全部忘れて(5部ホルマジオ)
「ちょっと、聞いてる!?」
「あー、聞いてる聞いてる」
余程嫌な事があったらしい。
名前はオレの酒を片手に酔っぱらってくだを巻く。
ほとんど下着の状態の名前は、愚痴を吐くのかと思えば弱音を吐いて涙ぐむ。
そんな名前はオレの昔馴染みだ。
チビの頃からずっとオレについて歩いていた名前は、オレがギャングになっても暗殺チームに入ってからもずっと変わらずオレに絡む。
ただし、別に彼女なわけではない。
……今は。
「私が悪いの!?」
「悪いかどうかってのは分からねぇが、お前の運が悪かったのは分かる」
「…そうなのよ。今日は朝から散々で……」
グスッと涙ぐむ名前の頭をかき混ぜてやると、「ホルマジオー」と泣きつかれた。
ったく、しょうがねーなぁ。
「あれ、名前?」
「あ、メローネ」
「何その格好!!ベリッシモおいし「メローネ、あっち行け」
名前の格好に興奮するメローネを追い払って、自分のシャツを肩にかけてやった。
ちったーマシだろう。
メローネには他人の部屋に入る礼儀作法を後で叩き込んでやろう。
『シャワー貸して』とオレの名前が涙でグシャグシャの顔でドアを開けた時は何事かと焦ったが、シャワーを浴びてキャミソールとパンツで出てきた名前にはマジにビビった。
『聞いてよ!!』
化粧は綺麗に落としているが、目に涙を浮かべたまま名前が噛みつかれ、そのままの流れで酒を飲んで今に至る。
「どうしてこんな目に…」
うぅっと泣く名前の背をさすってやると、背中に回された腕に力が込められた。
こんな時ばかりは、自分が露出の多い格好をしている事を酷く後悔する。
(あー…コイツ、今ブラジャーしてねぇな)
悲しい男の性だが…名前の泣き言よりも、柔らかな膨らみが当たるのが気になって仕方ない。
理性を総動員させて背中をポンポンと叩けば、名前は幾分か冷静さを取り戻したように泣き止んだ。
「しょうがねーなぁ…この酔っ払いは」
「しょうがねーって何よ!」
「お前みたいな奴には、オレくらい面倒見の良い奴が必要だって事だよ」
「面倒見が良いって、普通自分で言う?」
名前はそう言って笑みを浮かべた。
やっぱり名前は笑っている方が良い。
「…じゃあホルマジオが私の面倒見てよ」
「?……見てるだろう」
酔っ払いってやつは、突然何を言い出すのか分からなくて困る。
「そうじゃなくて…」
酔いが回った赤い顔で見つめられると、さすがのオレも理性が弱る。
チビの頃とは何もかもが違う。
体つきも話す内容も、……オレの気持ちも。
「そうじゃなくて…」
「じゃあオレの彼女になれ。一生面倒見てやらぁ」
これは賭けだ。
これまでの関係を維持するか、踏み込むか。
オレは興味のない人間を面倒見るほど優しい人間じゃない。
酔いが回って焦点が合わない目を真ん丸に開いた名前が何かを言う前に、その口をふさいだ。
抱き締めた身体が強ばってオレの胸を押し返す腕に力が込められても、構わず深く口づける。
オレは踏み出す方に賭けた。
「まさか、オレが好きでもない奴のやけ酒に付き合うような慈善家に見えたわけじゃないだろう?」
笑って言い放てば、名前は口を金魚のようにパクパクさせる。
「…妹くらいにしか思われてないかと思った」
ようやく声になった名前の言葉に、オレは負けを覚悟した。
確かに、恥じらいもなく露出度の高い格好で出てくるのだから、男を意識されてないのだろう。
「残念だったな。オレはお前の兄貴にはなれねぇ」
「残念?違うよホルマジオ」
名前は身体中の力を抜き、オレの胸に耳を当てる。
情けないほど早鐘を打つ心臓の音も、聞かれているに違いない。
「私は妹から昇格出来ないんだと思ってたから、嬉しい。ホルマジオ大好きだもん…んー……好き…」
フニャッと笑う名前は、そのまま沈黙した。
すぐに寝息を立て始めるに違いない。
「ったく……しょうがねーなぁ」
いつものように名前を抱き上げて、起こさないようにベッドに寝かせる。
「ブォナノッテ」
子どものようにすやすやと眠る名前の頬にキスをして、いつもはソファーに寝るんだが、今日は隣に潜り込む事にした。
明日起きた時、名前がどんな反応をするか楽しみだ。
きっとふっくらした頬を赤く染めて、今さらの様に恥じらうんだ。
「え……っと…」
なんて可愛く戸惑いながら。
「ボンジョルノ、名前」
「え……っと」
ほらな。
「ずっと好きだったんだ」って言ったら、お前は昨日あった嫌な事なんか全部忘れるくらい驚くだろうな。
終
やけ酒を呑む自分すらネタにしてしまう病気。
ホルマジオは絶対世話してくれるんだぜ。そう信じてるんだぜ。
マジオさんの面倒見の良さは、常に色んな小説に滲んで止まりません。
絶対良い奴だと思う。
空
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