短編(jojo) | ナノ


 私には、自慢の幼馴染がいる。
 強くて優しくて勉強ができるだけでなくスポーツも万能。内面が素敵なだけでなく外見もレベルが高いのなんの。ハーフだから、青に少し緑の混じった綺麗な瞳、スッと筋の通った鼻、分厚い唇、全体的に堀の深い顔、おまけに195センチという日本人では考えられない高身長。
 そんな素敵無敵な男が私の幼馴染である。その幼馴染の名は空条承太郎。彼のお家もどこぞの豪邸にも負けない立派な日本家屋である。
 彼との出会いは、私がまだまだ2歳の頃――勿論私に記憶はない――、私のお母さんが彼のお母さん(通称:聖子ちゃん)とお友達だったので、お互い子育てが軌道に乗ったころにお互いの子供を引き合わせたのがきっかけだった。その時、彼は小さな私をひょいと抱き上げて甲斐甲斐しくお世話をしたそうな。そんな彼の腕の中で私も嬉しそうに笑っていたとか。
 《彼》の腕に抱かれてたとか、人生のうちで最高の出来事ですよね。
 彼は、私より一つ年上だったから、お兄さんらしくしようと一生懸命だったと聖子ちゃんは言っていた。《彼》がお兄ちゃんだとか幸せすぎて卒倒しそうです聖子ちゃん。
 いつしか、《彼》はお父さんが海外からなかなか帰って来なくて寂しさに耐えられなくなったのか――高校で番長となっていました。彼はとても目立つので、よく喧嘩をふっかけられるのだが、その度に叩きのめして病院送りにしてしまったのも原因かもしれない。
 でも、そんな血なまぐさい噂があったとしても、私は彼を恐れたりしなかった。小さい頃から優しくて頼りになる私の大事な幼馴染ですもの!

「みょうじちゃん」
「ん?」

 ふいに呼び止められて私は歩みを止めた。今日はちょっと遅刻しちゃったから、早く行きたいんだけどなぁ。《彼》に会いたいから。

「ちょっといいかしら?」
「今急いでるんで後にしてもらえます?」
「紀子、さっさと要件言っちゃいなよ! この子に気遣う必要なんてないわ!」

 私は、数人の女子、しかも先輩に取り囲まれてしまった。あらあら先輩方、そんな怒り狂った表情をして、可愛いお顔が台無しですぜ。

「みょうじちゃん、いい加減JOJOから離れてくれないかしら?」
「貴方が近くにいるせいで、JOJOに彼女が出来ないの」
「そうなのよぉ、私達、JOJOともっとお近づきになりたいの」
「……はあ」

 私は生返事をした。すると、それが気に入らなかったのか、先輩方の目が剣呑に光る。しかし、私は彼女達に怖気づくことなく立ち向かった。

「悪いけれど、それはできませんね」
「はあ!?」
「なんでよ! あんたの所為でッ――」
「空条先輩は! とってもカッコイイから女の子にも困らないでしょ? 私が居たっていなくたって、関係ないですよ」
「それは――」
「それとねぇ! 私は空条先輩と一緒にいたいから居るの。先輩達にとやかく言われる筋合いはないですね! それと空条先輩の好みのタイプは大和撫子なのでもっとおしとやかにすれば振り向いて貰えるんじゃあないですかねぇ!」
「なによッ、後輩のくせに生意気ね!」

 いつも、強い幼馴染の傍に居たせいか、私は先輩だろうがなんだろうが強気に出ることがある。でも、なにも態々私の我を通す為じゃあない。理不尽なことをされたとき、身を引いてはならないとき、敵に物おじせず、立ち向かうのだ。
 挑むような姿勢の私に、集団でかかっているので最初は強気だった先輩達が後退し始めた。あともう一押しかしら。

「おい、なまえ」

 私が先輩に畳み掛けようとしたときだった。ふと、聞きなれた声が私を呼んだ。通学路の先を見れば、大きな体の学生が私を見ていた。

「承太郎くん!」

 私は嬉しくなって、先輩を押しのけながら、大きな学生もとい私の幼馴染である空条承太郎のもとへ駆けて行った。

「どうにも見かけねぇと思えばなにやってんだ」
「えへへ、ちょっと寝坊しちゃって……」
「はぁ……寝癖、ついてるぞ」

 呆れたような表情を浮かべると、承太郎くんは私の寝癖を直すように髪の毛を梳いてくれた。武骨で大きいけれど、繊細な動きをする彼の手がくすぐったくて、私はクスクス笑いを浮かべてしまった。
 ちらりと後ろを振り返れば、先輩達が悔しそうに私を見ていた。見せつけるようにして、私はあっかんべーと舌を出しながら承太郎くんに引っ付いた。すると、上から「重いぞ」というちょっと失礼な言葉が降ってきた。顔を上げると口の端を少し上げて、優しい色をした目で私を見下ろす承太郎くんと目があった。……あ、ちょっと今キュンってなった。
 グシャグシャと少し乱暴に承太郎君が私の頭を撫でる。せっかく梳いてきた――寝癖あったけど――髪がぐちゃぐちゃだ。

