短編(jojo) | ナノ


 少女には、絶対の信頼を寄せる相手がいた。
 少女には、失いたくない可愛い友人がいた。
 少女には、だいじな唯一無二の恩人がいた。
 少女には、彼女の手で惨滅すべし男がいた。
 少女には、まもると誓ったカップルがいた。


 ある晴天の昼下がりのとこである。紳士を目指す一人の少年と、淑女を目指す一人の少女が、一本の大きな木の陰に隠れながら小道をあるく可愛らしい少女を見つめていた。少年の頬は可愛らしい少女を見るとぽう、と頬を染める。そんな彼を見た同じく木陰に隠れる少女は言った。

「ジョジョ、話しかけに行きましょうよ」
「ちょっと待ってくれ、もう少し心の準備がしたいんだ」

 《ジョジョ》と呼ばれた少年は弱弱しく答えた。すると、彼の隣に立つ少女は目を三角にする。

「そんなことを言っているうちに、彼女は行ってしまうかもしれないのですよ? さあ、ジョナサン・ジョースター、ここであなたの度胸が試されるわ。あの可憐な少女エリナを明日のデートにお誘いするのです!」
「なまえ先輩……わ、分かりました。僕、頑張ってみます!」
「ええ。それでこそジョースターさんの息子ですわ」

 なまえと呼ばれた少女はにっこりとほほ笑むとジョナサンの背中を押した。《ジョジョ》とは、彼の愛称であったようだ。
 背中を押されたジョナサンは、一目散にエリナという少女のもとへと駆けて行った。照れながら会話をする二人を見つめているなまえの表情は穏やかである。
 なまえは、本名をなまえ・みょうじという。今でこそは富豪みょうじ家の姓を名乗っているが、その昔、彼女は貧民街で生きていた。彼女がまだほんの幼いとき、両親は彼女を育てることを諦めて彼女を捨てようとした。そのとき、偶然にも一人の男が彼女を引き取ると申し出てきた。その男こそが彼女が現在世話になっている主である。なぜ、貧民街育ちの人間を引き取る気になったのか、気がしれない。それでも、なまえの両親は厄介払いできるだけでなく多くの金が手に入るとなると喜んで彼女を売った。売られたなまえは、全身を綺麗に洗い、伸び放題な髪や爪を整え、柔らかく肌触りの良い上等な召し物に着替え、お化粧までした。そして、淑女になるための厳しいレッスンを科せられるようになった。ときどき、貧民街出身である彼女を腫物のような扱いをする人間が嫌味ないたずらを仕掛けてくるが、そこは貧民街で培った鋼の精神で打ち砕いてきた。簡単に言えば逆に仕掛けて来た人間のメンタルをボロボロにしてきたのである。
 仲間のいない中、彼女は強かに生きた。そんな、目まぐるしい日々の中で、彼女は出会ったのだ。一人の純粋な少年と。その彼は、彼女を認め、彼女を尊敬した。彼女も、その彼を認め、尊敬した。彼女が出会ったその少年こそ、ジョナサン・ジョースターその人である。
 ジョナサンは学校での出来事を楽しそうに、ときに気だるそうに語り、なまえは女性の嗜みである御稽古のことを気だるげに、ときに楽しそうに語った。二人は直ぐに仲良くなった。そして、なまえはジョナサンを可愛い後輩と思い、ジョナサンは彼女を頼りになる先輩と思うようになったのだった。

(にしても……ディオという少年がジョースター家に養子として引き取られてからというものの、ジョジョの周りから友人が消えていったりした……これは一体とういうことなの?)

 楽しそうに会話をするエリナとジョナサンと合流し、小川のほとりで楽しくお喋りを展開している中、なまえは一人、考え込んでいた。ちらりと横を見れば幸せオーラ全開のジョナサン。彼にとって、エリナこそ彼の光なのかもしれない。

(ならば、私にとってジョナサンは希望……彼が輝くのならば、私はエリナと彼を守るわっ!)

