短編(jojo) | ナノ





 肌を刺すような灼熱の太陽、真っ白で柔らかな感触のする砂浜、宝石がちりばめられたかのように乱反射を繰り返す青い海――
 色白なわたし、みょうじなまえにしてみれば少し強い刺激だ。けれども大丈夫、日焼け対策は通常よりも厚く塗った日焼け止めでバッチリ対策してある。
 ここはとある孤島。SPW財団をバックに開催された大規模なイベントに参加した者達へ、主催者側が憩いの場として設けた場所だ。

「いっちばーん!」

 ビーチに見惚れて突っ立っていたわたしの横をすり抜けて行ったのは、招待者の一人であるナランチャ・ギルガ。それに着いて走っていくのはワキガみす……いや、グイート・ミスタである。二人は精神年齢がほぼ同等レベルなのか、はたまた《戦い》の疲れをさくっと遊ぶ事に切り替えたのか。妙に高いテンションで海へと突っ込んで行った。

「アンタも大変ねぇ、あーんなのの世話をしてるなんてさー」
「ははっ、まあ大変っちゃあ大変だけど……やっぱあの二人といるのは楽しいし」
「ふーん?……あ、ねえあたし達も泳ぎに行くわよ。あっちにあたしの仲間がいるのエルメェスとF・Fにもあんたを紹介したいし」
「うん! わたしも徐倫の友達とお話ししたい!」

 少し高めな徐倫の腕に己の手を絡めて歩き出す。わたし達がどういった経緯で今の親密な関係になったのかは、割愛させて頂こう。

「ブチャラティ! わたしちょっと行ってくるけど……」
「ああ、ミスタとナランチャなら任せてくれ。お前はせっかくできた女友達とゆっくりしてくると良い」
「Grazie!」
「Prego」

 爽やかな笑みを浮かべて送り出してくれたブチャラティに最大の敬意を表して後でケーキの一つでも焼いてプレゼントしよう。もう好き、ほんとブチャラティは大人の男って感じ。流石わたし達「チーム」のリーダーだ。

「そういえば、なまえってギャングなんだっけ? 全くそうには見えないけど」
「ふっふー。わたしも列記としたギャングなんです〜。ほら、いかにもギャングっていうよりも、一般人に見えた方が動きやすいっていう時もあるでしょ?」
「その言葉には同意見だけれど、どう見たってアンタにそのオーラがないだけだと思うけど」
「あっ、言ったな徐倫。これでもわたし、脱いだら凄い並みに向かい合ってみればケッコー強いってタイプだからね。対人格闘術ならアバッキオのお墨付きなんだから!」
「あーはいはい」
「流された! 悲しい!」

 首の後ろを掻いて気だるそうにしている徐倫はとっても大人っぽくって素敵だけれど、わたしの話を流すのはいただけない。許せん!
 けれど、彼女のこの雰囲気、どこか別の場所で感じた事があるような気がする。とても曖昧で上手く思い出せないが、確か「スターダストクルセイダース」という団体を見たときに感じたような、そうでないような。

「ねえ、徐倫て兄弟とかいないの?」
「え?……兄弟はいないわね。親戚ならもう、この「大会」にわんさかいるけどね」
「マジでか! はいはい! なまえちゃんチョー会いたいです!」
「そのうちね。というか、なまえの所にも一人いるわよ」
「うっそー!? え、誰? 誰?」
「えーっと、名前は確か……ジョ、ジョ……」
「ん? 名前に「ジョ」がつく人物何てわたし達のチームにはジョルノしかいないけど」
「あ、そうそうそれ。そいつよ、すっごーく遠い親戚だけど」
「うえええ!? なにそれ! ジョルノそんな事ひとっことも言ってないんだけどッ。10年以上幼馴染やってるわたしに! 幼馴染といってもチョー親しいって間柄じゃあないけどね!」
「本人も知りさえしない情報を言えるわけないじゃないの……それと、最後のは胸を張って言えることじゃあないわよ」
「あり、そうなの?」

 なあんだ、ジョルノが何十年も隠し事してたかと思って焦っちゃったじゃん。そういって頭の後ろに腕を組んだわたしを、身長の高い徐凛がニヤリとしながら見下ろしてきた。

「ほんとあんたって分かりやすいわよねえ」
「え? な、なにが?」
「ジョルノのことよ。あんたってば目で追い過ぎ。気があるっていうの他人からでも丸わかりよ」
「ンなッ!?」

 日差しのせいではない熱がわたしの体の内でも燃え上がる。顔をカッと熱くさせ、一歩二歩と徐倫から後退する。見上げる先の彼女は、未だに意地悪い笑みを浮かべていた。

「苦労するわよーあの男と付き合うのは」
「し、知ってるもん。だってジョルノは勉強やスポーツ、ギャングの仕事であったってそつなくこなす人間だもの。それにあの眩しいカリスマに美貌、徐倫より身長は低めだけれどそれを補って余りあるものを彼はもっているもの」
「随分早口に恥ずかしいことをさらっと言ってのけたわね」
「いやぁ〜」
「褒めてないから」

 びしり、と徐倫からチョップを頂く。
 こんな可愛い美人男前な徐倫からチョップを頂くなんてご褒美ですありがとうございます。

「おーい、いくぜおめーらー!」
「おうよー!」

 ふと、野太い声が聞こえて海の方へと視線を投げれば、丁度わたし達と同じくらいの男子が上半身裸で遊んでいた。リーゼントの二人だった。けれど、よくよく見てみれば体が小さい男の子もいる。彼は苦笑して二人について行っていた。……にしても、あの男の子が使っている浮き輪、なんで足なんか生えてるんだろう。謎だ。
 わたしと徐倫はリーゼントな二人と小さな少年を見送って先を急いだ。

(あれ?)

 わたしは思わず立ち止まりそうになった。徐倫の腕を掴んでいなければ完全にその場で停止していただろう。
 爛々としている日差しを避けるかのように大きなパラソルが展開されるその空間は、ほの暗い。奥には数人の男女がおり、誰もかれもが一人の男を崇めていた。その男は、黄金色の柔らかな髪に、真っ白な素肌、目を見張る氷の様な美貌、そして、鋭利な赤い瞳――確かに目を引くようなものだが、わたしはそれくらいで立ち止まったりはしない。
 もっとも気になったのが、彼の雰囲気であった。彼の持つ空気と言うか、オーラという物が、わたしの幼馴染に酷似していた。遠目からでしか見えなかったけれども、わたしが幼馴染の「オーラ」を感じ取れないことなんてない。だから、驚いた。おまけに、見た目もどことなく幼馴染に似ている気がする。

(本当の父親には会ったことがないって言ってたけど……ま、まさか、ね)

 嫌な汗が頬を伝う。不安な気持ちのせいか、徐倫の腕に掴まる手に力がこもった。

「胸糞悪くなるもん、見ちゃったわね」
「え?」
「あいつ、あたしの父さんの敵なの。そして、父さんとあたしが戦いに身を投じることとなった大きな原因でもあるわ。名前はDIO」
「でぃ、お……」

 徐凛がこれでもかと言う程に嫌悪感を露わにした。彼女がいうのだから、DIOという男は最低なヤロウなのだろう。例えば、ブチャラティ風に言うと「吐き気をもよおす邪悪」とか。
 彼女が歩調をはやめたので、わたしもソレに倣って早足になる。そうしてやってきたのは、随分と賑やかな声がする場所だった。見渡してみると、大柄な男の人達が馬鹿笑いしている。二人ほど、こんなくそ暑い炎天下の中、学生服を着ている人がいた。一人は爽やかなピンク髪、もう一人は雰囲気からして本当に学生なのか疑いたくなる威圧感を放つ番長。彼らの近くに、エルメェスとF・Fがいた。
 わたし達は、エルメェス達へと歩み寄ってゆく。すると、大柄な男たちの内、番長がわたし達の存在に気づく。彼はのしのしと効果音が付きそうな歩き方でやってくる。真っ直ぐに、こちらへと。怖いので徐倫に先を急ごうと腕を引くが、徐倫はその場で立ち止まったまま、茫然と番長を見つめていた。

「あ、あの徐……」
「ここにいやがったか、徐倫」
「父、さん」
(はッ!?)

 わたしは思わず徐倫と番長を交互に見た。徐倫てば、確かに彼のことを「父さん」と呼んだ、よね。この人が徐倫のお父さん、なの?

(なんか妙に納得……)

 雰囲気が似ているのだ。力強い眼差しも、ふと見せる笑い方も。そして、二人の間にある空気が、彼らが正真正銘唯一無二の親子なのだと、わたしに理解させた。

「探していたんだ。おれの仲間がお前と会いたいと言ってきかねーんだよ」

 なるほど、父親としてはキャワイイ娘を仲間に自慢したいということですな。よしよし、ここは親子水入らず、邪魔者は退散するとしようかね。

「あ、ごめん徐倫。わたしちょっと急用思い出しちゃった」
「え?」
「エルメェス達とはまた後で合わせて! それじゃ!」
「ちょ、ちょっとなまえ!」

 オリンピックの選手並みの速さでわたしはその場から颯爽と去ると、砂浜を抜けて日陰を求めて森の中へと入る。しかし、失敗した。草木が多すぎて虫とかいっぱいいるし、蒸し暑いしで、気分は最悪おまけに茹で上がりそうだ。こんなゾンビみたいな姿、ジョルノが見たらさぞ幻滅するだろう。こんな女が幼馴染だなんて。

「いいじゃんいいじゃん、ちょっとくらい抜けてたってさ」

 ささくれた気持ちでペッと悪態をつく。どうせ誰もいないのだから、なに言ってもだいじょ――

「見つけたなまえ、こんなところにいたんですね」
「ジョッ、ジョジョジョルノォオオオオ!!!?」

 え、さっき茂みからぴょこっと出て来なかった? ぴょこっと出て来なかったかな!? さっきの独り言きかれたかな、うわっ、どうしよ恥ずかしっ。
 頭が真っ白だった。顔は自然と熱を帯びていくし、心臓はバクバクと勢いよく加速していくし、目の前には麗しの幼馴染ジョルノ・ジョバーナがいるし……目を回す他ない。

「なまえ? 気分でも悪いんですか?」

 羞恥心と焦燥感で狼狽しているわたしは、吃驚するくらい接近していたジョルノに全く気付かなかった。ハッと気が付いたときは既に、目と鼻の先に彼の顔はあった。

「近っ!?」
「君が俯くから顔色がうかがえなかっただけですけど」
「いやまあ、そ、そうだけど」

 ふー、と嘆息する姿すら様になってるとかちょっとムカつく。グーパンしていい? いいよねグーパン。

「物騒なこと考えないで下さいよ」
「え、なんでわかっ……」
「なまえのことなら大体分かります。幼馴染ですからね」
「っ!」

 天を仰いだり、木の幹に触れたりして、何の気なしに放たれたジョルノの言葉に、全身がカッと熱くなるのが分かった。この幼馴染は一体わたしの体温を上昇させ続けて何がしたいのかさっぱり分からん。

「まあ、とにかく行きましょう。さあ」
「い、行こうってどこへ……」

 ジョルノは流れるような動作で自然とわたしの手を取ると、そのままエスコートし始めた。きっと彼はごく自然な事しかやっていないのだろうけれど、一挙一動が優雅に見えてきて仕方ない。
 あ、もしかしてミスタとナランチャの相手を仕切れなくなったブチャラティの所へかな。そうだよね、あの二人やんちゃだもんね。ミスタはいくらか大人だけれど、ナランチャの教育係であるフーゴくんがめちゃくちゃハッチャケてるもんね。普段は凄く知的で紳士的だけど怒ると凶暴すぎて手が付けらんないもんね。沸点も結構低いし。
 愛しの我がリーダーブチャラティを助けるべくわたしとジョルノは彼らが待つビーチへと戻って行った――はずだった。

「……あれ、ジョルノここどこ?」
「海の見える海岸」
「見ればわかるよ……ブチャラティ達の所にもどるんじゃあなかったの?」
「なに言ってるんですか? ぼくは一言もそんなこと言ってませんよ」
「そ、そうだけど!」

 くすくす、とおかしそうに笑うのでわたしは羞恥心で真っ赤になってしまう。ああもう、どうして彼はしっかりしているのに、わたしはこうもそそっかしいのだろうか。顔が、上げられない。

「なまえ」
「……な、に」

 情けない弱弱しい返事をすると、それをとうに見越していたのか、奴は再びクスリと微笑する。
 居た堪れない気分だ。早くこの場を去りたくて、ジョルノの手を振りほどこうとするのだが、いっこうに解ける気配がない。それよか、ますます手に力が込められている気がする。

「ジョルノ、放し――」
「ぼくは、少し焦っていたのかもしれません」
「……え?」

 わたしの言葉を遮った放たれたジョルノの言葉に、思わず顔を上げる。ジョルノを見上げると、彼の強い意志が宿る瞳と視線が交わる。

「君は、すぐに誰とでも打ち解けることができる。それは、君がとても包容力があって表情豊かで、感情表現もユニークだからだ」
「え、と、あ、え……?」
「だから、少し焦ってしまった。この島で次々と友人が出来てゆく君が、とても遠く感じられたから……」

 切なげに下げられる目じりに、胸の奥がきゅうっと泣く。狡い、その表情。

「ここに連れてきたのも、君を独り占めしたいが為さ……笑えるでしょう?」
「そ、そんなこと……」
「ふふ、顔が赤いですね……期待、しちゃいますよ?」
「へぇえっ、な、なに言って……」

 ばっくん、ばっくんと自分のものではないかのように心臓がうねる。誰の心臓だよ。わたしのだよチクショウ。
 ジョルノってば豆腐の角に頭をぶつけて理性を落としてきてしまったのだろうか。こ、こんな、こんなイタリアーノなセリフを吐くなんて。しししかも、幼馴染相手にっ。

 ――わたしだって期待しちゃうじゃないの!

 するり、と頬を滑るジョルノの指に、どきん、とまた心臓が跳ねる。頭は真っ白で、何か言いたいのに気持ちだけ急いて体がついて行かない。そんなわたしの状況を見通していたかのように、ジョルノはクスッとにこやかに微笑んだ。

「なまえ、どうか独り占めされてください」

 殺し文句だ。そう思った。
 わたしのキャパシティはとうにオーバーフローしている。目を回している。海の波打つ音が、やけに大きく聞こえた。

「……フフ、なんてね」

 ――驚きました?
 なあんて言ってのけたコイツを己のスタンドで殴らない、という選択肢はなかった。





――――
あとがき

 ジョルノいと難し。す、スマートな彼は……書けたのだろうか(´・ω・`)
 彼はもうわたしにとって敬語がデフォルトなので、幼馴染相手でも敬語になってしまう……あかんわー。
 本当は1、2、7部組も入れたかったのですが……ちょっとオーバーしそうなのでやむ終えずカットしました。
 よ、欲張り過ぎて色んな人との絡みが少なかったのがいいい痛手ですっ(ギリィ)

 夏のお話しなのに、冬の時期に上げるという暴挙をここにおかしますが、どうか君助様、受け取って下さいませ!





更新日 2013.12.15(Sun)
黄金に誘われて

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