鉄壁の少女 | ナノ

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 これは、偶然なのだろうか。
 私は、たまたま東方君が出る時間帯と被って一緒に登校(いまいち道を覚えきれていなかったので助かった)し、校舎に入った所で別れた。その後は私は職員室、彼は教室へと向かった。登校中、彼はいろんな女の子に話しかけられており、やっぱり人気者なんだなあ、と確信した。……ちょっと女子の目が怖かった事は秘密だ。
 担任に連れられていざ、教室に入ればなんと、そのクラスには東方君がいた。なんというか、世界は狭いな。そしてまた偶然か、彼の隣の席(因みに窓際の席)となり、知っている人が隣という事でとても心強く思った。……女子の目が怖かったけれど。

「おっす、さっきぶり」
「そうだね。おはよう、さっきぶり」

 東方君とあいさつをしたら一斉にクラス中の女子たちの視線が集まったのは気のせいだろうか。
 不安要素がたくさんのような、そうでないような一日を過ごした後――何だか無事でいる事を嬉しく思った。お昼は「何故か」色々な視線を浴びながら一人で過ごしました。し、仕方ないじゃないですか、まだまだ友達がいないのだし。……自分で言ってて虚しい。
 最後の授業が終わると、私は部活を見る事無く帰ろうと思い、帰りの支度をする。今週中は、家の片付けが忙しいので部活めぐりは来週あたりからだ。

「お、山吹帰るのか」
「うん。家の片付けがまだ済んでないからその手伝いに」
「ふぅん……ならどうせ同じ方向だし一緒に帰ろうぜ」
「へ……あ、うん」

 深い意味はないのですよ、女子の皆々様……目が怖いですよ。東方君、どんだけ人気者なんですか。まあ、分からないでもない。綺麗な顔しているし、人柄は明るくて優しいし、体格も頼れる男って感じに鍛え抜かれているし……戦士になれるんじゃあないかい?
 一気に女子友ができる可能性がブラックホールに飲み込まれた気がするが……いや、きっとできるさ。作ってみせる!
 妙な決意を胸に秘めて私は教室を東方君と共に出た。すると、廊下の途中で小柄な男の子と出会う。彼は、東方君の友達らしく、広瀬康一というらしい――私が「広瀬君」と呼ぶと何故かくすぐったいと言うのでせーえつながら「康一君」と呼ばせてもらいます――。
 少し話してみて分かったのだが、彼はとても優しく、爽やかな人だった。
 簡単な自己紹介とあいさつを交わして、私達は学校を後にした。その間、東方君はいろいろな女の子にしょっちゅう呼び止められたり「ばいばい」と挨拶されたりと、普通でない程の人気っぷりを発揮していた。
 漸く落ち着いて、駅を降り、そろそろ東方君の家と私の家に着くだろうと言うところで、大きな岩の横を通り過ぎる。

「よっ、アンジェロ」

 東方君は、その大きな岩に向かって言った。

「よ、アンジェロ」
「よっ、アンジェロ」

 私と康一君はよくは分からなかったが、彼にならって同じように岩に向かって挨拶をしてみた。「アギ」という声が聞こえたのは気のせいだろうか。

(あ……)

 アンジェロ岩から少し歩いたところに、古びた館が目に入る。ここに来た日も思ったが、まるでお化け屋敷みたいだと思い、夜は絶対にカーテンを開けないと決めた原因だったりする。

「仗助君、確かこの家3,4年ズゥーッと空家だよね……?」

 康一君は、大きな東方君から覗き込むかのようにして古びた館を見上げた。私と東方君も彼の指さす方へと目をむける。
 う〜〜ん、こう荒れていては人が住む様に修理するより壊して立て直した方がまだ安くなりそうな感じだね。そんな事を私と東方君で言っていると、康一君は、なんと、戸がイカレタ窓から人影を見たという。
 誰かが引っ越してきたのでは、と主張し始めた彼に、東方君は逞しい首を左右に振ってそれを否定した。

「そんな筈ないなぁ。俺んちあそこだろ? 引っ越したって言うならすぐわかるゼ。浮浪者対策で不動産屋がしょっちゅう見回ってんのよ」

 東方君に言われ、私と康一君は辺りをよくよく見回してみる。人が住むにはあまりにも静かすぎる様子や、入り口の方の南京錠を見て彼の話は間違っていない事が分かる。では、康一君が見たモノは一体……そう思考し、ある一つの考えが浮かんだ。ゆらゆらと実体のない、それでいて異様な存在感を持っている、あの――

