向かいに座るメローネは、先ほどと変わらぬ格好で座っているように見える。


「メローネ、名前のサンタ服知らないか?」

「リゾット、何でオレに聞くんだよ」

眉を寄せるリゾットに、メローネはイラつくほどの爽やかな笑みで返す。
ギアッチョはそんなメローネに一抹の不安を覚えた。


「まさか、…お前っ!!」

「うふふ、サンタスカート可愛くない?」

「ぎゃーーー!!!聖なる夜に何てもんみせんだぁぁああ!!!!」



うっかりブチ割るところでした。(byギアッチョ)


「それは名前のだ。考えれば分かるだろう?」

目を細めるリゾットを見たメローネは、そんなこと知る由もない様に衣装争奪戦を見て笑う名前を盗み見た。

「だって、サンタ服の名前に萌えるリゾットとか見たくない」

「「だな」」

「ち、違…」

つまるなよ。下心見え見えだぞ、28歳。
いつの間にか決着がついたのか、サンタ帽子を被ったジェラートと、ヒゲをつけたソルベが頷く。
ペッシはコートを脱いでサンタ服を羽織り、プロシュートはジェラートと少し形の違うサンタ帽子を被ってた。


「みんな可愛いー!」

「オレも可愛い?」

フフンと笑ってスカートをヒラリとさせるメローネに、名前は笑う。

「いつも通り!」

上手いこと言うな。
確かにいつも通りだ。
いつも通り気持ち悪い。


「グラッツェ!」

良いのかよ。


「ねえ、写真撮ろうよ!」

「ん?」

「それを私にプレゼントして!クリスマスプレゼント!!」


そんなもんで良いのかと言いかけて、分かったと頷いた。
いつだって名前は、みんなと一緒を一番喜ぶ。
全員が並んで、リゾットはカメラのセルフタイマーをセットする。

「おい、メローネ!名前にあんまり近寄るな!オレがそこに入るんだからな!」

「ちぇ、ケチリゾット」

「何とでも言え、ほら早くしろ!!」

メローネがしぶしぶ名前から離れて、リゾットの入れるスペースが開く。

「そう言えば、皆で写真撮るの初めてだな」

「本当だな」

ソルベとジェラートが呟いて、ホルマジオが笑う。

「暗殺チームが写真なんか残してどうすんだよ」


確かに。
全員が頷きかけたところで、イルーゾォが「でも」と反論する。

「でも、もうオレ達暗殺チームじゃないから、良いよな?」

「そうだな」

「ほら、納得したなら良いだろ?ギアッチョもこっち向け。いくぞー」






てんでバラバラの装いの、雰囲気もてんでバラバラのメンバーは、初めて全員で写真を残す。
その面々はどいつもこいつも笑っていて、誰がどう見ても、とてもその男達が暗殺チームだとは思うまい。


「あーぁ、どいつもこいつも情けない顔」

ディスプレイを見て、プロシュートが苦笑いを浮かべる。


「みんなが幸せそうで良い写真だよ!ディ・モールトベネ!!!!」

「そうだよ!」

「ねー、ペッシ!」

「う…おう!」

顔が赤いぞペッシ。

「どうやら私の願いは叶いそうだね」

目を瞬かせたメンバーは、名前の願いを思い出して「あぁ…」と声を零した。
どんなに願っても叶わないなら、もう願うのを止めよう。そう思っていつからか願わなくなった類の願いだ。
ギャングなんて裏社会に、幸せなんてそんなものはないと思っていた。

「確かに、みんな幸せそうだな」

その筆頭のような顔で写っているリゾットが、それを覗き込んで笑う。

「これからもずっとみんなが幸せでいられますように!」


どんな環境でも、どんな人間にでも。
幸せってやつを手に出来るなら。
心が穏やかでいられるなら。
自分達にもそれを手にしていられる気がした。
気づかなかったけれど。

「オレは…しばらく前から、ずっと幸せだったよ」


こっそり呟くリゾットに、名前は幸せそうに満面の笑みを浮かべた。
これからも、キミが居れば。
ずっと…。







2012.12.25.

みなさんにもきっと気づかないような幸せな日々があるんです。←言い聞かせている。
遅れてしまいましたが、ハッピーメリークリスマス(*´▽`*)




(8/21)
[back book next]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -