短編(jojo) | ナノ





 みょうじなまえには、最近気になっている人がいた。
 ほう、とまるで恋する乙女のような雰囲気でため息をついているが、彼女は決して恋をしている訳ではない。いや、《憧れ》という部類に《恋》があるのならば彼女は《恋》をしているのかもしれない。
 熱い視線のその先には、一人の女性がいた。友人であろう二人と仲良く談笑しながら昼食をとっている。頭に二つの団子、後ろの長い髪は三つ編みで纏められている。猫耳のようにも見えるその髪型をしている女は、空条徐倫という。たびたび問題を起こしては刑期を延ばしている女囚である。
 とても気が強いとの噂だ。

(あの強くて逞しい、それでいて儚い瞳。タフな精神。セクシーなポーズ……どれをとっても男に負けない素敵な女性……)

 恋をしたことがない訳ではない。ホモでもない。普通に異性に興味がある。ただ、徐倫という女性がなまえにとって輝く眩い存在だということなのだ。
 彼女に近づきたい。彼女と話せるようになりたい。しかし、拒否されたら、拒絶されたらどうしようという不安が大きい。彼女達のいる刑務所という場所は、ロクな人間がいないというのが一般的な考えだ。近づけば警戒だってされる。もともと、弱気でヘタレななまえは憧れの人物に声をかけることすら心臓に過負荷を与える。それでも徐倫といつしか笑って話せるような日を夢見る。
 なまえの強い思いは、粉雪のように少しずつ積もっていったのだった。


 * * *


 空条徐倫を初めて目にしてからどれほどの時が流れたのだろうか。偶然、彼女と話す機会を得たなまえは浮足立っているものの、同時に大きな悩みも抱えていた。その悩みを、最近になってよく話すようになったエルメェスとFF(こいつはプランクトンである)に打ち明けていた。

「つまり、その……なまえは徐倫が大好きで、話しかけたいけれどアナスイが怖くて無理、と?」

 机に突っ伏したまま、ボソボソと打ち明けると、一瞬の沈黙ののち、おずおずとエルメェスが聞き返す。うん、とくぐもった声でなまえが返すと、エルメェスとFFは顔を見合わせた。

「あんな奴気にする必要ねーだろ? さっさと声かけてスッキリしちまえよ」
「だって! だって兄貴ィあの野郎、変なポーズしながら『祝福しろ』だとか抜かしたんですぜ!? わたしが近づくたびにギロリと睨みきかせちゃってくれてさァー! おかげで怖くて徐倫に話しかけるどころか近づくことすらできない……うぅっ」

 なまえは勢いよく顔を上げたかと思えば、すぐに涙目になって右腕で涙を拭うようにして泣きまねをした。

「そりゃ気のせいだって。もともと目つきが悪いだけだっつーの。っていうかテメー今あたしのことなんつった? 兄貴とか言ったか?」
「それこそ気のせいですよぉ……でもまあ、兄貴の方が目つきがわる――」
「てンめー! やっぱ言ってんじゃあねーかよ!」
「ぎゃあっ、冗談なのに! ……あ、ちょっとやめて《キッス》のシール顔に貼らないでッ、剥がそうとしないでッ」
「はっはっは……てめーはあたしを怒らせた」

 こんなふうにじゃれ合っていては、いい案も思い浮かぶことがない。エルメェスのスタンド《キッス》の能力である《シール》で二つに増えた頭のまま、ニヤリと悪どい笑みで追いかけてくる彼女から全力で逃げ惑うなまえは先ほどよりも泣きたそうな顔をしている。
 シールで増えた《モノ》は、シールが剥がされると元に戻るが、その時、モノは破壊されてしまう。二つのものが強引に一つになって衝突するように破壊されてしまうのだ。だから、なまえは全力で逃げている。痛いものは嫌なのだ。

「なあ、なまえ」
「なにFF! 今ちょっと命の危機なんだけれどッ」
「アナスイが近くにいなければお前は頑張れるのか?」
「え?」
「隙ありィ!」
「いっ!? ぎゃぁあああああッ!」

 びりっ、という音と共になまえの額に張り付いていたシールが剥がされる。途端、彼女の頭は二つから一つになってバチンッという音を立てる。その際に怪我をしたため顔中血だらけである。絶叫した彼女だが、すぐに持ちなおし、FFへと詰め寄った。

