やれやれ、クリスマスだぜ(3部承太郎)X'mas企画
どこに行っても、街は色とりどりのカラーで埋め尽くされていた。
スーパーに入ろうが、近所の酒屋さんですら同じようなBGMが流れている。
そう、今日は12月25日。
世間は、クリスマスなのです。
「え?」
「どうしても休みが欲しいんです!」
クリスマス。勿論私のバイト先も例外ではない。
12月25日に休みの申請など受け付けてくれる筈もなく、しかしなんとか午前中の早上がりのシフトを組む事は出来た。しかし、同じバイト先の後輩がどうしても休みが欲しいと言うのだ。
で、現在に至る。
「…仕方ない。」
「ええ!?代わってくれるんですか!?ありがとうございます!」
ぽつりと呟いた私の言葉に、弾かれたように後輩は喜びを表しながら休憩室を出て行った。
残された私はその行動の速さに驚いたまま固まっていたが、ポケットに入った携帯を開いてがっくりと肩を落とす。
承太郎に何て言えばいいのだろう。
誰も拾ってくれることのないため息を零しながら、気の向かないメールを打つ。
少しでも気に障らないように、何度も文章を確かめては消し、読み返しては消し、を繰り返して結局送ったのはこのメールだった。
ごめん、バイト夜も入った。
20分もかけて書いたのが、これだけって。
はっきり物の言える人間だったら、苦労しないだろうに。
もう一度ため息を吐こうとしたその時、机の上に投げていた携帯がブルブルと震えた。
慌てて携帯を拾うと、彼らしい至って簡潔なメールが届いていた。
分かった
これだけでは怒っているのかいないのか、判断するのは難しいところだ。
寧ろ怒ったメールを一文でも送ってくれた方がいい。
その方が私も反省出来るというのに。
本日何度目か分からないため息が、また落ちた。
正直飲食業にとってクリスマスは鬼のような日だ。
お客さんとしてディナーを食べにくるだけなら、最高の日だろうが。
厨房から出来上がった料理をテーブルへ次々と運びながら、承太郎の事をふと考える。
彼は今何をしているだろうか。
結局、あれからメールはしていない。
返しても言い訳にしかならないような気がして、送り返すのはかえってよくない気がしたからだ。
あの承太郎の事だ。あまり気にしてないかもしれないが、クリスマスがオフと知ったら、一体何人の女子が詰め寄ってくるだろうか。
本来、私なんて相手にされないだろうが、どうして彼は私を選んでくれたのだろうか。
今それを考えても答えは未だ出ない。
でも、もしかしたら、今頃彼は違う女の子と。
そこで思考はストップした。
私が悪いのに、どうして彼の事を悪く思いネガティブになれるのだろうか。
ごめんね、承太郎。
心の中で彼に何度も謝った。
「お疲れ、名前ちゃん。もう上がっていいよ。」
「あ、ありがとうございます。」
店長に上がっていいと言われ、お疲れ様です、と他の従業員に声を掛けながら更衣室へ向かい、服を着替えてそそくさと店を後にした。
綺麗にライトアップされているイルミネーションを横目に、帰路に着く。
カップルが寄り添いながら写真を撮ったりとクリスマスらしい風景に、何となく泣きたい気持ちになってきた。
脳内で勝手に変換される、承太郎と空想の女の子に、気持ちは更に泥沼へ浸かっていく。
いよいよ視界が涙でぼやけてきた頃、とん、と肩になにかが置かれた事に気付く。
大きな暖かい手のひらに慌てて振り返ると、鼻の頭を少し赤らめた、
承太郎が私を見下ろしていた。
「名前、終わったのか?」
機嫌は悪くないらしい。
けれど、どうしてここにいるのだろう。
目を丸くさせたまま承太郎を見上げていれば、彼は首に巻いていたマフラーを少し乱暴に解いた後、私の首元へそれを巻きつけてきた。
「じょ、承太郎」
「何だ。」
「どうしてここに…」
私の涙が頬へ一筋流れる。
承太郎はごつごつした親指でそれを拭いながら、「来ちゃいけねぇか」とぶっきらぼうに答えた。
涙を拭われながら、首を何度も横に振っていれば、頭上で静かに笑う声が聞こえた。
「正直クリスマスなんざ、俺には興味ないものだが。
お前は楽しみにしてると思ってたしな。」
「でも私、約束してたのにこんな事になっちゃったし」
「どうせ断れなかったんだろうが。てめぇの事なんか見通しだぜ。」
そんな事一言も言ってないのに、どうして彼は分かるのだろうか。
また涙が頬に流れた。
「まあ、そんなところも気に入ってるんだがな。」
行くぞ、と彼は私の右手を掬って歩き出す。
たったそれだけで、私たちは辺りの甘い風景に溶け込んでしまった。
「承太郎、ごめんね。」
私の言葉に歩き出した足を止めた承太郎が、何がだ、と怪訝な表情で振り返る。
「私、てっきり誰かと遊んでいるんだとばっかり思って。」
「誰とだ。」
「…ええっと。」
言葉を濁す私に承太郎の眉間の皺が深まっていく。
「俺はお前が思っている程遊んじゃいねえぜ。ぎゃあぎゃあ五月蠅い女は嫌いだしな。」
「…うん。」
納得いかないような表情を浮かべていれば、承太郎は舌打ちを一つして、強引に私の腕を引っ張る。
そうしたことでバランスを失った私の身体は、目の前の承太郎に飛び込んでしまった。
突然の一連の動きにどうすればいいかと身を固くさせていれば、承太郎は私の顔を覗きこみ、意地の悪そうな笑みを浮かべる。
妖艶とも言えようその表情に見とれていれば、いつの間にか彼と私の距離はどんどん狭まって、静かに唇が合わせられた。
重ねては離れ、また重ねて。
深くもないというのに、やけに官能的なキスに私の頭は最早ショート寸前だった。
それから頬を一撫でして唇を離した承太郎は、ぼうっとしている私の手を握って再び歩き出す。
「イルミネーション、まだ間に合うだろう。ぼやっとしてねぇで、さっさと行くぞ。」
「…っ、誰のせいだと!」
「あんな子供騙しのキスなんかに腰砕けになるなら、もっと大人のキスしてやったらどうなるんだろうな。」
「!!承太郎の馬鹿!」
「よく言うぜ。そんな馬鹿を好きになったのは、一体どいつだ。」
それを言われたらおしまいだ。
だけど言われてばかりじゃいられない私は、彼の頬に大人のそれとは程遠いキスを一発かましてやった。
(メリークリスマス、承太郎)
(やれやれ、泣いたり笑ったり…手のかかる女だ。)
もう書きながらよく分からない内容になってしまった\(^o^)/
とりあえずメリークリスマス!!
伊真
(4/11)
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