鉄壁の少女 | ナノ

16-3



 青い地球の秘宝、足になじむ砂浜、そしてそこにサンサンと降り注ぐ黄金色の光。私は自分の被る帽子の下からその風景を眺めた。横では、早く遊びたいのか体をウズウズと落ち着きなく辺りを見回している木賊がいる。彼の頭には、ぐずる彼に無理矢理かぶせた帽子があった。

「約束覚えてる?」
「遠くに行かない! 見える範囲に居る! 海には入らない!」
「よし」

 私の許しが出たと判断したのか、「わーい」なんて叫びながら一目散にビーチへと入っていく木賊。そんな彼に呆れながら後を追った。手にはバケツとその中におもちゃのようなスコップが入っている。彼がしゃがんだ隣に一緒になって座り込むと砂浜をほじくり始める。

(……う〜ん)

 特に珍しいものがいなかったので私は場所を少し移動してみた。

「お、貝殻みっけ」

 綺麗な形をしていて、欠けている部分のないものだ。とても綺麗なのでバケツの中に入れた。

「お姉ちゃん見て見て!」
「おう?」

 木賊が取ってきたのは、なんと大きなヒトデであった。それを私の鼻に付きそうなくらいに近づけて見せつけてきた。その所為で私の視界は一面気色悪い模様に覆い尽くされてしまった。思わず「ぎゃあッ」と悲鳴を上げて後ずさる。

「目の前に持ってこないでよ!」
「好きだから喜ぶと思って」
「いやいやいや」

 それはない。私は全力で首と手を左右に振った。
 とりあえずヒトデを水と砂を満たしたバケツの中に入れた。隣には私が拾った貝殻が入っている。

「うひゃーい!」

 木賊は妙な雄叫びを上げて砂浜を駆けまわりだした。この時間帯は人が少ないというかほとんどいないので迷惑になる事はないだろう。私は彼の様子を見守りながら、適当に地面に転がる貝殻を拾い上げては良い物がないかと探した。
 今は朝なので平気だが、これが昼なら暑くて木賊は潰れていたのではないだろうか?

「ん?」

 ふと、木賊の駆け回る音とは別の足音が私の方へと近づいてくるのが聞こえ、そちらへと顔を向けた。眩しい景色の中を、更に光を跳ね返すような白色な服を着た大柄の人物――私は該当する人物を一人しか知らない。

「承太郎さん?」
「ああ」

 お散歩中なのだろうか、承太郎さんがビーチに現れた。戦いますか、逃げますか、近づきますか――って何かのバトルものかよ。
 承太郎さんは、私の近くに腰を下ろすとバケツの中を覗き込む。彼の大きな体のお蔭で、丁度私がすっぽり隠れてしまう程日陰が出来た。

「ヒトデ、か?」
「はい……何の種類かは分からないんですけど、珍しいなあと思って木賊が」

 海と承太郎さんと言えば、彼は海洋学者だったと思い出す。興味深そうにバケツの中のヒトデを見ている彼に、私は「いりますか?」と声をかけてみた。すると彼は私の顔を見てしばらく思案したような素振りを見せると、次に首を左右に振って。

「少し他のも見てみたい」
「そうですか」

 そういって承太郎さんは立ち上がるとどこか別の場所へ行ってしまった。
 再び一人になると、今度は木賊が一目散に駆け寄ってきた。彼は私の所まで来ると、砂のお城を作ろうだなんて言う。特に何もする事がないので私は彼と一緒に砂で城を作った。飾り付けに取った貝殻をくっつけたりして遊んだ。暫くそうしていると、早々に飽きたのか、再び木賊は砂浜を駆けまわりだした。男の子は元気だな。
 私は仕上げとしてお城に木の枝を突き刺すとその場に座り込んで広い海原を眺めた。

「お姉ちゃんお姉ちゃん!」

 5分ほど眺めていると、帽子を被っていない木賊がやってきた。帽子の行方を問うと、近くにいた帽子を被っていない友達に貸したらしい。暑い日はかぶらないと熱中症になると私が口酸っぱく言っていたものだから、心配してやった事なようだ。それで自分が熱中症で倒れたら元も子もないだろうに。

「やれやれ、ほら、私のこの赤いキャップ貸したげる」

 木賊は帽子を貸した友達の家に遊びに歩いていくようだ。ならば帽子が必要だろう。私は自分の被っていたキャップを木賊の頭にかぶせると、彼は心底嬉しそうに笑うと待っている友人の下へと駆けて行った。

「自分が熱中症になったらどうするのさ、世話のかかる奴め」
「それはお前にも言える事だろう」
「へ?」

 私の頭のてっぺんから遥か高い位置で声が落ちてくると同時に、帽子のなくなった頭にぽすりと乗っかる硬い何か。驚いてそれに触れてみればどうやら帽子だったようで――

「じょっじょ、じょ、承太郎さん!」

 私の背後に立っていたのは、爆風でも飛ぶ事のない帽子未装着な承太郎さんだった。うわああああレア! ものすっごくレアアアアアッ!

(っていう事は、私が今被ってるのって……)

 承太郎さんの帽子でした、モノホンです、モノホンなんです!
 色々と感激していると、承太郎さんは私の持つバケツにまだあのヒトデはいるのかと聞いてくる。それに「YES」と答えると、逆光で見えなかったが雰囲気が喜んでいるように見えた。そこで私は、承太郎さんにヒトデの入ったバケツを渡した。すると、そのお礼にか彼は何か奢るだなんて申し出てきた。流石にそれは悪いと断ろうにも、高い位置からくる彼の視線に対して「断る」という行為を執行することができず。私は彼の言葉に甘える事にした。
 近くにある承太郎さんの車へ向かう途中、帽子を被らない彼に「無くて大丈夫ですか?」と問うと「そんなに軟じゃあない」と返された。確かに、承太郎さん屈強の戦士な雰囲気出てますもんね。雰囲気だけでなく中身までハンサムですもんね。……戦士とハンサム関係ないとかいうのは野暮って奴だぜ。
 車の助手席に座ると、運転席に座った彼が私が被っていた帽子を取って自分の頭に乗せる。その被るまでの一挙一動がカッコ良すぎて目が離せませんでした、はい。彼が運転をするので、バケツは私が抱える事になり、車は互いがシートベルトを着けた所で発進した。


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