 なまえは密かに誓ったのだった。

「先輩、難しい顔をして、どうしたんですか?」

 ふと、エリナとジョナサンが心配そうな表情で彼女を見つめてきた。そんな可愛い後輩二人にニッコリと笑みを返すとなまえはジョナサンの頭を撫でた。すると、恥ずかしかったのか、ジョナサンは慌てて離れようとする。

「あらあら、ジョジョったら、なまえさんに頭を撫でられて照れているのね」
「そうなの? ジョジョ?……ふふ、可愛いところがあるのねぇ」
「ふっ二人とも! からかうのは止めてくれ!」

 三人は笑いあった。朗らかに、穏やかに、それはもう川のせせらぎを聞いたときのように安らいだ気持ちで笑いあった。
 そんな幸せな時間のあと、事件は起こったのだった。
 なまえは、《ある事実》を知った瞬間、自分が幼い頃から積み重ねてきた《淑女》という肩書きの積み木を全てかなぐり捨てて、ドレスから乗馬用の服に着替えると走り出した。目的の人物の姿捉えると、彼女は罵るようにその人物の名を叫んだ。

「ディイイイオオオッ!」
「おや、君はなまえ・みょうじ……そんな大声を出しては、淑女とやらのたしなみがなってな――」
「私の精神テンションは今、貧民街時代に戻っている!」
「……乗馬用の服に着替えてまで僕のところに来るとは、一体どういうつも――」
「容赦なく貴様を叩きのめす覚悟がある! 私には、その技術がある!」

 びしり、となまえはディオを指さした。

「ほほう、貴様も貧民街出身だったとはな……どおりできな臭い淑女であったわ――」
「よくも私の大事なジョナサンとエリナの仲を引き裂いてくれたわね、ディオ……同じ貧民街出身でも同情なんかわかないね、むしろ反吐がでる」
「ふん、元をたどれば君のためさ、大好きなジョジョを君の――」
「こいつはクセェ! ゲロ以下の臭いがプンプンするぜぇ!」
「いい加減人の話をきけェ――いッ!」

 なまえはディオの顔めがけて砂を蹴り上げる。目つぶしだ。まさか、本当に仕掛けて来るとは思いもしなかったのか、ディオは不意を食らって見事なまえの作戦にはまった。
 体勢を低くすると、一気に彼女はディオとの間合いを詰めた。

「覚悟とは! 暗闇の荒野に! 進むべき道を! 切り開くことだァ――――ッ!」
「ぐあああああっ!」
「このなまえ、容赦せん!」

 右手で拳をつくり、身体を捻った。そして、その勢いのまま彼女はディオの顎めがけて強烈なアッパーをくらわせたのだ。見事に攻撃を受けたディオはその勢いのまま吹っ飛び、木に激突した。そこを通りかかったディオの取り巻き達が偶然目撃し、なまえは暫く「ゴリラ女」やら「男女」やら「怪物」やらと罵られるようになったのだった。


 7年という時が流れた――
 ディオはジョースター家の正式な養子として迎えられ、そしていつの間にやらジョジョと彼は親友と周りに呼ばれるようになった。しかし、唯一、そんな彼を疑っている人間がいた。
 なまえである。しかし、彼女は過去の出来事からジョースター家には近づくなと言われていたために《危険》を察知していても知らせる術がなかったのだった。
 彼女が、引っ越して偶然にもエリナと再会してから数日後の夜。約7年ぶりに彼女はジョナサンと顔を合わせるとことなった。父も家も全てを失い、全身に酷い火傷を負ったジョナサン・ジョースターに。


 * * *


 ごうごうと唸る荒波。強風に煽られながらも船は状態を保っていた。その中では、阿鼻叫喚の嵐。悲鳴が悲鳴を呼び、恐怖が充満する。そんな中で、船の奥の奥、荷物倉庫の様な場所で、一人の精悍な青年と、不気味な生首をもつ蒼い顔をした中国人の男が向かい合っていた。互いに牽制していると言ってもいい。
 生首は笑う。

「ジョジョ……見ろ、この情けない姿を……しかし、俺はあえてこの身を晒そう。これは貴様を尊敬しているからだ」

 そして、生首は言う。貴様は我がボディとなり、我が永遠の繁栄の未来となるのだと。
 生首は目に力を入れた。ジョジョと呼ばれた青年は、生首が何をやろうとしているのか察し、青ざめた――と、その時だった。

