鉄壁の少女 | ナノ

17-4



 出している《レディアント・ヴァルキリー》の体に亀裂が走る。それは防具だけでなく、《R・ヴァルキリー》自体にヒビが入っているのだ。それはみるみるうちに大きくなり、はがれて行った。

「え……え……?」

 《R・ヴァルキリー》の体から脱皮のようにして現れたのは、聖女の姿をした《スタンド》だった。

「どういう……え、ちょっと、私の《スタンド》、だよね?」
「ソウデス、コッカラ 出テ 来タ ノダカラ 当タリ前 ジャアナイ デスカ」
「はっ話せてる……」

 康一君の《エコーズ ACT3》みたいだ、と私は呟いた。

「あ、ええっと……どうやって戦えばいいの、かな」
「タタカウ? タタカウ ダナンテ 無理デス。ダッテ武器トカ捨テチャッタモ〜ン」

 聖女のなりをしている癖に、おちゃらけている目の前の《スタンド》はさり気なくトンデモナイ事を言いやがりました。

「いやいやいやちょっと待ちなさいよ君! 武器とか捨てちゃったもんってじゃあどうやってこの状況を突破するのさ!」
「『君』ジャアナイデス、私ノ名前ハ《アルテミス》……ソコントコ宜シク!」

 表情はほとんど変化ないのだけれど、なんとなく目の前の《スタンド》、《アルテミス》が物凄いドヤ顔をしているように見えた。なんだか自分の分身の割には腹が立つ。

「私ノ能力ハ《解除》デス」
「……え?」
「条件 ハ 満チ マシタ、今ガ アノ クソッタレ ノ 鼻先 ヲ ヘシ折ル チャンス デス!」

 どくん、と私の胸が高鳴る。全身に、何か不思議な力が満ち満ちる感覚がする。

「いけ、《アルテミス》! 《解除(all clear)》!」
「命令 ヲ 受信……確認シマシタ、実行ニ移リマス」

 機械的な言葉に対して、《アルテミス》はまるで儀式的な動きをする。神に祈りをささげる修道女のようなモーションをしたかと思えば、突如空気が振動し、ぴしり、と空間に亀裂が走る。それはどんどんと大きく広がってゆき、ついにはバラバラと崩れて行ったのだった。全ての欠片が剥がれ落ち、消えて見えた視界は、やはり古い橋の上。大きく違うのは、吉良吉影が居ないのと、私がいつの間にか橋を渡りきり、仗助君と並んでいたという事くらいだ。それと、橋の上にいた西尾さんが私と仗助君の目の前に立っていた事も。

「い、今の……桔梗の能力か?」
「……みたい、だね」

 仗助君と西尾さんが驚愕しているが、私だって驚いている。まさか、これは『矢』の影響なのか?

「そ、そんな……ありえない、どうして、能力が解かれるんだ! 何故!」
「ソレハ、本体 ト スタンド の正体ト能力 ヲ マイマスター ガ 知ッテイタカラサ!」

 私を、背後から抱きしめるようにしている《アルテミス》は得意げに言った。何故その二つの情報が必要なのかと私が問えば、《アルテミス》は「解除するには目標が必要」で「目標を定める基準」に正体と能力が必要となると語った。

「さ〜てとォ〜〜、テメーにはちょっと再起不能になってもらうぜ〜〜」
「仗助君、「再起不能」ってちょっとどころじゃあないよ」

 《クレイジー・ダイアモンド》を出現させながら西尾さんに迫る仗助君の背中を見ながら私は苦笑交じりに言う。すると、命までは奪わないからちょっとなんだよ、というよく分からない事を言いだした。うん、男の子の喧嘩ってよく分からないな。

「歯ァ、喰いしばれよォ!」

 仗助君は、怯える西尾さんへ「ドラァッ!」の掛け声と共にラッシュを叩き込む。そして、近くにあった木となんと融合させてしまったのだった。

「……じょっ仗助君」
「加減がきかなかった」
「……お、おおう」

 見事、木になってしまった西尾さんと仗助君を交互に見て責めるように彼の名を呼ぶと、なんとも言い訳くさい言葉が返ってきた。でも可愛いから許す。

「……あ、あのさ」

 一難去って、落ち着き、少々沈黙が訪れた後、私はおずおずと仗助君に歩み寄る。彼は木の方から体をこちらに向けて、向かい合うような形になった。

「……あれ、あの時の言葉は……その、『幻』じゃあない、よね?」

 いつからかけられていたのか、曖昧だったので、もしあの時あの仗助君の言葉が自分の描いたただの妄想だったらと思うと、虚しい。だから、確かめずにはいられなかった。
 背の高い仗助君を近くで見上げると首が痛くなるが、それでも私は答えが欲しくて彼をずっと見つめていた。すると、彼は照れくさそうにそっぽを向いて、首を後ろをソワソワと落ち着きなく掻きながら言うのだ。

「あ、あんな恥ずかしいの、もう一回やれってかァ〜〜? そういう事なら、お前の方だって、俺の抱いた妄想とかそんなんじゃあねーだろうなあ?」
「……ぷっ、ふふ」

 私は失笑した。余りにも、仗助君の反応が面白くて、腹を抱えて笑ってしまった。すると目の前の彼は機嫌を損ねてしまったので、笑いもそこそこに私は彼の両手を取って言った。

「好き」

 ずっと怖くて伝えたくても伝えられなかった溢れんばかりのこの思い、漸く、君に届けられる時が来たんだ。


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