憂愛(とも様リクエスト、花京院)


※ちょっと暗いかも、です。

※設定は、DIOに肉の芽を植え付けられ承太郎と同じ高校へ転校した時位です。














その日私が学校へ着くと、いつもより騒がしい教室が同じ話題で盛り上がっていた。

どうも、私のクラスに転校生がやってくるらしい。


友達に詳しく事情を聞けば、窓際の一番後ろの空席に見た事のない校章のついた鞄が席の横にひっかけてあるのだという。


うちの学校は鞄が指定されている。確かにあれは見た事のない鞄だ。



もう一つ驚いた事に、いつもなら他の男子には目もくれずJOJOの話で持ちきりの女子たちが、「なかなかカッコいい人だったわ!」と声を荒げて会話を繰り広げていた。


あの子たちがそんなに褒める男子なんて、一体どんな人なのだろう…と緊張と好奇心で無意識に胸が早鐘を打つ。



まあ、もしかすると関わることすらあまりないかもしれない。

どうしてか、転校生というのは優遇されるものだ。沢山の人に囲まれてしまい、話をするきっかけすら回ってこないのが、きっとオチだ。





やがて、クラスの大半がその話で盛り上がっている最中、ホームルームのチャイムが鳴り響く。



ざわついていた会話は止み、落ち着きを取り戻した皆はバラバラと自分の席へと戻っていった。

あとは先生がここへ入って来るのを待つだけだ。



恐らく、噂の転校生も後ろに着いて入ってくるだろうと予想している皆は、やけに口を閉ざしている。



そんなやたら静かな教室に突然、がたん、と大きな物音が響いた。



いや、実際はそんなに大きい物音ではにかもしれないが、この静寂を切り裂くには十分な音だったと思う。



それは、幾分頭の薄い先生が扉を開けた音だった。

ぴん、と空気が張りつめられる。



いる、先生の後ろに、もう少し背の高い人影が。



視線は一気にそこへと向けられた。





「いやーーー!!かっこいいじゃない!」





興奮が抑えられなかったのだろうか。

女子が椅子を引いて立ち上がり、悲鳴に近い黄色い声を上げた。



それに続き弾かれたように、皆次々と騒ぎ始めもう教室は好き放題だ。

先生の制止する声も、最早誰一人として聞いてなどいない。



けれど、そんな中、私はまるで背筋が凍るような思いをした。



(この人、恐い)



