鉄壁の少女 | ナノ

19-1



〜第19話〜
強行突破もありなんです




 未起隆君と別れたのち、私と仗助君は、やってきたバスに乗り込んだ。

「あれ、桔梗ちゃん」
「へ?……あ、花ちゃ……ってその腕どうしたのッ!?」

 乗ったバスには、偶然にも花ちゃんが乗っていた。手前の方にだった。仗助君は更に奥の方に入っていく。
 花ちゃんの腕には、頑丈なギブスで固定されており、真っ白い布で首からつっていた。彼女の話によれば、病院に薬を取りに行った時に階段から転んで骨を折ってしまったらしい。病院に行って怪我をしたとは、本末転倒もいい所だ。不幸中の幸いは、病院だったので治療が速かったという事だな。以外にも花ちゃんはトラブルに遭いやすい性質なのだろうか? ちょっと抜けている所もあるから注意不足という事だと思われる。……人の事言えた立場じゃあないけれどさ。
 バスはトンネルに差し掛かった。仗助君は良い席を見つけたのか、いつの間にか座っていた。私もそろそろ適当な席を見つけて座ろうかなんて思っていると――

「仗助見たかッ! 今のをッ!」
「やかましいぞ岸辺露伴ッ! てめーっいつまでもオレに絡むんじゃあね――ッ! やるならバスおりるかッ! コラァッ!」

 私は心臓がひっくり返るかと思った。バス内に怒号が響き、私の情けない小さな心臓は必要以上に飛び跳ねてしまったのだった。ドキドキと落ち着きのない胸を押さえたまま、奥の席を見れば、仗助君と、その後ろにどうやら乗り合わせていた露伴先生がいがみ合っていた。ただ、仗助君は怒っているようだが、露伴先生の方は切羽詰まった表情だった。先生は辺りを見渡す。

「桔梗、君は見てないのか?」
「見たって……なにを、ですか?」

 私と目があった露伴先生は窓の外を指して不思議な事を聞く。何か気になるものでもあったのだろうか。剣呑な雰囲気と妙な焦燥感をもった先生が、自分だけが「なにか」を見た事を理解した時、バスはトンネルを出た。彼がこんな表情を浮かべるのはとても珍しいと思う。多分、いや確実に《スタンド》や《吉良吉影》に関係している事だと思う。今、私たちが追いかけている事件だからだ。
 私は、花ちゃんから離れ、露伴先生と仗助君がいる方へと近づいた。すると、先生は「トンネル内に『部屋』があった」と言い出した。なんでも、その家の中にテーブルの上で横たわる女と包丁を持って女の手首を切り落とそうとしていた男がいたという。私は、先生の真剣な目と表情で彼は《スタンド》の可能性を考えているのだと分かった。しかし、仗助君は何故か信じようとはしなかったのだ。

「僕のいう事を信じないのか? 東方仗助……!!」

 先生は、怒気を孕んだ目で仗助君を睨んだ。

「騙されねーよ! そんなくだらねー「ウソ」で俺を騙して仕返ししたいわけ? 昨日のあんなン家の火事はオレの所為じゃあねーだろーよッ! 逆恨みはやめてくれよ〜〜」
(……え、かっ火事?……そういえば、今日、花ちゃんが有名な漫画家さんの家が火事にあったとか言っていたけれど……それって露伴先生の家!? しかもなんか仗助君が妙に絡んでいるみたいだし……)

 私はその場所に居合わせた訳ではない。だから、ただの憶測に過ぎない。しかし、彼らのこの状況と昨日の仗助君の様子から、彼が露伴先生に何か悪戯らしき事を仕掛けたのが予想できる。被害者でも加害者でもない、只の外野である私は、ただただ何も出来ないこの現状を歯がゆく思いながら狼狽するしかなかった。
 剣呑な雰囲気が漂う中、バスが停車する。すると仗助君は私の手を引いて出口へと向かいだした。なんだか注目を浴びているこの状況で、その行為は更に人の目を引き付けてしまう。
 ヒソヒソと、特にうわさ好きのおばちゃん達が「修羅場かしら?」「元彼対今彼とか……」「あんな清楚そうな子がねー」なんてありもしない事を好き勝手妄想し始めている。……ありえないから! まず露伴先生は恋愛とか興味なさそうだし、私は仗助君一筋ですから!

「ちょっと待て、今は『火事』の事なんか関係ない。お前は僕が『ウソ』をついてるっていうのか?」

 露伴先生は、仗助君の肩に掴みかかると言う。

「頼むよォ〜、いい加減にしてくれよ〜〜。あんたオレの事嫌いなんだろ? ほっといてくんねーかなあ〜お互いよォ〜〜〜〜」

 仗助君は、何か焦ったような口調で言った。……その言葉は、流石に言い過ぎではないだろうか。
 もともと、露伴先生の事が嫌いだというのは分かっていたけれど、流石に、今の彼の発言には眉をひそめてしまう。対して、露伴先生は仗助君の言葉に腹を立てたというよりも、複雑な表情をして。

「サイコロでイカサマするようなウソつきに……いつも言う事とやる事が違うお前のようなウソつきが……このぼくを『ウソつき』呼ばわりするのか?」
「……このバス、あんたが降りんのかよ? それとも俺らが降りんのかよ?」
「……」
(うー、うー……!)

 露伴先生の問いかけに仗助君は全く取り合わず、このバスからどちらが降りるのかを逆に問う。私はただ二人を様子を見ながら困惑するだけだ。今、二人の間に割って入ろうものならば、何かがはじけ飛びそうな気がしてならない。

「本当にお前とは気が合わんようだな! 一緒に戻った所で話が通じないか……」
「そりゃ嬉しいっスね――っ。出来れば二度と会いたくないっスねーあんたとは!」
(ああもう、この二人が揃うと色々と辛いっ……)

 バスを降りたのは露伴先生だった。
 露伴先生が降りて、バスが発信すると、仗助君は腕組みをしたまま「ふん!」と鼻息を荒々しく一つふいた。

「……いいの? 仗助君」
「……」

 私は、窓の外から、どんどん遠ざかってゆく露伴先生の背中を見つつ言った。彼は何も返さない。

「昨日、先生と何かあった事はなんとなく分かったけどさ……いくら常識の範疇を圏外まで飛び出してる露伴先生でも、回りくどく嫌味を言う露伴先生でも、あの状況で嘘を言うような人じゃあないと思うよ」

 仗助君も、知っているだろうけど。……言っても、彼は何も返してこない。
 バスが、次の停車場所に着いた。止まると、出入り口が開く。

「……ちこっとトイレ行ってくるぜ」

 仗助君はそう言って降りる。

「……ふふっ、じゃあ私もトイレ」

 露伴先生の言っていた事、ちょっと納得してしまった。けれど、私はただ、素直じゃないだけだと思う。
 仗助君の後を追って降りると、扉は閉まり、バスは私達を置いて去って行った。

「マジについて来るき?」
「マジについて行くき」
「おめーも大概、露伴をぼろくそ言うよなぁ」
「素直なだけさ」
「素直ねえ……ま、そんなトコもイイけどよ」
「ヒヒヒ、ありがと」

 私達は歩き出した。向かった先? そんなの決まっているじゃあないか。


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