「ひょっとして、幽霊でもみたのかなぁ、僕……」

 康一君は、門からヒョイと頭を覗かせて家の周囲を探ろうとする。なんだろう、見た目に反して康一君って結構アクティブなんだなあ。

「や、やめてよ……」
「そうだぜ、変な事いうなよ……幽霊は怖いぜ。俺達の家の前だしよォ……」

 幽霊は怖いよ。昔のトラウマとも関係しているから幽霊にはあいたくないです。早くこの場を去りたい私と東方君はくるりと館に背を向けた。

「あっ……ぐえっ、ウゲェッ――!!」

 突如、館を覗いていた康一君の尋常でない叫びを聞き、一斉に振り返ると、そこにはメリメリと首を硬い門に挟まれて窒息死しかけている彼がいた。
 頭で考えるよりも先に体が動く。しかし、呻く彼に駆け寄ろうとすると、隣の東方君に止められてしまう。何故、と彼を見上げると彼は私の気づかなかったモノに気づいていた。その視線を追ってみれば、彼程ではないが身長の高い強面でリーゼントヘアの青年がいた。康一君の首を絞めているのは彼であり、足で門を思いっきり蹴っている。

「人の家を覗いてんじゃねぇーぜ、ガキャァ!」

 下手をすれば死んでしまう状況にもかかわらず、まるで加減をしていない。やめさせなければ、本当に康一君の命が危ない!

「おい! いきなり何してんだてめーっ。イカレてんのか?……放しなよ」

 ヤバい相手だという事が分かっているのか、東方君は決して私を前に出そうとはせず、庇う様に立つ。そして、比較的落ち着いて、それでいてドスのきいた声で語りかける。そんな彼の背中を見て、私は身震いしてしまった。

「この家は俺のオヤジが買った家だ……妙な詮索はするんじゃあねーぜ、二度とな」
「ンな事は聞いてねえっスよ。てめーに放せと言ってるだけだ。早く放さねーと怒るぜ」
「おいおい、「てめー」はねーだろう? 人ん家の前で、それも初対面の人間に対して「てめー」とはよう! 口の利き方知ってんのか?」
「てめーの口をきけなくする方法なら知ってんスけどね――」

 と、その時だ。私は館の方から何かが飛んでくるのを視界の端に捕らえる。東方君もだ。
 その黒い影は矢であった。それはいがみ合う青年の顔の横を通過すると、門に挟まっている康一君の胸の上、鎖骨辺りに突き刺さった。

「康一ィ!!」
「康一君!」

 私と彼が同時に叫ぶ。青年は、館の窓を振り返る。そこには、陰になっていて分からないが大柄の男が弓を片手に佇んでいた。彼が康一君を射たのは間違いない。
 青年は黒い男を「兄貴」と呼ぶ。兄弟なのだろう。

「何故矢で射抜いたか聞きたいのか? そっちの男が東方仗助だからだ」

 だからと言って、康一君を矢で射抜く理由がさっぱり分からない、いや、理解不能だ。
 窓際に佇む男は、東方君が「アンジェロを倒した」と言い、「俺達に邪魔な《スタンド使い》」だからだと理由を述べる。しかし、それでも私は理解できなかった。……そもそも、《スタンド使い》ってなんだ!!
 今自身が持ち合わせている知識の範疇を余裕でオーバーフローしていて、状況に全く追いつけない。

「《スタンド使い》だと〜〜っ、てめーら《スタンド使い》なのか?」
(だっだから《スタンド使い》って何ィ〜〜?)

 彼も《スタンド使い》というものを知っているようだ。私だけ除け者にされているようで寂しい。……いや、今は康一君の命がかかわっているのだ、そんな悠長な事を考えている場合ではない!

「「億泰」よ、東方仗助を消せ!」

 目の前にいる強面の青年の名はどうやら「億泰」というらしい。窓際の男の命令により、億泰君は門から足を放し、東方君と向かい合う。漸く解放された康一君だが、顔からは生気はなく、目も白目をむいていた。
 駆け寄ろうにもできない状況に歯がゆく思っていると、突如、康一君が吐血した。それも尋常でない量だった。彼の身体はガクガクと震え、次々に真っ赤な色を吐き出していった。

「血を吐いたか……こりゃあダメだな、死ぬな……ひょっとしたら此奴も《スタンド使い》になって利用できると思ったが……」

 私は、冬でもないのに全身が凍りつくような寒さを感じた。血の気がサッと引いてゆき、震えが止まらなくなる。せっかくできた友人が、今、死ぬ……死んで、しまうっ……。

「どっどけッ! まだ、今なら傷を治せる!」
「だめだ。東方仗助、お前はこの虹村億泰の《ザ・ハンド》が消す!」

 私達の目の前に立ちはだかる億泰君は、背後から「人型」の「幽霊」が出てきた。ああ、この人も「悪霊」に「憑りつかれている」人だった。この「悪霊」はとても厄介だ。なんて言ったって、妙な力を持っているからである。

「山吹ィ!! 道路ぎりぎりまで下がってろォ!!」
「はっはいぃいいっ!!」

 東方君の覇気に気圧されて私は素直に道路脇ギリギリまで下がった。
 いがみ合う二人の様子を窺う。初めに動いたのは億泰君の方だった。しかし、東方君も彼同様に「悪霊」を背後に出し、目にも止まらぬ速さで億泰君の「悪霊」の横頬に拳を叩き付けた。すっ凄い!
 殴られると、億泰君の方にもダメージがあり、口が切れて血を流す。慣れているのか、それを気にも留めずにニヤリと笑った。



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