「ディイイオォオオッ!」
「!? 避けろワンチェン!」

 身をひるがえした中国人の男(こいつはゾンビだ)のいた場所には、ズドンと大きな穴があく。その傍には、一人の女が立っていた。

「貴様かなまえ! 毎度毎度俺の邪魔をしお――」
「この空気の読めない奴め! いつもいつもジョジョとエリナの幸せを邪魔しおって……そんなにあんたはジョジョが好きか! え? ホモなのか! 気持ち悪いわ!」
「黙れ! そして俺は断じてホモではないッ。おいジョジョ! 貴様、人をさげすむような目で俺を見るんじゃあない! 誤解だ! 濡れ衣だ!」
「アンタの様な奴に、ジョナサンは婿には出しません! どうしてもというのならば、私を倒してからにしなさい!」
「なまえ! 悪ふざけも大概にした方がいいぞ。このディオを愚弄しておいてただで済むとおも――」
「行くぞ!」

 なまえは走り出した。

「待って下さい先輩! 波紋使いでない貴方がゾンビに近づいてちゃあダメだ!」
「ふっ……ジョジョ、私がなんの対策もなしにこのゾンビが徘徊する船に乗り込んだと思う?」
「え……ま、まさか! あるのですか! その対策法が!?」
「構えろワンチェン! なにか来るぞ!」
「この小うるさい小娘がァ! 一体どんな対策をしてきたァ!?」

 なまえはフッと不敵な笑みを浮かべ、先程の大穴を開けた道具である大きなハンマーを走りながら構えた。

「普通の人間がゾンビを倒す、その対策法とは!」
「対策法とは!?」

 ジョナサンはごくり、と生唾を呑む。ディオは青ざめ、ワンチェンはカウンターを仕掛けるつもりか、体勢を低くした。

「その、対策法とはァアア!」
「対策、法とは!?」
「――ん〜〜〜ないっ!」
「……はッ?」

 思いもよらない回答に、なまえ以外の者達全員が唖然としたとき、その隙に大きなハンマーで彼女はワンチェンの顎を叩き上げる。その勢いのまま、船のスクリューシャフトに彼は挟まってしまった。ゾンビの生命力とパワーは凄まじいが、脱出できるほどの力はないらしい。押しつぶされまいと身を守るだけで精いっぱいのようだ。
 一方、ディオは攻撃からなんとか逃れて髪の毛を器用に天井を伝うパイプに絡ませて彼女らを見下ろしていた。

「なまえ……貴様はいつもいつもこのディオを小馬鹿にし、弄んでくれたな……」

 怒りで声を震わせながら、ディオは血走った真っ赤な瞳で呑気に欠伸をしているなまえを見下す。

「ふん、ジョジョに手を出そうとするディオ、君が悪い」
「だから違うと何度言えばわかるのだ、この牛頭めがっ」

 ジョナサンの隣に移動したなまえは余裕の笑みを浮かべてディオに切り返す。ディオは怒り狂った。

「なまえ先輩、女性があまり大暴れしたりしないで下さい……あなたの父上が悲しみますよ」
「お父様は強くなれとおっしゃられましたの……まあ、目の前の吸血鬼を退治したのちに淑女をめざしますわ」
「せ、先輩……」

 ほほほ、と上品に笑ったのちなまえは無邪気な笑みを浮かべる。その表情を見たジョナサンは、諦めたように、けれどどこか嬉しそうに笑った。

「ぬう……女にしてこの怪力、この戦いの慣れ……貴様、一体何者だ!」

 ディオはこめかみに青筋を浮かばせて吠えた。そんな彼を見上げながら、にやり、と悪戯な笑みを見せる。一歩、彼女はジョナサンより前に出ると宣言した。

「紳士全力応援支援機構第一人者なまえ・みょうじと申す! 以後、お見知りおきを。ディオ・ブランドー君?」





―――――
あとがき

 なんじゃこりゃ。
 ギャグは勢いが大事! と聞いて勢いに任せて書いた結果がこれか!
 誰だよ! 勢いが大事だって言った奴! 出てこいや!
 ……と、責任転嫁みたいな事やっていますが。
 すみません、悪いのは私です<(_ _)>

 向伊実様、できるかぎりギャグテイストでジョナサンを頑張ってみましたが……
 なんだか、ディオが大半を占めているような気がしてなりません! ごめんなさい!
 裏設定で、夢主が富豪に引き取られたのは死んだ娘に似ていたからとかなんとか……はい、すみません、いらぬ情報でした。
 このような話になってしまいましたが、受け取って下さると嬉しいです。
 リクエストありがとうございました!



更新日 2013.07.30(Thu)
(紳士限定)全力少女

[ prev / next ]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -