いつもハッピーうれピーよろピクねー、セクシーナイスガイなジョセフ・ジョースター(18)には一つの悩みがあった。
朝日を浴びながらシーザーと共に本日の修行場へと向かう彼は、視界の端である人物を見つけた。その人物は、彼らが歩く廊下から数メートル離れた塔の階段を降りている。すると彼は即行、廊下の窓から身を乗り出して、これでもかと大きな腕をブンブン振りながら会談を降りる人物の名を呼んだ。
「おーいなまえー!」
「あ、おいJOJO」
シーザーの制止もなんのその。ジョセフは全く気にしません! 張り上げられた声は、遠くのなまえという人物にも聞こえたのか、彼の者は吹き抜けの窓へと歩み寄ると身を乗り出した。
「おはようJOJO! シーザー! 今日もいい天気ね」
へにゃりと笑いながら顔を出したのは一人の女性。名をなまえ・みょうじという。城にいるスージーQと同じくメイドである。仕事はちょっぴりゆっくりであるが、丁寧でなにより笑みを絶やさない穏やかな性格の女性である。
「今日も相変わらず可愛いなー!」
そしてこのジョセフ・ジョースター(愛称:JOJO)は、いつも何が楽しいのかニコニコと笑みを絶やさないなまえに思いを寄せていた。一方そんな彼女はというと――
「ありがとー!」
へにゃりと照れたように微笑み返すなまえ。その後は仕事があるからと颯爽と去ってゆく。そう、彼女はジョセフの分かりやすいセリフや態度に対して全く気付きもしない鈍感さんなのであった。
本日もかるーくあしらわれる形となったジョセフはというと、またかとガックリ肩を落とす。そんな彼を呆れた表情でシーザーは「ガキっぽいんだよお前のは」と偉そうにのたまう。ナンパの百戦錬磨シーザー・A・ツェペリに言わせれば、ジョセフのアタック攻撃は小学生レベルだとか。なかなかに手厳しい指摘である。
ニヤニヤ笑いながら「手伝ってやろうか?」と言う申し出を、負けず嫌いなジョセフが素直に受け取るわけもなく、彼は195センチの巨体をのしのし揺らしながら、兄弟子たちの待つ訓練場へと向かうのであった。
* * *
別に、油断していた訳ではない。特訓では怪我が付き物だ。特に、命がけになるような激しい修行であればなおさら。
本日は、運悪くジョセフは足首を痛めてしまった。明日の修行に支障をきたさない為にも本日は歩き回らず絶対安静を師匠であるリサリサに言い渡されてしまう。
与えられた部屋で特に面白いものもなく、ベッドの上でゴロゴロと落ち着きなく転がる。
(ちぇっ……今日はなまえに一回しか会えてないのによォ、本日のJOJOは厄日かぁ?)
一人、天井を見上げて不貞腐れる。しかしふと、廊下の方から小さな足でトタトタと忙しなく駆け寄る音が聞こえて来た。それは、丁度ジョセフがいる部屋の前で急停止する、と思えば勢いよく扉が開け放たれる。
「JOJO! 大怪我したってホンッ……!?」
「うおおなまえっ」
普段のなまえからは想像もつかない程の慌てっぷりにジョセフは少なからず驚く。思わず声を上げてしまう程だ。きっとシーザーやスージーQあたりが大げさに言ったのだろう。心配ですっ飛んできた彼女にどうしようもない喜びと愛おしさを抱きながら、ジョセフは起き上がる。両手を広げて無事だと言うことを表現した。
「どーしちゃったのかななまえちゃ〜ん? おれってばかなり丈夫だから特訓の怪我なんてなんてことな……ん? なまえ? 大丈夫か?」
ジョセフは、ふと異変を感じた。出入り口の前に立つ彼女は、目をこれでもかという程に真ん丸にし、ジョセフを――いや、正確にはジョセフの胸板を見ていた。彼は今、上半身裸の上体であった。
なまえは、ジョセフが声をかけると我に返り、かと思えば顔を急激に熱く赤くする。様子のおかしい彼女が心配になり、かといってシリアスな雰囲気にならないよう、ベッドから這い出ていつもの調子で話しかけながら歩み寄る。すると、彼女は更に顔を火照らせ、ついには――
「っ〜〜〜〜〜〜!」
「え、ちょ、なまえちゃん? おおお、おい!?」
目を回したかと思えば、彼女は意識を失い、くらりと倒れる。慌ててジョセフは彼女の小さな体を抱きかかえた。
「……ど、どゆこと?」
彼の疑問に、答えが返ってくることはなかった。