「あーもー、酷いよ承太郎くん。ぐちゃぐちゃだよ」
「寝癖つけてきた奴がなに言ってんだ」
「そっそれはちょっと寝坊したから、しっ仕方ないんだよ」

 言い返せる状況なのに、言い返そうとして結局自信がなくなり言葉が尻すぼみになる。悔しいので承太郎くんの制服に皺が出来てしまえ、と私は強く裾を握った。
 暫く通学路を二人で歩いていれば、校門が見える。学年の違う承太郎くんとは、そろそろお別れだ。また、下校のときまで暫く会えない。

「あ、じゃあ承太郎くん、またね」
「ああ……おい」
「なに?」
「……男には気を付けろよ」
「……? うん、わかった」

 分かれる際、毎度恒例になっている承太郎くんの「男には気を付けろ」という警告。以前、私が承太郎くんの重荷になってはいけないと思って彼氏を作ろうとしたときにちょっとしたトラブルがあったことが原因だ……ったと思う。
 あれだね、承太郎くんはちょっと心配性なんだね。優しいなぁ、こんなお兄ちゃんが居れば私、彼氏なんていらないかも。
 私は、承太郎くんと別れたのち、教室へと向かった。戸を開けると、朝特有の喧噪が広がっていた。いつも通りなクラスに私は苦笑して自分の席へ着いた。


 放課後――
 早くいかなければあの取り巻き達が承太郎くんを取り囲んでしまう。私は急いで立ち上がって鞄を取る。

「みょうじさん」
「はい?」

 駆け出そうとしたときだったので、体勢が前かがみな状態だ。私はそのまま振り返る。その先には一人の男子生徒がいた。彼は確か、同じクラスの松本君だった気がする。私は首を傾げながら「なにか?」と問う。すると、彼は少し照れくさそうにしながら、首の後ろを掻いた。

「あ……その、ちょっと、話があるんだけど、今、いいかな?」
「……どれくらいかかる?」
「あ、そんなに時間は取らせないよ。直ぐに、済ませるつもりだから」
「ふぅん、そう……まあ、すぐに終わるんなら、走れば間に合うわね」

 承太郎くんの姿を思い浮かべながら、私は肩を落とす。今日は遅刻してばかりだ。
 私は、松本君が案内する場所へと向かった。


 * * *


 みょうじなまえっていう女は、とことん世話の焼ける奴だった。
 小さい頃から甘えたで、間抜けな面がある。それでいて強がりなのだから世話ねえ。
 あんな奴、なまえ一人で十分だ。
 おまけに、男を見る目がねえ。騙されやすいにも程があるくらいだ。ちょっと大人しい雰囲気を出されたらコロッと騙されて平気でついて行く。初めて彼氏を作った時だって、怯えて俺の所まで逃げ込んだのは記憶に新しい。だからあれほど男には気を付けろと言ってんじゃあねーか。


「……」

 空条承太郎は朝から、胸騒ぎを覚えていた。朝飯のときに自慢の湯呑にひびが入ったからか、朝に目覚めが悪かったからか。原因は定かではないものの、妙な物を感じていた。極めつけに、なまえは珍しく遅刻してきた。
 最後の授業を担当する教師がぶっ倒れて自習になったので屋上に出て彼は煙草をふかした。それでも胸に渦巻く不安感がぬぐえるわけがなかった。
 授業終了の鈴がなれば、静かだった外は途端に騒がしくなる。10分もしないうちに生徒らが校舎を出て行った。

 ――なまえも待っているだろうし、そろそろいこうか――

 煙草をもみ消して立ち上がる。屋上を出て階段を下りると、たむろしている不良が居た。邪魔だな此奴ら。上から見下ろす承太郎の存在に気づくと、奴らはニヤニヤという不快な笑みを浮かべて彼を見上げてきた。

