鉄壁の少女 | ナノ

18-1



〜第18話〜
宇宙人がやってきた!?




 朝、いつものように目が覚めて、いつものように朝食を作って、家族と一緒に食べて、いつものように家を出た。すると、隣の東方宅から仗助君が現れる。いつものように「おはよう」というと、少し擽ったそうにしながらも笑顔で彼は「はよ」と短く返した。
 昨日、私は仗助君に告白された。人気はなかったなかったけれど、外で堂々としかも大声で告白されるだなんて未経験で、凄く驚いた。けれど、同時に今まで感じた事がない程の高揚感、そしてそれによって忘れてしまった呼吸に、文字通り息苦しくなってしまった。それほどまでに、私はいっぱいいっぱいだったのだ。それほどまでに、彼の事が好きだったのだ。私も、すぐに自分の気持ちを伝えたくて、思いを爆発させるかのように叫んで「好き」と伝えた。
 西尾さんの逆襲のようなこともあったが、それのお蔭で私は自分の未知の能力の存在を知る事が出来た。名を《アルテミス》、能力は敵《スタンド能力》を《解除》する事。ただし、条件があって、解除したい能力の《スタンド能力》と《本体》を私自身が知らなければならない。また、能力の作用が《完了》する――例えば、仗助君が物を治しおわる――と、解除する事は出来なくなる。更に、能力を解除するには、私が直接能力の影響を受けている以外は《スタンド》――つまり《アルテミス》――が手で触れないといけないらしい。そこらへんは仗助君の《クレイジー・ダイアモンド》と似ている。
 勿論、私の新たな能力については、承太郎さんに報告した。『矢』の影響だと言えば、承太郎さんはいつもの鉄仮面を崩し、とても驚いた表情を浮かべていた。私も吃驚でしたよ、こんな煩いのが私の分身だなんて。……え、そこ? だなんて突っ込みはなしにしてもらいたい。

「にしてもよ〜〜、桔梗のその《アルテミス》の能力は反則じゃあねーか? お前、この辺りにいる《スタンド使い》の能力と本体殆ど知ってるしよォ〜〜」
「そうでもないよ。解除する為に手で触れなきゃいけないって割には物凄くパワーないし、能力使う度に疲労感とか凄いから燃費悪いし……どっちかっていえば、仗助君の《クレイジー・D》みたいに物を《治す》様な能力が良かったなあ」
「それじゃあ俺と被っちまうぜ」
「だって、仗助君自分の能力じゃ自分の傷治せない癖に他人の為に無茶ばかりするじゃん。だから、私が……その……」

 言葉が続かなくなり、私は足元へと視線を落とす。うう、恥ずかしい。それに斜め横からの仗助君の視線が痛い。

「まあ、時々はするかね、無茶」

 自覚はあるらしい。ばつの悪そうな表情で首の後ろをぽりぽり、と掻きながら言った。
 私は、顔を上げて彼を見る。

「とっ時々ってレベルじゃあないよ……もうっ、仗助君は優しいから他人の為に自分を犠牲にしがちだよ」

 男女問わず、むしろ老若男女問わず彼は優しい。だからこそ、心配になってしまう。

「細かい所にも気づいてさあ……ほら、よく買い物帰りの時の荷物とかすぐに持ってくれちゃうじゃん」

 だから、他の女の子にだって優しいだろう君が、怖い。口にはしなかった言葉は、胸の内で消化しきれずに重石のように私の心を上から圧迫してきた。苦しい。
 仗助君の体が壊れやしないかという心配もある。けれど私にはもう一つ、心配事があった。そう、これはちょっとした嫉妬心という奴だ。お付き合いを初めて早々抱くのがソレかよ、と自分でも呆れてしまう。さっきだって、ちょっとおちゃらけた感じで言ってみたけれど、最後はなんだか自分の黒い部分が滲んできてしまっているようだった。彼にその事がバレてしまいそうで、私は思わず顔を伏せた。

「流石の優しい仗助君でも、そこまではしねーよ」
「へ?」

 思わぬ彼の言葉に、私は伏せていた顔を上げ、仗助君を見た。彼の頬は、朱に染まっていた。

「今までのソレはなあ……まあ、あれだ、下心っつーかよォ〜〜……ンなのはなあ、お前の事が――」

 仗助君はそれ以上言わず、なんだか少し焦ったような表情で私を振り返った。たぶん、今の私の表情は次の言葉への期待に満ち満ちているのだろう。それを感じ取った彼は先ほどから逸らしていた顔をこっちへと向けたんだ。

