13-2
私が重ちー君と初めて会話をして数日が経った。その間、色々と彼の事を聞いた。彼も私達同様に《スタンド使い》であり、500匹ほどもいる『群生型』らしい。仗助君と億泰君が語るに、「かなり」強いらしい。見た目はとても気が弱そう――人の事言えないだろという点は目をつぶっていてもらおう――なのに、人間、見た目によらないなあと聞いてて思った。
本日も、彼と初めて会話をした日と同様に、いい天気で爽やかな青空だった。本当は、今日は外で食べたかったが、面倒くさいという由花子さんの言葉により、教室にて食事をしている。ちなみに由香子さんのクラスだ。モサモサと自分の作ってきたお弁当や、由香子さんお手製のお弁当――由花子さんの料理ってとっても美味しいんだこれが!――を交互につつき合いしながら食べる。
そんな事をしていると、突然、勢いよく教室の扉が開いた。驚いてそちらを向けば、切羽詰まった表情をした仗助君と億泰君が立っていた。彼らはズンズンと私と由香子さんの所にくると、聞いてきた「重ちーを見なかったか?」と。
「み、見てないけど……」
私が頭を横に振ってそう答えると、二人はますます表情を険しくして「そうか」と一言。そうして去っていこうとするのだ。いやいやちょっと待ちなさいお兄さん方!
「しっ重ちー君がどうかしたの?」
殆ど駆け足になっている二人に、私もここが廊下だという事を忘れて走ってついていく。すると二人は語った「重ちーの《ハーヴェスト》が《消えた》」と。それも、異常な消え方で、『たった一匹』で『弱り』ながら『バリバリ血を流して』消えた。普通、『群生型』はスタンドがあまりにも多いために、一体攻撃したところで本体にダメージなど与えられない。ダメージがフィードバックするには「スタンド全て」を倒す必要がある。……または、本体そのものに致命傷を与える、とか。
私は、走っているにも関わらず、段々と手から温度が失われていっているのがわかった。冷や汗も、少し出ている。
仗助君と億泰君、そして私は、中等部へと向かった。そして、重ちー君のクラスに入ると彼の机を調べてみた。机の中は、教科書にノートと筆箱がそのまま残されていた。
――重ちー君が、消えた。
その事実が、どうしようもなく不安を煽る。仗助君は、剣呑な表情を浮かべて、「スタンド使いを集めて『オーソン』に行こう」と言った。私は、彼のこの言葉でなんとなく察しがついた。……分かってしまった。
「由花子さんには私が言っておくよ」
たった一言、それだけなのに声が自分でも吃驚するくらいに震えていた。
その日の夕方――
私や縹、仗助君、億泰君や康一君、由花子さんに間田さんといったぶどうヶ丘校のメンバーに加え、玉美さんや露伴先生、そして、初めて会ったが「トラサルディー」の店長であるトニオさん。更に、承太郎さんとジョースターさんに透明の赤ちゃんまでが、コンビニ『オーソン』の前にいる鈴美さんとアーノルドを取り囲むように集合していた。ちなみに、億泰君は「おやじさん」まで連れてきていた。
「間違いないわ……この子は死んでいるわ……」
重ちー君の写真を見た鈴美さんは言った。
「『重清』くんは『あいつ』に出会って、そして殺されたのよ……あたしには分かるわ」
なぜ「殺人鬼」に出会って、どのような方法で殺害されたのかは分からないが、『あいつの仕業』という事ははっきりと鈴美さんは分かっているらしい。
仗助君は、重ちー君を知らないみんなに説明するように語った。
今日、彼と億泰君は重ちー君と出会った。お昼を一緒に過ごそうとした。その後別れた五分後に、ボロボロの《ハーヴェスト》を発見したそうだ。中等部の彼の机には荷物がそのままあり、学校を出た様子はない。実家の方も、警察に捜索願を出したそうだ。
ここから考えられる有力な可能性としては、「殺人鬼」が《スタンド使い》だという事。しかも、仗助君や億泰君が認める重ちー君の《ハーベスト》をたった五分で片付けてしまえる、強力な《スタンド使い》だ。
「仗助! ボタンを拾ったらしいな?」
「ああ……これっス……『重ちー』の《ハーヴェスト》の一匹が持ってたんスよ……」
仗助君は、承太郎さんに言われてボタンを出した。そして、彼に手渡す。承太郎さんはボタンを、「重ちーの遺言」と評した。ひょっとすると、『犯人』のものから《ハーヴェスト》がむしり取ったのかもしれない、と。確か、《ハーヴェスト》の能力はその名の通り『収穫・収集』だったような気がする。承太郎さんの考えは的を射ているかもしれない。
ボタンは、SPW財団調べて貰う事になった。ボタン一個で何とかなるのかと疑問を抱いたが、くっついていた服のブランドやメーカーが分かるかもという可能性にかけてみるようだ。
「はっ話が済んだんならよ……おっ俺は帰るぜ……な、なんか、妙な気分だぜ……「イラついて」よ……帰るぜおやじ」
億泰君はそういって踵を返して去ってゆく。彼の背中を見送りながら康一君は「何か変だよ」と仗助君につぶやいた。確かに、変だ。
「『重ちー』ってよ、欲深でなんかムカつく奴なんだが、なんか『ほっとけねー』ってタイプの奴でよ……死んだってのが信じられねーんだ」
怒ればいいのか、悲しめばいいのか――それさえも分からない仗助君と億泰君は、それでイライラとしている。特に、億泰君が。
きっと三人は凄い強烈な出会い方だったのだろう。だからこそ、今のような心境に陥っている。私だって、せっかくできた可愛い後輩が殺されて、いま、とてもどうすればいいのか分からない状況だった。……多分、家に帰ったら泣いてしまうのだろう。彼を思い出して。
他のみんなも、話が終わったので解散する事になった。トニオさんはお店に来る客に注意をしておくという。
「桔梗ちゃん」
「鈴美さん……」
鈴美さんは、とても心配そうな表情をしていた。私、そんなに暗い顔でもしていたかな。
彼女を見つめていると、不意に手を握られた。そして、彼女はいつしか私に言った警告を再びするのだ。
「気を付けて……もしかすると、「あいつ」から貴方に接触するという可能性があるから」
「……気に、留めておきます」
横にいた弟の縹が目を向いていたが、後で説明するので今は静かにしていてくれと目で合図しておいた。今騒がれても困る。
ちらり、と仗助君が私を横目で見た気がした。……多分、気のせいだと思う。
私達は帰宅する。……誰もが、無言だった。
* * *
重ちー君が「殺人犯」に殺害されたのが発覚してから――なんとなく、仗助君が距離を置き始めた気がする。そう思い始めた理由は、結構曖昧だけれど、態度が冷たいというかそっけない感じがするから。
一度は、嫌われてしまったのかと考えた。しかし、多分……いや、この考えが一番有力だ。
――彼は、私を事件から遠ざけようとしている。
私の《スタンド》である《レディアント・ヴァルキリー》は正直なところ戦闘向きではない。防具を捨てれば仗助君や承太郎さんのようなスピードとパワーは出るけれど、それだけで主な能力が《防御》という完全に後手に回るようなものだ。タイマンになった途端に、きっと私は敗北するだろう。補助系統の能力でしかないのは、自覚済みだ。
足手まとい、だからなのかな。そう思うと何だか虚しくなってきた。虚無感、というのだろうか。それをとてもヒシヒシと感じている。
縹はきっと彼らから色々聞いているんだろうな。良く一緒にいるところを見かけるようになったし。……最近、一緒に帰っていないなあ。
――寂しい、なあ。
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