「おお! JOJO、おめーの周りに引っ付いてる子犬がよぉー、今さっきやばそーな奴に連れてかれちまったぜぇ」
「なに?」

 承太郎のこめかみにピクリと筋が走る。それに気づかない不良たちは話を続けた。

「ああ。連れて行ったのは奴らのパシリだったから間違いねーぜぇ」
「どこだ」
「あー、でもやっぱりどうだったかっ――」

 はぐらかそうとする男の襟首を片手で掴み上げる。高身長なうえに彼らよりも数段上に立っているので、掴まれた男子生徒は見事に宙ぶらりんになってしまったのだ。凄味の聞いた承太郎に、宙ぶらりんな男子生徒だけでなく、彼の友人たちも身を竦ませた。

「言え」
「ああああこっ校舎裏だ! そこが奴らのたまり場なんだよぉ!」

 情報を聞き出せた承太郎はパッと手を離すと、彼らにもう興味はないのか、大股でその場を後にする。向かった先は、勿論、校舎裏である。


 * * *


 松本君について行くと、薄暗い校舎裏に連れて行かれた。辺りには木々が生い茂って丁度陰になっているから暗いのだ。わざわざここまで連れてきたからには、相当な訳があるのだろう。さっさと済ませて承太郎くんの所へ行かなくては。

「で、なんの用?」

 私は本題に入る為に話を切り出した。すると、松本君は唐突に私の両手を掴むとグッと顔を寄せて来た。ちょっと、近っ……!

「君が好きなんだ!」
「はぁ!?」
「ずっとずっと好きだった……でも、君はあのJOJOと一緒に居るだろう? でも、僕には頼りになる先輩達がいるし大丈夫だよね」
「なに言って……」

 松本君の言葉に気を取られていたせいか、気づくのが遅れたけれど、あたりを見渡せば顔を知らない男子生徒数人が私達を取り囲んでいた。どうやら、彼のいう「頼りになる先輩」が彼らなようだ。
 私は舌打ちをしたくなったが、ここは穏便に済ませて帰らせてもらおう、となんとか苛立ちを抑え込む。

「あの、ごめんなさい……私貴方のことあまり知らないの。だから――」
「じゃあ、今日から知ればいいじゃあないか。僕は君のことをよく知っているから大丈夫」

 怖ッ。なにそれストーカーちっくで怖いんだけど。私は不快感で眉間に皺が寄りそうになる。けれどもやっぱりここは大人になって笑顔を取り繕った。そして、もう一度「気持ちは嬉しいけれど、ごめんなさい」と断った。すると、目の前の松本君の目から光が消えた。
 突然の変化を訝しんでいると、彼は「そう……分かった」と呟く。その呟きを聞いたのち、私の体は一気に地面に叩きつけられた。

「ちょっと、なにすんの!?」
「さっすがJOJOの連れ、こんな状況でもめっちゃ強気だなぁ」
「離せ、離せ!」

 私が無様に地に伏せている原因は、周りにいた先輩らが私を取り押さえているからだ。この野郎共、妙なところに手を這わせるんじゃあない!
 先輩達の会話から分かったのだが、松本君、マジに私のことが好きだったらしい。先輩らに相談したところ、彼らが後ろ盾になってやると申し出た。しかし、条件として、もし断られた場合、私をその場で――まあ、今の状況でお察しいただきたい。

(冗談じゃあない! こんなところでこんな奴らに辱められたたまるかっての!)

 しかし、悪あがきをしようにも、流石は男子、全然ビクともしない。
 身動きできない手足に、私は段々と恐怖を抱き始めた。いやだ、きたない、こわい、やめて、やめてっ。

「てめーら、そこで何をしている」
「っ!」
「げっ、てってめーは!」

 聞き覚えのある声に私はドクン、と胸を高鳴らせる。押さえつけられる顔を無理やり上げて私は声の方を見た。
 夕焼けを背に仁王立ちする雄々しい姿。手はポケットの中に突っ込まれ、学生鞄は脇に挟んである。帽子の鍔の下から降り注ぐ鋭い眼光は、私の全身の産毛を総毛立たせた。
 やろうども、やっちまえ! 時代劇でよくあるような悪役のセリフが聞こえ、囚われの身の状況なのに笑みがこぼれる。幾人のタッパ張った男子生徒に囲まれた承太郎くんだが、物おじせずに、ただ煙草に火をつけた。
 男子生徒たちが一気に飛び掛かる。承太郎君は「オラァ!」と拳を繰り出した。するとどうだろうか、正確に相手の顔面に拳を叩きつけるだけでなく、長い脚で隙のできた相手の脇腹を蹴り上げる。襲われたのは承太郎くんだが、襲った本人たちが病院送りレベルへとなってしまった。すっ凄い!
 松本君はいつの間にか姿を消していた。辺りを見渡せば、承太郎くんの足下に転がっている。逃げようとしたところを承太郎くんが見逃さずにボコボコにしたようだ。