「お前の、事が?」
「……やっぱ言わねえ」
「なぜ! 意地悪だよォー」
「俺はむやみやたらに言わない主義なわけよ〜〜」

 意地悪い顔で笑いながら、仗助君は言う。けっちいなあ、減るもんじゃあないだろうに。……ああでも、今はいいけどもし直接「好き」なんて言われたら私の中の液体という液体が沸騰してしまうね、これ確実っ!
 結局、彼は続く言葉をそのセクシーな唇で形にする事はなかった。まあ、大体わかっているからいいかな! 仗助君が可愛かったし!
 仗助君が笑えば世界が平和になると、この時の私は本気で思ってしまった。

「にしても、やっぱりオメーの《アルテミス》の能力は反則だぜ〜〜」
「え〜……そうかなあ……あ、でも確かに露伴先生の《ヘブンズ・ドアー》対策には良い能力かもしれない!」
「ん? なんだ、そんな露伴に《スタンド攻撃》されてんのか?」
「頻繁にじゃあないけれど、時々くらう……まあ、先生にはもうスリーサイズやらなんやら知られてるから今更恥ずかしがる事なんてないけ……仗助君? どどどどうしたの?」

 隣にいる仗助君からなんだかすごいオーラを感じた。こう「ドッドッドッドッドッドッドッ――」って言うかんじとか「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……」という感じ……じっ自分でも何を言っているのか分からないけれど、とにかく妙な凄味を感じた。

「露伴のヤロー……いつかぜってーぶちのめす」
「何で!? もっもう何週間……いや、一か月以上も前だよ!?」
「俺が知らねーのに露伴の野郎が知ってるっていうのが気に食わねー!」
「え〜〜〜〜ッ!?」

 大したスタイルもしていないし、むしろ恥ずかしいので知られて欲しくない事を全力で伝えると、アカラサマに嫌な顔をされてしまった。露伴はよくてどうして俺はだめなのか、と。いやいや露伴先生でも駄目だけれど、もう済んでしまった事だしどうしようもないわけですよ。
 私にとって特別な存在である仗助君だからこそ知られるのが恥ずかしい、という事を億泰君と合流するまでずっとしていた私はちょっと馬鹿だと思う。……そこ、もともとだからとか言わない。


 * * *


「最ッ高に「ハイ」って奴だァアアアアハハハハッ!!」
「煩いわよ桔梗!」
「うぎゃあああっ」

 屋上で、空へ向かって叫ぶと後ろから愛の化身由花子様の《ラブ・デラックス》によって首を絞められた。ちょっと、それ以上締め付けられると落ちる、落ちるってばッ!

「仕方ないじゃあないですか由花子様! あの、あの仗助君とまさか両想いだったなんてっ、登校中だってもう、もう……うわあああっ」
「……はあ」

 由花子さんには物凄く呆れられているが、そんな事今の私にはまったく気にならないし苦にならない。なにせ、周りが見えないくらいに「ハイ」になっているのだから!
 休み時間中に叫ぶななんて野暮ったい事言わないで、この感情の高ぶりを抑えきれない私をどうか許して由花子様!

「あ、これって仗助君の甥である承太郎さんや、お父様であるジョースターさんにもご報告した方がいいでしょうか!?」
「要らないわよ、もう雰囲気でバレバレだから」
「なっなんだって――――っ!?」

 そんなに私は分かりやすいのだろうか。聞いてみれば即答で「YES」と返ってきた。何だか無性に恥ずかしくなった。

「うわあああ、これから承太郎さんやジョースターさんにどんな顔して会えばいいんだあああ」
「普通にしてればいいじゃない。それが一番よ」
「……そっすね、もう今更なんだもんね」

 私は大人しく由花子さんの隣に腰を下ろした。見上げる空は、果てしなく青い。

「休日中にデートとか約束は?」
「してません。由花子さんは?」
「……日曜日に、お散歩」

 由花子さんはポッと頬を朱に染めて言った。この時の彼女はとても可愛い。まさしく恋する乙女なのである。流石は愛の化身、由花子様である。

「ほのぼのデートですね」
「ええ」
「いいなあー、いつかしてみたいなあ」
「キスもまだなんでしょ」
「そりゃあ……由香子さんみたいにあまり積極的にはなれないから……なかなか」
「……大事なのは場所じゃあないわ、心と心が通じ合った瞬間よ」
「なっ、なるほど……」

 愛の化身・由花子様から直々にありがたいお言葉を頂いた私は、それを自分の胸に刻み、いつか恋人らしい事もしてみたいなと夢見るのであった。


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