それだけの注目を浴びているというのに、当の本人だけは、何とも言えない冷たい表情を浮かべていたのだ。



「これからお世話になります。花京院典明と申します。

どうぞ宜しく。」



まるで機械音のように発せられた言葉は、騒がしいクラスには一切も届いていないだろうに。

自己紹介を済ませた気でいる彼は、そそくさと鞄を掛けている席に着いた。



丁度その席は私の左隣にあたる場所で、呆然とその一連を見つめていた私に気付いたのか、彼はゆっくりと私の方へ視線を流した。

笑いもせず、呆れた様子を見せる訳でもなく、ただ、その瞳は私などではなく、まるでただ黒を映しているようにも見えた。











そんな事があってから数日後、クラスは相変わらずいつもと同じだ。

同じ、というのは、彼が来る前と同じ状況、とも言える。



あれだけ騒がれていた筈の花京院君は、今は落ち着いて、ある男子のグループの中へと混じっていた。



話の内容は、ほとんどがゲームの話だということは分かった。

どうやら彼の趣味はゲームらしい。



「で、花京院。今日は僕の家に来てゲームするか?」



「いや、ちょっと用事があるんだ。悪いね。」



けれど、馴染み切っていないような彼の態度に、グループの男子は「そうか」と言いつつもどこか余所余所しい。



彼には友達がいる。けれど、果たして友達と言える存在かどうか、私には判断し辛いところだ。



休憩時間、彼は友達とゲームの話で盛り上がる。

けれどその内の一人が遊びに誘えば、彼は一線引いたようにいつも退く。



一線引いた、というのは間違いかもしれない。

どうも、常に彼は周りと一線引いているようだ。



そんな彼が私に話をかけてきたのは、暫らくしてからの事だった。



「名前さん、それ、嫌いなの?」



突然の事に、私は目をぱちくりさせてしまった。
隣の席だというのに、今まで一度も会話をしたことがなかったから。



恐る恐る花京院君の指をさす方へ目線を動かしてみれば、私が弁当の蓋に避けていたサクランボにたどり着いた。



別に嫌いな訳ではないが、果物をご飯の途中で食べるのはルールに反するようで嫌だっただけなのに、私は何となく首を縦に振った。



「良かったらそれ、僕にくれないかな」



「え、サクランボ好きなの?」



問い返せば、彼は速攻頷いた。

嫌いと言ってしまったものはもう取り返しがつかない。

私はそれを花京院君に渡した。



「ありがとう。感謝するよ。」



そんなに嬉しかったのかな、とほんわり心を温かくさせていれば。

その次には、私は目を見開く事となる。



(え…ええ!?)



まさに、レロレロっていうやつだ。

驚くことに、彼のサクランボの食べ方は…その、失礼かもしれないが、少しえげつないと思う。



「うん、美味しいな。」



初めて見たその時の彼の表情は、今まで抱いていた彼の印象を打ち砕くには十分なものだった。





奇妙な事に、彼とはそれからよく話すようになった。

しかし相変わらず彼の何処か線を引いた接し方は、今でも変わっていないのだが。



ずっとそれだけが気になって、遂に私は彼に訊ねてみる事にした。



彼は私の問いに首を横に振って、まだ浮かない顔をしながら地面に視線を落としてしまった。



「名前さん、僕は君とは本当の友達にはなれないんだ。」



頭を鈍器で殴られたようだった。

思わぬ言葉に何も言い返せないでいると、苦笑しながら彼は私の髪を一束取って指に滑らす。



「僕は本当の友達が欲しいんだ。けど、誰にも分かってもらえないと思う。

君にも。



例え、友達以上のものを君に抱いたとしても、ね。」



どうして?どういう意味なの、その言葉たちが喉に引っかかる。



悲しげな瞳の色を宿した彼は、私の髪を離すと、一歩私から距離を取ってしまった。



「これが、見えるかい?」



さあ、と柔らかな風が吹きぬけた。

と同時に、彼の背後に立つそれに目を奪われる。



緑色の、とても綺麗なエメラルドグリーンを持ったそれに。



「…綺麗。」



思わず零れた感嘆の言葉に、今度は花京院君が目を見開いた。

心外だ、と言わんばかりに。



「…見えるの?」



「見えるのって…何言ってるの?」



「…嘘だ。信じられない。」



どうしたのだろうか。

彼は口元を押さえて、わなわなと肩を震わせている。



「どうしたの?花京院く…っ!?」



突然、彼の大きな手のひらが私の肩を引き寄せた。



すっぽりとはまってしまった私の身体を、更に抱え込むようにして花京院君の腕の力が強まるのが分かる。



息苦しさに背中を少し叩くけれど、彼は一向に力を弱めるつもりはないらしい。



耳元に聞こえる、彼の鼻を啜る音。



「本当に見えるのか…

こんな…まるで夢を見てるみたいだ。」



譫言のようにそればかりを繰り返す彼の背中をゆっくりとさすってやれば、やがて彼は私を少し離した。



耳まで赤くなった花京院君は、目元に涙をうっすらと浮かべながら微笑む。



「嬉しいんだ。君が、見えるだなんて。」



ずず、と鼻を啜った彼は再び私を掻き抱く。

強く、深く。









「僕と、付き合って下さい。」



その言葉を涙ながらに紡いだ花京院君のせいで、私にも涙が移ったみたいだ。



何度も、何度も頷いた私に、彼は軽く唇を落とした。












リクエストして下さったとも様にささげます!

もう少し続きを書こうと思ったのですが、どうにも死ネタになりそうなのでやめました…

脳内ストーリーでは、その後承太郎が牢屋から学校に戻ってきて、花京院と出会いそして肉の芽を取り除き、すぐエジプトに立ち…そして、還らぬ人となる…まで完全に出来上がってましたが。

嫌だ、そんなの辛過ぎる。と思いそれはボツにしました(―_―)



けど、この小説での花京院の夢ヒロインへの想いは、決してDIOの肉の芽ではなく、彼自身の想いなのでそこは安心してください\(^o^)/



それより、どうしてリクエストで暗いんだ…!

本当に申し訳ございません(p_-)



(5/11)
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