世界よ、逆流しろ


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]] DIOと友達になる事になった幸子が、彼に連れられて入った館には、使用人がいた。彼も《スタンド》という存在を知っているらしい
 まず《スタンド》とは何たるかの前に、使用人の紹介をされる。
 ぴっしりとスーツを着込んでいるが顔が車に引かれたのではという車の跡のようなメイク(?)が施される男、彼はテレンス・T・ダービーという。もう一人、ヴァニラ・アイスと言う男……彼の服装には幸子は仰天しかけてしまった。特に下半身を見た時。思わず「ズボン穿きましょうよ」と口を滑らせなかったのは、己の内気な性格故だろう。
 またケニー・Gという男、そしてあだ名が「ヌケサク」という男――あだ名の印象が強すぎ、幸子は彼の本名を忘れてしまった――。ヌケサクの方もDIOと同様吸血鬼らしい。
 表の門にいた鳥は、ペット・ショップと言うらしい。そして、唯一の館に住む女性は幸子と歳がかけ離れたお婆ちゃん――エンヤ婆と呼ばれているらしい。
 
「戸軽 幸子です……その、ええっと……よっ宜しくお願いします」

 威圧感が凄まじいヴァニラに睨まれ、淡泊な――笑っているし所作は礼儀正しいが、感情がこもっているように見えないのだ――テレンス、そして凝視してくるエンヤ婆に、幸子は冷や汗をだらだらと滝のように流しながら自己紹介と挨拶を済ませる。その間、連れてきた張本人のDIOと言えば悠々と大きなソファに腰を下ろしたまま、まるで傍観者のように様子を見ていた。
 そして、これがおそらく本題であろう。《スタンド》についてだ。これは傍観者を続けていたDIO直々に説明された。

 スタンドとは――
 名前の由来は「stand by me」からとっている。
 スタンドは一人につき一体。そして、スタンドが見えるのはスタンドを使う事の出来る者、つまりスタンド使いのみ。また、スタンドに触る事が出来るのはスタンドのみ。スタンドは本体の意思によって動く。スタンドが傷つけば本体も傷つく。
 本体から離れて行動できる距離に限界がある。スタンドは特殊能力を一つもつ。スタンドは成長する。

 ちなみに、この館にいる全員がヌケサク以外《スタンド使い》ならしい。表にいるペット・ショップまでもだ。最初に教えられたのはそれだけだった。けれど、これでも十分過ぎる程相当な量の情報だ。
 今夜は疲れているだろう、との事で幸子は与えられた部屋に向かわされた。

「あの小娘が例の、スタンド使いですか?」

 幸子がテレンスに案内されて部屋へ向かったのち、エンヤがDIOに問うた。問われた彼は「いかにも」と頷く。

「しかし、なんとも気の弱そうな小娘ですじゃ……あのような者が本当に『例の』能力を持ち合わせているとは見えませぬな」
「私の目が節穴だといいたいのか?」
「いえ! とんでもありませぬ!」
「幸子は『あれ』を持っている。私の目に狂いはない……それと、彼女は私の『客人』だ、丁重にもてなせ」
「ハハアッ!」

 DIOには確信があった。彼女は確実に己の目的とする《能力》を持っていると。彼の目的に必要な、能力。その目的が達成されるために、彼女はDIO直々に連れてきた。
 つまり、目的の為の道具――それ以上でもそれ以下でもないのだ。

 一方、部屋を案内された幸子と言うと、テレンスが去ってから、部屋の扉を開いた。
 部屋には、家にいた頃でも見たことがない程の高級そうな天蓋つきベッドと、大きな衣装ダンス、据わり心地の良いソファに円状の小テーブル、そしておしゃれな電気スタンドに真紅の絨毯――これらを目にした幸子は一言。

「DIOさんって何者」

 まあ自称吸血鬼、ではあるけれど、この目の前に広がる触れるも恐ろしい高価な品々とDIOの吸血鬼であることは何ら関係ない気はする。今度どのような仕事をしているのか聞いてみよう。
 身一つでDIOに着いて来た幸子は、そのままゆっくりと部屋へと踏み入れてゆく。ドアがあったので、部屋があるのかと思い、開いてみるとバスルームがあった。トイレと洗面台も一緒にあった。
 タンスを適当に開いてみれば、殆ど空っぽであった。唯一あったのは、寝間着のみだった。

「こんな大きなタンスに、いったい何を入れるんだか……」

 遠い目になっていると、不意に部屋のドアがノックされた。驚いて振り返れば、開けっ放しの入口にテレンスが立っていた。

「お食事の準備ができましたので、お呼びに参りました」
「え、あ、あ……ありがとうございます」
「いえ」

 幸子はタンスを閉まって入口に立つテレンスのもとへと歩み寄って行った。

「幸子「様」はレディなのですから、戸締りはしっかりなさってくださいね」
「あ、そ、そうですね。すみません、気を付けます……って、え、あの……『様』?」
「貴方様はDIO様の客人故、執事の私はそう呼ばせて頂きます」
「きゃっ客人、ですか……」
「違うのですか?」
「え、あ、いえ……DIOさんがそうおっしゃるのなら、多分、そうだと思います」

 幸子はテレンスの放つ無機質な空気に息がつまりそうであった。しかし、これからこの館で暫く過ごす事になるのだろう。慣れなければと必死に己に言い聞かせた。

(あ、まずはDIOさんにお礼とか言わなくちゃ)

 身の丈に合わないような高価な家具を使わせてもらうのだ。深々と頭を下げてお礼をしなければならない。
 幸子はこれからの生活に不安を抱きつつも、ただ、家族の分まで、生きることを決心するのだった。


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