「あとはてめーだけだな」

 じゃり、と空条君のつま先が石を踏む。
 彼のいう「てめー」とは、私を押さえつける男のことである。男は、舎弟がノックアウトされたいま、丸腰だ。承太郎くんは一言、「覚悟はいいな」と言って拳を構えた。


 承太郎くんが先輩たち全員をぶちのめした後、私はたまらず仁王立ちする彼に飛びついた。勢いよく突進したにもかかわらず、彼はビクともせずに私を受け止めてくれた。
 彼は私を咎めるように「自業自得だぜ」と言った。きっと、「男に気を付けろ」という警告を蔑ろにしたことについて言っているのだろう。私は一言、「ごめん」と返して更にきつく抱きついた。ふんわりと微かにタバコの香りがした。

「いいか、なまえ……」

 承太郎くんは、私の肩を掴むと向かい合うように屈んで目を合わせてくる。

「男はみんな狼なんだぜ……気を許したら最後、おめーみたいな草食動物なんざ一口で食われちまう」

 緑の混じる青い瞳が真摯に私を見下ろして言う。真剣なその表情に、私は不謹慎にもキュウッと胸を高鳴らせた。

「じゃあ、承太郎くんは……狼になっちゃうの?」
「……はぁ、やれやれだぜ」

 帽子の鍔をくい、と下げた承太郎くんは、私の問いに答えにならない答えを返して、クルリと背を向けてしまう。そして一言、「帰るぜ」と言って歩き出した。慌ててその背中を追う。喉が渇いたのか、承太郎くんは途中で通りかかった駄菓子屋さんでジュースを買う。私も彼から貰った。ソーダ味だった。

「承太郎くん、承太郎くん」
「あん?」
「私、承太郎くんみたいなお兄ちゃんが居れば、彼氏なんていらないよ」
「ぶっ!?」

 承太郎くんは、私の言葉に相当度肝を抜かれたらしい。珍しく口の中の物を噴き出して私を勢いよく振り返る。私は、彼の顔を見上げるのがなんだか恥ずかしくて前だけを見ていた。すると、彼は暫く凝視したのちに再び前に向き直る。持っていたジュースを一口二口飲んだのちに、缶を通りかかったゴミ箱に捨てた。

「……なら、彼氏でもいいじゃあねえか」
「えっ」
「それなら、兄貴も恋人も両方できて一石二鳥だろ」

 そう言った承太郎くんの顔は心なしか赤かった。夕焼けの所為じゃあない。ずっと、承太郎くんを見ていた私だから分かる、微妙な表情の変化だった。
 私は、自分の顔が物凄いスピードで赤くなっていくのが分かった。そして、その時理解した。私、承太郎くんのことかなり好きだったみたいだ。

「嫌なら断れよ」

 なにも返事をしない私に、嫌がっていると勘違いしたのか、承太郎くんはふて腐れたように言う。そんな彼の武骨な手を掴んで、私は首を振った。

「嬉しいです……」
「……顔、タコ焼きになったタコみてえに真っ赤じゃあねえか」
「……じょっ承太郎くんこそ、リンゴ飴のりんごさんみたいに赤い、よ」
「……」
「……」

 暫く、お互いに無言だった。時間が止まったような感覚だった。
 一秒一秒が長く感じる。汗が、じっとりと滲んで背中を流れた。

「……帰るぞ、うちのババァがおめーに会いたがってる」
「……聖子ちゃん、まだババァって呼ばれるほど年取ってないよ……むしろハツラツし過ぎて若々しいよ」

 言葉はお互いにそっけない。けれど、繋がれた手は、これ以上ない程強く握られていた。





――――
あとがき

 承太郎さんむつかし……でも、身内にはきっとくそ優しいと信じてる。
 身内のように育った幼馴染ならきっと、セコムなみに……。

 水波様、守られで強気ででも承太郎さんには甘えたな夢主でしたが……ごっご要望にお応えできたでしょうかッ。
 なかなかに纏まりのない文章で申し訳ないですが……ううう受け取ってもらえると嬉しいであります!
 リクエストありがとうございました!


2013.07.23(Tur)
守り人

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