「ど、どういうことですか!?」
「だから、あたしとエルメェスで適当にアナスイを引きつけておいて、アンタは徐倫に近づくっていう作戦だよ」
「そ、それなら多分頑張れると思うけれど……でもさ、そうなるとFFやエルメェスが危ないじゃん。アナスイ、徐倫にはゲロ甘だけど他の人間に対しては冷たいし」
「そりゃ大丈夫よ。あいつ、徐倫と関わって変わったって感じだし」

 なまえの危惧を一蹴するように言いきったエルメェス。彼女の言い方には、なにやら確信があることを匂わせていた。

「んじゃあ決まり。あたしとエルメェスで、徐倫から引き離しておくから。なまえ、あんたは自分の目的を達成させなよ……大丈夫、徐倫はいい奴だ。きっとうまくいく」
「FF……」
「仕方ない……腐っても友人の悩みだ。だから協力してやるよ」
「エルメェスゥ……ありがとう、本当にありがとう」
「泣いて喜ぶのは作戦が上手くいってからにしな。さあ、あたし達には時間がないんだ。さっさとやるぜ」

 にやり、と不敵に笑ったエルメェス、それに頷いて笑うFF。二人をみて、顔を輝かせながら徐倫に近づくことをなまえは決意するのだった。


 * * *


 現在、徐倫は父親の為に戦っている。彼女は、常に敵から命を狙われている。一人でいるとき、彼女は気を抜けなかった。気を抜けば、そこを敵に突かれるというのもあるが、気を引き締めていないと、徐倫は涙が出そうになるからだ。本当は強く気丈な性格でも、彼女にだって弱い部分がある。それを必死に隠して力強く立っているのだ。

(今日は、アナスイもエルメェスもFFもいないのね……ウェザーはエンポリオのスタンドの作る幽霊屋敷の中だろうけれど……)

 一人、廊下を歩いているとふと不安になる。それでも彼女はそれを振り払い、常に敵がきた時の為に目を光らせる。そんなとき、彼女は一つの気配を感じた。背後からだ。振り返ると、最近の戦いで助けをもらったなまえがいた。彼女は、戦いのときに見せた鋭利な眼光をどこへ置いて来たのか、狼狽した表情で視線を宙に右往左往させていた。

「あ、えっと……じょ、徐倫」
「どうしたのよなまえ……あ、そうだ、あの時のお礼言ってなかったわね。貴方ってば風のように気が付くといなくなってだんだもの」
「ごっ、ごめん……その、ちょっと野暮用があったっていうか」
「そうなの? その用はもう済んだ?」
「うん」
「そう、なら良かった……」
「え?」
「ねえ、これからちょっとお茶しない? といっても優雅にくつろげるところなんてないけど……今ちょっと、気を休めたいの。どうかしら? あの時のお礼もかねて、ね?」

 若干警戒しているように見えたのか、徐倫はなまえの緊張と解くためににっこりと笑みを浮かべながら、なるだけ柔らかな声で誘う。すると、なまえは顔を真っ赤にして更に視線を泳がせた。

「あ、あの……わたしが傍に居て気が休まるのか、分かんないけど……その、お願いします」
「え、ええ」

 ちょっと意外な反応に戸惑いながらも、徐倫は歩き出す。彼女の後ろを慌ててなまえは追いかけるが、横には並ばず斜め三歩後ろを歩いた。それが妙にくすぐったく感じた徐倫は立ち止まって振り返ると、腰に手を当てて自分よりも若干身長の低いなまえを見下ろした。

「執事じゃあるまいし、そんなトコ歩いてないでこっち来なさいよ。お喋りしたくっても出来やしないじゃない」
「おしゃっ……!」

 なまえは目をカッと開くと徐倫を凝視した。

「そ、それじゃあ失礼します」
「畏まらないでよ。こっちがくすぐったいじゃないの」
「ごめっ……いや、そのなんか緊張しちゃって」

 苦笑しながら横へ立ったなまえを見て、徐倫は表情を曇らせた。

「あたしが怖い?」
「ええっ!? まさか! 貴方のように綺麗で可愛い強かな女性を誰が怖がるっていうの! ありえないでしょ!」

 徐倫の曇った心を台風でぶっ飛ばすかのように凄まじい剣幕で言い放ったなまえ。彼女の目は本気(マジ)だった。雰囲気に圧倒されたのか、徐倫は茫然としつつ頷く。対して、なまえは言い切ってから恥ずかしくなったのか、顔を赤くして俯いた。

(案外可愛い性格してんのね)

 声には出さずに、横目で隣を歩くなまえを見つめながらひっそりと思う。なんだか嬉しそうな顔だ。どうやら、なまえの言葉は満更でもなく喜んでいるのだろう。
 一人は意気揚々と、一人は羞恥心で真っ赤になりながら歩く。徐倫は、このまま散歩でもいいかもしれない、と思った。

「あ、あの徐倫」
「ん? なぁに?」
「っ……」

 気分がいい徐倫の声は、とても優しく柔らかい。それを聞いたなまえは真っ赤な顔を更に真っ赤にした。彼女は胸に手を当てて「おちつけ」と呟くと、ずっと宙をさまよっていた視線を徐倫に真っ直ぐに向けた。
 ちょっと雰囲気が変化したなまえを不思議に思ったのか、首を傾ぎ、足を止めた。
 真摯な瞳で徐倫の宝石のようなそれを見つめながら、そっと彼女の両手を取る。頬は赤く、握る手は震えているが、目は戸惑いを振り切った色をしていた。

「……お友達から始めて貰ってもいいですか!?」
「……え?」

 不可解な物言いに、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう徐倫。
 ――お友達から始める? 一体どこへ最終的に到着するつもりのなか――
 そんな事を思っていると、焦ったような男性の声が聞こえてきた。ああ、どうやら女囚と男囚の区画を繋ぐ廊下まで来ていたようだ。アナスイの姿が見える。
 ふと、隣から「ひいっ」という引きつった悲鳴が聞こえた。なまえのものである。彼女は顔を青々とさせると一歩一歩と後ずさる。

「きっ、来たァー!」
「え、ちょっとなまえ」
「ごめん徐倫お茶はまた今度ねバイバイッ」

 徐倫が止める暇もなく、なまえは疾風の如く去ってゆく。その背中をほんのちょっぴり寂しそうに見つめた徐倫は、やってきたアナスイを振り返る。

(怖いのは……こっち?)

 怯えたようななまえの表情を思い出しながら思う。彼女がずっとアナスイの顔を凝視していたので、なにを勘違いしたのかキスをせがんでいると思った彼。頬を染めてゴホンと咳払いしながらさり気なく彼女の肩を抱いてキスをしようとしたところを「何してんのよ」の一言で拒まれた挙句、顔を押しのけられて首がゴキッと嫌な音を立て、暫く痛みで悶絶してしまうのだった。
 一方、逃亡したなまえはエルメェスとFFのもとへ駈け込んでいた。

「ありがどーっ、徐倫どいっばいはなぜだよー」
「はいはい分かった。分かったから鼻水たけるのだけはよせ」
「だったらあたしが飲ん――」
「でやらんでいい」

 号泣しながらエルメェスにすりよっているため、彼女の服はなまえの鼻水と涙でグショグショだ。それでも拳を握っているだけで振り下ろさないのだから、彼女は面倒見がいいのだろう。
 暫く泣いたのち、落ち着いたなまえはぐちゃぐちゃになった顔をハンカチで涙などを拭って綺麗にする。その後は、目的第一段階クリアしたことの達成感と幸福感の余韻に浸るのだった。





――――
あとがき

 時間軸を亜空間に飲み込ませて書きました! きっと、徐倫は男女関係なく魅了しちゃう綺麗でタフな精神を持っているんだろうなあと思います。なんたって承太郎さんの娘ですもん。
 この後、ちょっとずつ徐倫と話せるようになって夢主が感激してればいいなぁ。
 なんとなく雰囲気がきゃっきゃっうふふっな感じになって最初は気にも留めなかったアナスイがガチにメラメラと闘争心を燃やして行ってくれたらいいなあ(#^ω^#)ムフー

 匿名様、今回は一番のりにリクエストしてくださりありがとうございます^^
 PS3と共にASBのソフトを購入してその日は設定だけで終わりましたが、本日3部と4部をクリアしてボス二人をゲッツしましたっ。
 DIO様使うと異様にバトルがはやく片付くので、やはり強いのだなあと思いました。一番苦戦したのは露伴先生なんですけどね (`・ω・)っ≡つ ウオオオ!
 このように、駆け足なお話しになってしまいましたが、受け取って下さると嬉しいですっ。



更新日 2013.08.31(Fri)
はじめはお友達から?

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