らっきーあんぶれら(3部承太郎)
ぱしゃんと水溜まりが跳ねる。
足元の水が派手に跳ねるけれど、それどころじゃない。
今日おろしたばっかりの服だってすっかりびちゃびちゃに濡れてるし、この靴だって一番のお気に入りなのに…もう気分は最悪だ。
バケツをひっくり返したような雨に、仕方なく友達との待ち合わせ場所を抜けてひとまず近くのバス停に非難しようとした矢先。
皆考えている事は同じなのだろう。
屋根付きのバス停には既に人が非難していて、びしゃ濡れの私が入れる雰囲気ではなかった。
「…どうしよ」
今更雨を凌ぐ場所にたどり着いた所で最早意味はないのだろうけど、今時防水性のない私の携帯にはどうしても屋根は必要だ。
取り敢えず約束をしている友達に一刻も早く連絡を取ろうと、求めていた屋根に背中を向けて再び走ろうとした時。
「名前」
聞き慣れたような、けれど違う意味で慣れてないような低い声が耳に届く。
「何してる」
「く、空条くん!」
名前は思わず穴に入りたくなった。
よりによって、こんな悲惨な姿を好いている人に見られるなんて。
羞恥からうっすら目に涙を浮かべるもの、悲しいような、嬉しいような感情は入り混ざってごちゃごちゃだ。
校内の人気No,1とも言える人に声を掛けられるなんて、地味めな私からしてみたら奇跡とも言える。
あの、JOJOに。
「ど、ど、どうしてここに」
あぁ、もう。
可愛くないったらありゃしない、と名前は挙動不審な自分に内心悪態をつく。
声は上擦って震えてるし、顔だって目も当てられないくらい真っ赤なのだから。
そんな名前に気にする事もなく(元々そんな事を気にする人じゃないと思うが)、承太郎はツカツカと歩み寄る。
(わ、そんなに寄ったら空条君の服濡れちゃう)
「びしゃ濡れじゃねぇか。」
承太郎は片手に持った大きな黒い傘を少し傾ける。
それだけで、名前に降りかかる雨はぴたりと止んでしまった。
「何処か行く途中か」
ひぇぇえ!今私空条君と会話してる!?
もう何が何だか分からない心中だ。
訳も分からず涙が出てくる。
突然泣き出した名前に承太郎も、どうしていいか分からず眉間の皺を深めた。
「おい。何かあったのか?」
取り敢えず首を横に振る名前。
勘違いされては、と最早必死だった。
「と、友達と会う約束してて…」
「…。ドタキャンされたか?」
「ち、違うの。連絡しようとし、たんだけど」
「…。」
あぁ、本当に最悪だ。
雨とは違う暖かい雫が頬を伝うのが分かる。
空条君はいい迷惑だろう、偶然会ったクラスメートが声を掛けた突然泣き出して。
迷惑この上ない。
嫌われた、絶対嫌われた。とますます自己嫌悪に陥り挙げ句の果て泣きじゃくりだした名前に、承太郎はお決まりの台詞を溜め息と共に吐き出した。
「やれやれ、だぜ。
いいからこっち…来い。」
大きな手のひらが腕を掴み、少し強引に引っ張り歩き出す。
名前の踏み出した一歩のせいで水が跳ねて承太郎のズボンの裾がぬれたようだが、当の本人は気にもとめていないようだ。
ずんずんと腕を引いて歩く彼の後ろを小走りで追い掛けながら、たどり着いたのはシャッターの降りた店の前だった。
承太郎はやっと掴んでいた腕を離し、さしていた傘を閉じる。
そこまでの承太郎の一連を見て、ここが屋根のある場所だとやっと気付いた。
「すぐ泣くんだな、おめーはよ。」
「う、ごめ…んなさい」
「いいや、それも良い。」
何が良いのだろう、と首を傾げる。
その時。うっすらと笑みを浮かべた承太郎の表情に、思わず息を止める。
普段の彼からは想像出来ない柔らかい表情を、すぐ傍で黄色い声を上げる女子ですら見た事ないだろうと思うと、不思議と少し気持ちが軽くなった。(単純な女なのかな、私)
「名前ー!!」
そんな貴重な時間も束の間。
向こうから傘を持って走って来る友達の姿に、隣にいる承太郎の表情が一気に冷気を帯びた気がした。
「お前、まさか傘持ってなかったのかよ」
「あ、うん。
家出る時には降ってなかったから。」
「お前なぁ…
ま、向こうで他の奴ら待ってるからさ!早く行こうぜ!」
「…おい。」
承太郎の不機嫌そうな声が聞こえたと思った次の瞬間、名前の友達の男子生徒は悲鳴を上げ
「お、お前さ、なんかすげー濡れてるからまた次の時に遊ぼうぜ!」
と言って走り去ってしまった。
まるで獲物として目をつけられた兎の如く。
その後ろ姿をぽかんと見ていれば、承太郎の長い指が名前の指に絡んだ。
驚いて承太郎を見上げれば、彼はもう片方の手で帽子のつばを持って深く被り直す。
「…だとよ。
お前今から暇だろう?」
「え、え、空条く」
「暇、だろう?」
もう一度先ほどより強く問われ、名前は思わず何度も頷く。
その様子に満足したかのような笑みを浮かべた承太郎に、名前はまた首を傾げた。
「ここからじゃお前の家より俺の家の方が近いな。
そんな濡れたままじゃ、辛いだろ?」
「!」
耳元で囁かれた言葉に、何故か心臓が壊れるかと思った。
何故承太郎が名前の家を知っているかなんて、今はそれどころじゃない。
意味もなく卑猥な言葉に聞こえ、名前の目にはまた涙の膜が張られた。
「安心しろ。取って食うような真似はしねぇぜ。
好物は最後まで取っておく主義だからな。」
ついに耳まで真っ赤にさせた名前を鼻で笑いながら、承太郎は絡めた指をそのままに、再び傘をさした。
(雨が降るってのに、傘も持たずに出掛けるのを見ておきながら…追い掛けずにはいられねぇ)
(そんな事、どうして知ってたの?)
(お前の事で知らねえ事なんかねぇぜ)
((…空条君、それどんな殺し文句なの))
承太郎に濡れたまんまとか言われたら、もうすぐにえっちぃ感じがしちゃう私は末期\(^o^)/
伊真
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