短編(jojo) | ナノ




 砂漠の大地を訪れたときとは違う、まるで体を包み込むような温かい日差し。
 眼下に広がるのは、普段の目線よりも遥かに高いもの。
 背には温かく逞しい感触。
 ゆらゆら体が揺れるのはゆりかごと――思いたいけど、それにしてはちょっとだけ辛い。

「なまえ、ここは本当に広いな。ホッカイドウ、だっけ?」
「ええ。日本の中じゃ一番広いですので……牧場とか野原も沢山あります」

 日本に来てまだ間もないので、背後の彼、ジョニィ・ジョースターは物珍しそうに辺りをキョロキョロと見渡していた。そんなんじゃ、興奮が馬に伝わってその子も落ち着かないじゃあないか。

 ジョニィとの出会いはいつだったかしら――
 確か、そう、あの『横断レース』の渦中だったような気がする。

 日本人であるわたしが珍しかったのか、周りの男の人達は良く話しかけてきた。友人の東方ちゃんにだって、困惑していたと思う。お父さんがレースで孤独に頑張っているのを応援しに来たのだから、別に遊びに来たわけじゃあない。
 いろんな夜のお誘いを滅多切りにしていったわね。そもそも、日本の女はそうやすやすとついて行かないの。心を許した殿方以外いらないの。
 わたしもそんな日本の女と同じ。まあ、ビビっていたのもある。
 やれやれと、疲弊しているところに、彼、ジョニィ・ジョースターが現れたのだ。ワタシを口説きに。しかも、無礼な事に肩まで馴れ馴れしく組んできて。
 もちろん、わたしは気恥ずかしさと怒りから彼の頬を平手打ちした。そして、言ってやったの。

「私は西洋の習慣を存じませんが、そのような行為……女子に対して些か無礼ではありませんか?」

 その後は、殿方をひっぱたいてしまった事に対し一礼して謝罪してからその場を去った。
 着物だったから物凄く目立っていただろうが関係ない。その時のわたしは報復が怖くてとにかく、泊まっている宿に帰り身を小さくしながら震えていた。
 翌日から、ジョニィ・ジョースターから何かとよく絡まれるようになって怯えた。
 後ろに控える相棒のジャイロという殿方は終始にやりにやりと怪しい笑みを浮かべていましたし、初めの方は報復のためになにか良からぬことを企んでいるのかもと警戒していた。けれど――

「なまえ? どうかしたのかい?」
「いえ……少し、昔のことを思い出していただけです」

 思い出すだけで笑いがこみあげてくる。
 最初は疑心暗鬼で気づいていなかったけれど、彼はどうやら私に恋をしていたようで。挙動不審であったのも、顔が異様に赤かったのも、全ては緊張していたからだと思うと、愛おしさがこみあげてくる。

「やはり、乗馬は良いものですね」
「でもキミは一人じゃ乗れないんだよね。なまえほど馬に乗れない人間、ボクは初めてみたよ」
「まあ、失礼なお方ですこと。悪いお口はこれでしょうか?」
「イテッ、イテテッ……! ごめんごめん」

 まったく悪いと思っていないジョニィ。この人は本当に……。
 女性と遊ぶ事に慣れている彼とのかかわり合いは何かとわたしの心臓に毒だった。いろいろな甘い言葉をかけてくるし、やはり文化の違いからかスキンシップの戯れも激しい。最初はそのことで怒っていたのに、いつの間に絆されてしまったのかしら。
 頬を抓っていた手をはなすと、彼は赤くなった己の頬を撫ぜる。
 わたしは日本人とは違った、宝石のような輝きを持つ瞳を覗き込んだ。すると、にこり、と嬉しそうに彼は笑みを浮かべる。

「ボクはキミが、乗馬の出来ない人間で良かったと思っているよ」
「……」

 なんだかムカッ腹が立ったので、にこやかな笑みを無視して正面を向いた。ああ、なんてのどかなんでしょう。

「?」

 美しい広大な景色を見つめていると、不意に手綱を持っていた手の片方がわたしの腰に回った。それに伴い、彼はゆっくりと状態を前へ倒すと、わたしの耳元に唇を寄せた。
 耳朶に息がかかるだけで、ゾワリとした感覚を覚える。

「こうやって、くっつく口実が出来るしキミの綺麗な項を見ていられるからね」
「なっ……」

 ああ、またか。この人はそうやって甘い言葉を零す。全く、これだから西洋の殿方は。
 そんな彼に、溺れてしまっているのはワタシの方なんですけれどね。

「あ、キミここ、虫に刺されてる」

 そう言って、つぅ、と彼は項に口づけた。

「っ〜〜〜〜!」

 ぶわっ、と顔に熱が集中するのが分かった。それを見てカラカラと愉快に笑うジョニィが憎い。

「おっ、お戯れが過ぎますよ!」

 ばちん、と快晴の空に乾いた音が響く。

 どうやら、彼は今日も頬に紅葉を作るはめになったようだ。





――――
あとがき

 きっと、あの時代の女性は大和撫子だと夢見ています。
 時系列的にかなりオカシイ状況で、歴史に詳しい人から見たら鼻で笑われてしまいそうですが、目を瞑って、頂けると、嬉しい、です!(滝汗)

 匿名様、遅くなって申し訳ございません!(スライディング土下座)
 初めてのジョニィに緊張で手がぷるぷると震えながら、初めてのお相手様のお話を奉げることに恐縮しながら書き上げた次第ですはい。
 よっ宜しければ受け取って下さいませ!





更新日 2014.05.31(Sat)
惚れた弱みと照れ隠し

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