史上最悪の思い出話


 翔路は小学6年生になる。相変わらず勉強は苦手だったが、勉強のできる双子の妹や緑谷のおかげで何とか周囲についていくくらいの学力は身についていた。また、爆豪に突っかかられるのも相変わらずだったが、爆発の威力を自分の個性で軽減できると分かってから――結局勝つのは爆豪だが――翔路もやりかえすようになった。
 小学校最後の夏休み、翔路は葵と祖父との三人で遊園地に行くことになった。

「メリーゴーランドぉ〜、バイキングゥ〜、乗りたいのいっぱいある! うひょー」
「翔路待ってー」

 翔路は祖父の手を離れて一目散にアトラクションへと向かう。それを葵が慌て追いかけた。メリーゴーランドにのる二人を遠目からカメラで撮影しながら見守る祖父。彼は時折サインを送ってポーズを決めるように促した。
 暫く遊び、適当な時間でお昼御飯を取った後、お化け屋敷にはいる事になった。祖父は心臓にこたえるからと、二人だけで行くように言った。

「それとも、じーじが居ないと心細いかえ?」
「んーん!」
「私達もう小6だよ」
「怖くないもん」

 一緒に首を振り、その後交互に喋る双子。

「じゃあね」
「じーじ」
「絶対待っててね」
「はいはい。楽しんできてな」

 交互に言ったと思えばまた声を揃える。双子は手を繋いでお化け屋敷に入っていった。彼女らの祖父は近くのベンチで荷物番をする事になったのだった。
 お化け屋敷にはいった双子はピッタリとお互いの存在がハッキリ分かるくらいくっついて歩いていた。手をギュウギュウにして繋いでいる。

「翔路、勝手にどこもいかないでね」
「大丈夫だよ。絶対わたしが葵を守るから」
「うん」

 薄暗い廊下を少しずつ歩く。

「……?」

 翔路はふと妙な音を聞いた。爆豪がよくイジメてくるからか、彼女は変に物音に敏感になっていた。注意深く辺りを警戒しながら、誰かが驚かしにきても決して取り乱して葵を置いて行かないように腹をくくる。

「翔路、あれ……」
「んん?」

 葵の指差す方を見ると、壁から手招きしている手が見えた。明らかになにかありますよな雰囲気を醸し出している。ごくり、と双子は生唾をのんだ。

(別の道いこうよ)
(え、でもあれ幽霊屋敷のイベントとかじゃないのかな?)

 声ではなく、テレパシーで会話する双子。翔路は嫌な予感を感じて別の道へ行こうと言うが、葵は「イベントかも」と言って手招きの方へ行こうとする。
 脳内会議の末、二人は結局行く当てもないし、手招きする方へ向かう事にした。
 フリフリ、フリフリと誘うようにして暗闇の中で手が動く。彼女たちはついに目的の手の付近に到着した。
 ガシャン、とその時背後に何か落ちてくる。勢いよく振り返れば、鉄格子が、先ほど彼女たちの通った廊下を塞ぐように降りていた。これで引き返す事は出来なくなった。
 ほら、やっぱりイベントだった。葵は思った。さっさと脱出のためのヒントでも得よう。そう思って、先ほど手招きしていた腕をもう一度確かめようとした。その時だ。

「うっ!?」
「うぐっ!?」

 突如何かに顔を覆われる。
 真っ暗になった目の前。
 二人は必死に自分の顔に張り付くものを引っぺがそうともがくが、手でつかむことが出来なかった。つるつると滑って何も出来ない。次第に呼吸が出来なくなった彼女たちは時期に意識を失った。


 * * *


「……?」

 すすり泣く声が聞こえてきて、翔路はふっと暗く沈んでいた意識を浮上させる。

(……ここどこ?)

 周りを見渡せば、自分と同い年くらいの子供たちがいた。みな一様に手足を縛られていたり、中には頑丈な拘束道具で身動きが取れない状態でいた。
 翔路は、辺りを見渡し、片割れを探す。

「翔路、こっち」

 案外と近くにいた。翔路が壁に背を預けて寝ていたのに対して、葵は近くに寝転がらされていた。

「大丈夫?」
「なんとか」

 葵も起き上がり、翔路と同様に壁に背を預けて座った。
 彼女たちは考える。ここはどこなのだろうかと。お化け屋敷ではなさそうだと考えていた。
 窓がある。おぼろげだが、外からの光が入り込んでいた。しかし、とても高い位置にあるため、子供の背では届かないだろう。"浮く"ことが出来なければ、だが。

(私たちなら脱出できるよ)
(待ってよ。取り残された人たちはどうなるの?)
(ヒーローを呼べばいい)
(でも、間に合わなかったら? 私たちが逃げ出しちゃった事を怒って酷い事するかもしれない)

 逃げ出そうという葵に対して、翔路はすぐにはダメだと反論する。

(私たちの力じゃ全員を出す事なんか無理だよ)
(そ、それは……分かってるけど)

 翔路は自分が余り頭の回転がよろしくない事は分かっていた。否定は出来ても反対意見が出てこない。どうすればいいのかと翔路は頭を悩ませる。そんな彼女を横で見ていた葵は、ふうと一つため息をつく。

(分かった、こうしよう。私たちのうち一人があの窓から出るの)

 葵の作戦はこうだった。まず双子のうち片方が窓から脱出する。そして、近くに居るヒーローにここを知らせるのだ。万が一、場所を移動させられたりしてもテレパシーでやり取りできるから、追跡も可能だ。そして、二人ではなく一人で脱出すればそれだけ見つかる確率も減る。脱出に人数を増やせばそれだけ見つかりやすくなる、と葵は考えたのだ。

(私が残る)
(葵が?)
(うん。翔路は嘘が下手くそだからね。私ならいくらでも誤魔化す事が出来るから)

 ぎゅっと葵は翔路の手を握る。本当はお互いに怖いし不安だった。けれども、やらねば自分たちはこれからおそらく『敵(ヴィラン)』と呼ばれる、"個性"を使って悪事を働く人間にひどい事をされるかもしれないのだ。逃げなければならない。危険を知らせなければならない。

「助けて、怖いよ……」
「大丈夫だよ」
「……?」

 葵と翔路は捕まっている子供たちを集めて作戦を伝えた。翔路が窓から出てヒーローを連れてくる。だからもう泣かないで欲しい、と。あと、誤魔化すときは強力してほしい、とも。
 周囲の了解を得られたので、早速作戦を実行する。翔路は"念動力"で自分の身体を浮かせ、窓に近づく。勿論、彼女を縛っていた縄も"念動力"で外してある。

「行ってきます」
「頼んだよ」

 翔路は捕らえられていた部屋から脱出する事に成功した。

(ヒーローを探さなくっちゃ!)

 どうやら、自分たちの捕まっていた部屋は、遊園地の裏にある物置きのようなものだったらしい。まだ自分たちが遊園地内にいることは分かった。

(警備しているヒーローを探す? 嫌ダメだ、それじゃあ犯人に見られているかもしれない。助けを求めるなら――外!)

 個性を使って柵を乗り越えて、遊園地の外に出た翔路は急いで近くにいるヒーローを探しに走り出した。


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