ボスの夢。(5部・ジョルノ)X'mas企画
「どうしても…ですか?」
ジョルノがこうして何度もだめ押しするのは珍しいことだ。
隣に座っていたミスタはガックリ肩を落として電話を切るジョルノを横目に、コーヒーを飲みながらテレビを付けた。
画面の中では、サンタクロースの格好をしたアナウンサーが、クリスマスの街をあちらこちらと取材して駆け回っている。
「そういやぁクリスマスか」
「ミスタは…トリッシュと過ごすんですか?」
ハァとため息をつきながらもミスタの言葉に反応したジョルノがそう訪ねると、ミスタはちょっと照れくさそうに「独り身同士の寂しい飯会だっつーの!」と慌てて関係を否定する。
「何が『独り身同士の寂しい飯会』ですか…」
途中から下を向いていたジョルノは、握った拳をブルブル震わしていた。
ジョルノを囲む空気がゴゴゴゴとあやしい雰囲気を醸し出す。
「相手に仕事を優先されるよりマシです!!」
ジョルノがドゴォと物凄い音を立てて机を叩くと、壊れたそこにフワリと花が咲き乱れた。
(ゴールドエクスペリエンス…)
固まったミスタに背中を向けたジョルノは、「すみません…頭を冷やしてくるので、トリッシュによろしく伝えて下さい」と部屋を出ていった。
咲き乱れた花は名前が好きなものばかりで、ミスタはしばらく迷ってその花を摘んだ。
『ごめんなさい、どうしてもお店を休めなくて…』
名前がそう言って何度も電話口で謝るのを聞いても、ジョルノは納得できなかった。
いっそのこと、名前が働く店を今日は営業出来なくしてやろうかとまで思ったが、悲しむ名前が見えた気がして止めた。
「でも…付き合い始めて最初のクリスマスですよ?名前…」
吐く息が白く染まる。
道には仲良く寄り添って歩くカップルが、幸せそうに話をしている。
ジョルノには夢があった。
暖炉に灯した火が、夜を優しく照らし、部屋を温める。
その中で愛する人と細やかなディナーを、祈りを捧げて楽しく食べる。
ただそれだけ。
しかしジョルノには、何より得難い幸せな夢だった。
だからこそ、愛する人が出来た今になって「仕事」なんてものが障害になるのが許せなかった。
怒りに任せて街を練り歩き、日が傾いて辺りが暗くなった事に気づいたジョルノはようやく帰路についた。
あちらこちらで美しいライトアップが施され、教会からは聖歌が聞こえる。
聖なる夜を祝うように、音も立てずに雪が舞い始めた。
「名前、風邪をひかないですかね…」
ジョルノは、誰に言うでもなくポツリと呟いて自宅を見た。
「ジョルノ、お帰りなさい」
いつからそこに居たのか、寒さで鼻と頬を赤くした名前が扉の前で笑った。
「…っどうして…」
ジョルノは、驚きで目を真ん丸にしていた。
「今日はクリスマスだよ?クリスチャンが店主のお店が営業してるわけないじゃない」
名前は笑ってそう言うと、小さな小包をジョルノに差し出した。
雪のように真っ白な包装紙に包まれた箱は、ジョルノの髪色のリボンが丁寧に結わえられ、小さな花が飾られている。
「プレゼント探すのに手間取っちゃった」
照れくさそうに笑う名前に、ジョルノは胸が熱くなるのを感じた。
きっと何件も回ったのだろう。
プレゼントを受け取る際に触れた名前の手は、真っ赤なのに冷たかった。
「ありがとうございます」
若くしてギャングのボスになったジョルノは、小さな小包を胸に抱いて幸せそうに頬を染めた。
「寒かったでしょう。早く中に入って下さい」
名前の手を引いて家のロックを外し、部屋へ入る。
もちろん誰も居なかった部屋が温かいはずもなく、ジョルノは暖炉に火を点けた。
「温かい物でも飲みますか?ココアとコーヒー、どちらが良いですか?」
カップを手にジョルノが振り返ると、トンと胸に何かが押し付けられた。
低い気温の外気にさらされ、冷たくなった名前の頬がジョルノの体温を僅かに下げる。
ジョルノの胸に耳を押し付けるように抱きついた名前が、甘えるようにチラッとジョルノに視線を送ると、ジョルノは手に持ったカップを置いて名前の体を抱き締めた。
「ずいぶん待たせてしまいましたか?」
自分よりも低い位置にある耳に囁くと、名前はビクリと肩を震わせる。
「大丈夫。だって…」
自分から誘ってきた癖に、耳まで赤くなった名前はパチパチとまばたきをして微笑んだ。
「ミスタが、ジョルノからって…花をくれたの。
ジョルノの花を眺めてたから寂しくなかった」
幸せそうに笑う名前に、ジョルノは「あの時」の花だろうと気づいた。
そんな事で幸せそうに笑う名前がどうしようもなく愛しくなって、ジョルノは名前の髪に顔を埋めて、名前を抱き締める腕にそっと力を込めた。
「ボクと聖夜を過ごしてくれて、嬉しいです名前…心から愛しています」
微笑むジョルノに名前はまた赤くなった。
そっとジョルノの顔が近づくと、名前は心臓がうるさく跳ねるのを感じながら目を閉じた。
「てんとう虫じゃないですか!!」
プレゼントを開けたジョルノは、子どものように顔を明るくして喜んだ。
色とりどりの宝石が上品にちりばめられたてんとう虫のブローチが、メッセージカードと共に小さな箱に入っている。
暖炉の脇にあるソファーに座ったジョルノは、隣に座る名前を抱き締めて「グラッツェ」と何度もキスをした。
そんなに喜んでもらえれば、何週間も時間を縫って探した甲斐があったと言うものだ。
「ボクからも…」
ジョルノはそう言うと、ポケットからさらに小さな箱を取り出した。
「開けて下さい」
可愛らしい包装を施されたプレゼントを、名前は丁寧に開けていく。
箱を開いて出てきたのは、小さな花にさらに小さなてんとう虫がとまっているモチーフの可愛らしいペンダントだった。
「可愛い!」
「ボクは若いし、ギャングなんて危ない職業の男ですが…名前をきっと守ります」
笑うジョルノに、名前は「プロポーズみたい」と恥ずかしげに笑う。
「プロポーズですよ。次は指輪を贈ります」
恥ずかしげもなく言い切るジョルノに、名前は真っ赤なまま目を大きく見開いて固まった。
ジョルノ・ジョバァーナには夢がある。
そして彼はそれを一つずつ、確実に叶えていく。
凍えそうな寒空の下、ジョルノはまた一つ、夢を叶えた。
やっぱりぬるいんだze☆
ジョルノにはてんとう虫って決めてたから楽だった(*´∇`*)
意見感想など頂けましたら、空の小説の参考にさせて頂きたい所存です\(^^)/
ありがとうございました☆
空
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