とにかく、このままではいけないと思ったジョセフはそっとなまえの体を抱きかかえると一度逡巡したのち己のベッドへと寝かせた。近くの椅子に彼は座ると、彼女が目覚めるのを待つ。
この部屋に置いておくのは少しの心配と下心。急に顔を真っ赤にして倒れた彼女の容体の安否が知りたいのと、せっかく好きな相手との時間を逃したくないこと。男なんて思いやりの行動に80パーセントくらいは下心が含まれているのだ。ジョセフは腕を組んで一人うんうんと頷くと、再びなまえの観察へと戻った。
(こんな近くで見るのは久々だな……あ、髪の毛少し伸びた? 胸も初めて会った頃より心なしか大きくなってきている気がするな。リサリサに比べりゃまだまだだけどなぁ)
確実にオトナノ階段をのぼっているのねん、とジョセフは再び腕を組んで一人頷いた。
「ん……」
くるんと綺麗にカールする睫毛に縁取られた瞼が震え、ゆっくりと持ち上がる。奥から現れたなまえの瞳が光をとらえ、そして次に近くに座るジョセフを見た。
「ジョッ……」
「おっ、目が覚めたな。急に倒れるから吃驚したぜ」
「あ、ご、ごめ……看病しにきた私が逆に、かっ看病されるなんて」
「いーのいーの。おれとしては? なまえのキャワイイ寝顔を拝めたし?」
「な、なに言って……あ、えっと、その……」
「ん?」
引いた赤みが再びぶり返す頬。彼女の瞳はあらぬ方向へ彷徨う。どうかしたのか、身を乗り出すと、急に彼女は状態を起こしてベッドのシーツをジョセフに押し付けた。
「上! 何か着て!」
「は?」
「は? じゃないよッ! そ、そそそそんなっ、おーぷんに、して!」
必死に声を絞り出して言うなまえの顔は林檎のように真っ赤である。目を硬く閉じられ、羞恥心に体を震わせている。心なしかシーツを握る手も仄かに赤かった。
彼女の反応に、察しの良いジョセフはニタリと悪戯っ子のような笑みを浮かべて、シーツを押しつけて来るなまえの小さな手を己の大きな手で包むように握る。びくり、と彼女の肩が震えた。
「もしかして、俺の裸見て気絶しちゃったとか?」
「っ!」
アカラサマに肩を震わせたなまえに、加虐心がかき立てられる。ジョセフは波紋呼吸法強制マスクをしたまま目だけで笑う。
「おれってぱとってもセクシーな体してるからしかたねーしな〜?」
マスクのせいであまり近づけられないが、ぶつかるギリギリのところまで顔を近づけてなまえの顔を下から覗き込むようにして見る。彼女は、目のふちに涙を溜めていた。
「そ、だよ……」
ぽそり、と小さな彼女の唇が動く。
「JOJOのバカ!」
「あッ、てめー今人のことバカって言ったなこ――」
「煩いっ、人の気も知らないで毎日毎日可愛いとか大好きだとか! 今だってJOJOがっ、セクシーでカッコイイからッ、意識してるから余計に恥ずかしくなっちゃうんだよ! 分からず屋!」
一頻り叫んだかと思えばなまえはジョセフの手を振りほどいてシーツを頭から被ってしまった。中では、頬を膨らませて目をきつく瞑る彼女が脳内でジョセフを自分が知る語彙の限りを尽くしてなじっている。
一方ジョセフはと言うとなまえの思わぬ発言に思考を停止させたまま硬直していた。そしてしばらく呆然としたのち、ゆっくりと稼働してきた脳内で渦巻く戸惑いと疑問を反復させた。
彼女は今なんと言ったのか? カッコイイ? セクシー? 意識してる? 恥ずかしい?
――まさか。
(脈あり?)
ある仮説、いや結論に至ったジョセフは戸惑いながらもシーツに手をかけた。抵抗らしい抵抗もなく、ペラリと捲れたその中には、容量超過を迎えて赤ダルマのように全身を朱に染めるなまえの姿があった。
「なまえ」
ジョセフは、小さく震えている肩にそっと手を添えた。
「おれのこと、好き?」
恐る恐る、問う。彼の心臓は激しくうねりを上げ、呼吸も乱れてくる。不味い、波紋の呼吸をしなければマスクの所為で地獄の苦しみを――
「す、き……」
――大好き。
ああ、君のせいで意識はもう真っ白だ。
――――
あとがき
大変遅くなってしまって申し訳ございませんでした!
初のジョセフへの挑戦に少々緊張ぎみであります(゜Д゜)
よ、よろしければ受け取って下さいませ!
更新日 2013.12.08(Sun)
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