史上最悪の思い出話


 病院のベッドで眠る葵を見下ろす。手術は成功。ただし、骨がグチャグチャ出会ったため、完治には至らず、今後の車椅子生活を余儀なくされた。
 完治のために、ある"個性"を持った妙齢の女性が必要だったが、葵の体力ではまだその能力を行使する事が出来ないらしい。
 今後は定期的に検診とリハビリを行うとされた。

「ごべんね……」

 私は、眠ってる葵に呟く。

「助けるって、言ったのに……一人で怖かったよね」

 いずっちの泣き虫が移っちゃってるのかな。目から涙が止まらない。
 段階的に治療が必要だろうから、高校生までは車椅子必須だって。これじゃ、ヒーロー科の入試、出来ないじゃんか。一緒にヒーローになって、「ツインヒーロー サイコシスターズ」とか、名乗れないじゃん。一緒に、なりたかった。一緒に、一緒に……。

「翔路……」
「あっ、葵ッ!」

 声が聞こえて慌てて椅子から立ち上がる。葵が、目を覚ました。

「あ、あの、葵……その、あのね……」
「全部、聞こえてたよ」
「えっ」
「翔路、駄々漏れ過ぎ。寝てる間に全部分かっちゃったじゃん」

 そういって、葵は苦笑した。

「良いよ、別に。ヒーローになれなくたって」
「なっなんで……だって葵っ」
「もともと、向いてないって思ってたの。翔路やいずく君の方がよっぽど向いてるって思ってた。自信なかったし」

 驚いた。葵はもともとヒーローになりたいって思ってなかった。多少興味はあったらしいけど、もともと目立つのは得意じゃないからって。全然気づかなかった。私がヒーローに――オールマイトに――憧れてたから、なりたいって思ってたから、きっと葵もそうなんだって思ってた。

「両足が動かなくなってなんか吹っ切れた……今まで秘密にしててごめん。あのね、私はヒーローよりもサポートの方が好き。試行錯誤して作った自分の物が裏でヒーローや社会を支えてるって感じがカッコイイって思っちゃったんだ」
「そ、なんだ……」
「一緒にヒーロー目指せなくて、ごめん……でも、私、翔路にヒーローになって欲しいって思ってる」

 葵は言う。わたしがヒーローで、葵がサポート役。葵は同じ"個性"だから、サポートアイテムも私に合わせたモノを作りやすいだろうって。二人で将来はヒーローとサポートでタッグを組んで活躍しようって。

「う、ん……うん。私、頑張って凄いヒーロー、なる……そんで、葵は私専属のサポーターだ」
「うん! 二人で、頑張ろう」

 私と葵は指切りをした。
 ここから、私の夢は本格的に始まっていったんだと、思う。

「イレイザー・ヘッドさんみたいな、凶悪な"敵"をあっという間に捕まえちゃうようなヒーローになりたいなぁ」
「あれぇ、オールマイトじゃないの?」
「最終目標はオールマイトだよ! 笑って人びと助け、どんな強い"敵"も倒しちゃうヒーロー!」
「欲張りだね翔路は」
「そっかな?」
「私はー……翔路が心配だから、貴方にあったスッゴいアイテムやコスチューム作りたい」
「おおっ!」

 夢を現実にするためには、ヒーロー科最難関の雄英高校を目指す。そのために、頭の悪い私は、たくさん勉強しなくっちゃ。


 * * *


「ええっ!? 引っ越し!?」
「うん」

 夏休み。私は葵が入院していないため、一人でかっちゃんの家に来ていた。いずっちもいるけど。

「ここからじゃ病院が遠いからさ……葵を一人に出来ないし、私とじっちゃんが病院近くにアパート借りて退院するまでそこに住むんだ」

 中学校一緒になれなくて残念だ。きっとかっちゃんといずっちは一緒の学校に通うだろうし。私だけ取り残される感じで寂しさもある。だって、幼稚園では大体いずっちと葵でかっちゃんの後ろをついて行って遊んだりして――いじめられて辛かった事もあるけど――楽しかったし、お泊まりだってたくさんしてたし、小学生になっても3宅で一緒に登山しにいったりもした事ある。なんか、家族と同じくらい一緒の時間を過ごしていたから、余計に離れがたく思ってしまった。
 いずっちは「寂しくなるね……」と落ち込んでいる。私も寂しいよ。
 一方、かっちゃんは余り興味なさそうにしていた。

「どこへでもいっちまえよクソボケ」
「別れの挨拶がそれかいな」
「別れっつっても三年くらいだろーが。どーせ治ったらこっち戻ってくんだろ」
「まあそうだけど」
「ホントに? 翔路ちゃんと葵ちゃん、また戻ってくるの?」
「そのつもり」
「よ、よかったぁ」

 三年なんてあっという間だというかっちゃん。そうかなぁ。長いような気もするけど。
 私は結構寂しいと思うのに、かっちゃんにとってはどうでも良い事なんだね。……はぁ。ため息でる。

「私達の事、忘れないでね二人とも」
「勿論だよ」
「もう忘れた」
「いずっちありがとう。かっちゃん意地悪しないで」
「死ね」
「理不尽」

 かっちゃんは理不尽で出来ている。全くいやになる。でも、彼は凄いんだ。年上に喧嘩で勝っちゃうし、体育や他の勉強、雑学などなど、何をやっても一番だし。"個性"も派手で強力だし、悔しいけど、憧れで、目標で、オールマイトとイレイザー・ヘッドさんの次に凄いヒーローだって思ってる。
 こんな、ゲロみたいな悪い性格じゃなければもっと素直に尊敬出来たんだけどなぁ。はぁ。

「なにガンくれてんだ殺すぞ」
「かっちゃん、もうちょっと柔らかくならない?」
「ああ?」

 何だかんだかっちゃんの事は嫌いになりきれないところがあるけど、なんかこう……解せぬ。
 ま、かっちゃんは私のこと気にくわないとか嫌いだとか思ってそうだけどね。……はぁ、なんか自分で思ってて傷つくな。

「……そうだ、おいトロ」
「……?」

 なに、と返事をする前に、何故か胸ぐらを掴まれる。毎度のことながら理不尽だと思う。そしてこの理不尽に順応している自分の将来に薄ら寒いものを感じる。
 私が硬直している間に、かっちゃんはというと……いつの間に出したペンでなんと私の顔になにかを書き込んでいるではないか!

「うわあああ何をすんだよ、かっちゃん!」

 私は慌てて顔をゴシゴシ擦る。水性だったら油脂で大体落ちるはず……。

「バーカ、油性だから一生消えねーっつーの」
「なんてかいたのさぁあ!」

 嘘だろかっちゃん! ハゲってかかれたら、一生顔に「ハゲ」がついたまま過ごすんじゃんか!
 なんか今より小さい頃にも似たようなことされた気がするぞ。ひどいな、本当にひどいよ。

「お嫁にいけない!」
「テメェに貰い手なんざいるかよクソボケ」

 鼻で笑って、バカにしたように言うかっちゃん。むかつくし悲しいし……それに、私あんまり頭よくない上に料理とか下手だから余計にかっちゃんの言葉に傷ついた。

「そんな事ないもんんんん! おばさぁあん!」
「あ、バカ、クソババんとこ行くな!」

 かっちゃんのお母さんのとこへ走る。それをかっちゃんが追いかけてくる。ついでにいずっちも「待ってー」と一人残されたくなくてついてくる。
 なんだこれ。
 色々疑問に思うけどとりあえず、かっちゃんはおばさんのゲンコツをお見舞いされれば良いと思うの。


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