18-4
翌日の夕方――
桔梗と仗助は二人そろってバス停に立っていた。
(昨日はどこかへ行っていた見たいけれど……何だかやっぱり怪しいなあ)
しかし、彼女は気になるものの流石に深く追求をする気にはなれないのか、黙ったままである。誰かに悲しい思いをさせていなければ多少の悪戯も人生の一興だと思いながら空を見上げた。
「おっ」
仗助の頓狂な声に、桔梗は再び前を見た。そこには、昨日出会った『ヌ・ミキタカゾ・ンシ』の姿が。彼はニッコリと微笑みながら桔梗と仗助の方へと歩み寄ってきて「昨日はどーも」と一礼する。
「そちらは、昨日の朝、仗助さんと一緒にいた方ですね」
「あ、自己紹介が遅れました……どうも、桔梗って言います」
桔梗は『ヌ・ミキタカゾ・ンシ』を見上げながら名乗った後、頭を下げる。すると、目の前の彼もぺこりと一礼した。
「仗助さんと桔梗さんは恋人同士なんですか? 昨日、とても仲良さそうに歩いていましたが」
何でもないように発せられた問いに、仗助と桔梗は思わずお互いを見やる。その後、ボッと鍋が沸騰するかのように真っ赤になるとどちらからともなく視線を外す。そんな二人を彼はやはり何でもない、ただの疑問を投げかけただけだと言いたげな表情で見ている。
「お、おお……まあ、な……そっそれよりよぉ! おめ〜昨日あの後どこ行ったんだよ?」
羞恥で顔を赤くしたまま黙って俯いてしまっている桔梗の代わりに、仗助が肯定した。しかしそんな彼も照れくさいのか、すぐさま話題を変える。
『ヌ・ミキタカゾ・ンシ』が『宇宙人』というのならば、無論、彼は家がない。お金だってない筈である。それを、まま心配したのか仗助は問う。桔梗も、なんとなく彼が『宇宙人なのでは?』と思っている為に、仗助の問いへの答えを気にして待っていた。
「未起隆! 未起隆ッ、何してるの! ちゃんとあたしの後をついてきなさい!」
突然聞こえてきた女性の声。その声の持ち主は、引っ越してきたばかりで色々やる事があると愚痴を零した。そんな女を『ヌ・ミキタカゾ・ンシ』は振り返り。
「わかったよ、母さん」
と言った。仗助と桔梗は驚いた。何故って、彼は「一人」で「来た」と言っていたからである。母親らしき女は、未起隆と呼んだ『ヌ・ミキタカゾ・ンシ』に、己が『宇宙人』だ、『空飛ぶ円盤』が宇宙で待ってると言ってからかっているのかと憤慨しだす。そして、彼女は申し訳なさそうな笑顔を浮かべると、混乱している二人をよそに女性は歩み寄り謝ってくるのだった。その事で、余計に混乱させているとは、微塵にも思っていないだろう。
「言わしといて下さい。彼女は僕が『洗脳』して息子だと思い込ましているんです。『支倉未起隆』というのも地球での仮の名なんです」
ヒソヒソと仗助に耳打ちする『ヌ・ミキタカゾ・ンシ』改め、『未起隆』。彼は、転校の手続きをすると言って、自称洗脳した『母親』と共に去って行った。
「……どういう事なんだろう」
「俺が聞きて〜ぜ」
去ってゆく背中を、二人は茫然と見送ったのだった。
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