HappyBirthday(三部承太郎)


突然の来訪者に、私はただ驚いて固まっていた。

「出掛けるぜ、支度しろよ」

俺様にもほどがある。
部屋着でくつろいでいた私を部屋に押し込んで、つい最近付き合い始めた彼…空条承太郎はベッドにドカッと腰をおろした。
どうやら拒否権はないらしい。

「着替えないのか?」

「どこに行くの?」

「着替えを手伝って欲しいのか?」

「……着替えます」


私の言葉に満足したらしい。
承太郎は帽子をかぶり直して腕を組んだ。
部屋から出てくれる様子はないので、仕方なく隣の部屋で着替えて手早くメイクを済ませた。

「お待たせ」

「行くぞ」


行き先も説明されないまま、承太郎に手をひかれて家を出た。
背の高くて脚の長い彼に比べて背丈も脚の長さも劣る私は、承太郎に置いて行かれないように必死に歩いた。
正直、競歩状態だ。

手を繋がれていなかったら、きっととっくに置いて行かれただろう。



「ねぇ、承太郎」


返事はない。

(……なんでこんな日に)


今日は私の誕生日だった。
けれど、承太郎はそれを知らないだろう。
言ったことないし、聞かれたこともない。
告白したのは私からで、多分…ほんの気紛れでオッケーしてくれたんだ。


「どこ行くの?」

「いいから」


黙ってついて来いって事だろうか。
質問を諦めて、承太郎の背中を追いかける。

「待って」と言いたいけれど、ずっと好きだった承太郎とせっかく付き合えたのに、面倒くさい女だと嫌われたくなくて言葉に出来ない。


「いらっしゃいませ」

「二人だ」

「こちらへどうぞ」

飲食店へ入り、二人用のテーブルへ通された。
ずっと承太郎を追いかけるのに必死過ぎてどの店に入ったか見ていなかったけど、よく見ると私がよく入る店だった。

「ケーキビュッフェ?」


似合わない。
可愛らしい白いチェアーに座った承太郎は、私の視線に気づいてムッとしたようだった。

「似合わないと思っただろ?」

そりゃあもう、承太郎さんがケーキを幸せそうに頬張る姿が見れたら一ヶ月はニヤニヤ出来そうです。


「ケーキ好きなの?」

「…お前、今日誕生日なんだろ?」

「……知ってた、の?」


何度私を驚かせるんだろう。
目を丸くする私に、承太郎はフッと口の端をつり上げた。

「付き合うって決めた女の誕生日を祝うくらいの甲斐性はある」

「興味ないのかと思った」

「誕生日か?」

「ううん…私に興味ないのかと……」


自信ないし。

承太郎は大きなため息をついてうつ向くと、「待ってろ」と言って席を立った。

「ほら」

コトッと目の前に置かれたケーキは、私の好きなナッツたっぷりのチョコブラウニー。

「あとはこれだろ?」

「紅茶?」

「ストレートな」

私がいつも食べるケーキの組み合わせ。
パッと顔を上げると、承太郎は「やれやれだぜ」と苦い顔をした。

「興味のない女と付き合うほど困ってねぇよ」

それもそうだ。
学校でも「ジョジョ」の愛称で人気も抜群なのだ。
私でなくても、暇潰しなら相手はいくらでもいるだろう。


「…他にも何かあるなら言え」

ジッとケーキを見つめる私の眉間を、承太郎がトントンと指差した。
シワでも寄っていただろうか。


「承太郎って…私の事好きなの?恋人として?」

これには承太郎も面食らったように瞠目し、何度か口を開いては閉じ、眉間に深いシワを寄せて険しい顔をしながら帽子を深く被った。


「浮かれて周りから情報集めるくらいにはな……」

ボソッと聞こえたその言葉に、私の頬は多分真っ赤だ。
心臓が早鐘を打ち、うつ向きかけた私は承太郎の耳が赤い事に気づいた。

どうしよう。


「承太郎…」

「なんだ」

「どうしよう。スゴく嬉しい!!幸せ!!」

思わず頬が緩んで笑みが溢れる。
幸せ。
スゴく幸せ。

「…早く食え」

「?…うん」

承太郎が取ってきてくれたブラウニーを口に運ぶ。
甘くて柔らかな中にナッツの歯ごたえが楽しい。

「美味しい」

「良かったな」

「承太郎も食べる?」

一口分をフォークで差し出すと、承太郎は困ったように眉を寄せた。
(と言うか、ずっと眉間にシワ寄せてるような気もするけど)


「あ…っと、これは女の子同士でやることか」

一口交換とか、承太郎相手に恥ずかしい。
苦笑いで誤魔化して手を下げようとすると、大きな手がフォークを持つ私の手を掴む。


「…嘘」


身を乗り出してブラウニーを頬張る承太郎の手が、私の手からゆっくり離れる。
「花京院ともしたんだろ?」

そう言ってコーヒーを飲む承太郎は、少し不機嫌に見えた。

「チェリーをあげたけど…」

「……強烈だったろ」

「確かに」


フフッと笑うと、承太郎も薄く笑みを浮かべた。

「食べたか?」

「うん」

「帰るぞ」

「ビュッフェなのに一個しか食べてないのに!?」

「また連れて来てやる」

グイグイ引っ張られて、会計をして店を出る。
来た時と同じように歩く承太郎に、私は慌ててしがみついた。


「待って」

「なんだ」

「速いよっ」


息を切らす私に、承太郎は振り返って「あぁ」と踵を返す。

「どこ行くの?」

「帰る」

早い帰宅。
せっかくメイクまでしたのに、もうさよならか。

「おい、勘違いするな」

「え?」


グイと引っ張られ、バランスを崩して縺れた足で承太郎の胸に倒れ込む。
たくましく引き締まった身体に、思わず息を飲む。

謝ろうと上を向くと、開きかけた口を承太郎のそれが塞いだ。


「名前の家に帰るだけだ。店でこんなこと出来ねぇからな」


多分私は真っ赤だろう。
承太郎とした初めてのキス。
目を閉じた方が良かったかしら、なんて頭の端で考えながらもそんな余裕なんかない。
もちろん、ここがまだ外で、誰かに見られているかも知れないと考える余裕もない。

承太郎の整った顔が再び近づき、閉じられた瞼を縁取る睫毛の長さに見とれながら私はそっと目を閉じた。

「HappyBirthday、名前」








(ねぇ、なんでケーキビュッフェだったの?)

(花京院が女は甘い物が好きだって言い張ってたからな。それに…)

(それに?)

(…花京院と行ったって聞いたからな)

(承太郎、独占欲強い方?)

(さぁな、試してみろよ)



fin

こんなんでお祝いになるのか謎だが、とにかく誕生日おめでとう!!
伊真に捧げます(*´∇`*)

2012.03.13



(6/11)
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