鉄壁の少女 | ナノ

12-4



 横で鼻歌でも歌いそうな程までに上機嫌な桔梗を横目で見やり、仗助は人知れず、ふう、と安堵のため息をこぼした。
 昨日、実は仗助と億泰は、妙にそわそわしている彼女を訝しみ、後をつけて行ったのだ。億泰の考えでは「あれは男が出来たんだゼ〜〜!」との事。正直、彼のその言葉には動揺を隠せなかった。嘘だろ、まさかと。けれど、ありえない話ではない。ストーカー被害に遭っていた間は結構人とのかかわり――特に一般男子の――を断っていたが、ソレもなくなった今は普通に話せば普通に笑顔で対応する。あの、力が抜けるようなフニャフニャな笑顔は結構に人を引き付ける。仗助だって気に入っているのだ、他の野郎だって――
 今日彼女自身からソワソワしていた理由を聞いた時には、思わず「ほっとしたぜ」と思わず口走りそうになってしまった。

「へへ、男の子に何かを貰うなんて初めてだなあ」

 締りのない顔でりんごほっぺを更に赤く染めて言う桔梗を見た瞬間、思わず《クレイジー・ダイアモンド》で壁をぶち破ってしまった……脳内で。


 * * *


「――っていう事があったんですよ由花子さん!」
「そう、それはよ――」
「もう最高だよっ! 素敵すぎて心臓が止まるかと思ってしまった!」
「……も、」
「ああ、こんな幸せでいいのかな! 幸せすぎて回りが何も見えなくなりそ――」
「そんな事なら心臓の鼓動を止めてやるわよ」
「ぐげげげッ、ごっごべんだざいごべんだざいっ」

 本当に目の前が黒一色で何も見えなくなった挙句に心臓の鼓動というか、息の根を止められそうになりました。おそろしや、《ラブ・デラックス》、デンジャラスです。
 私はそのままゴロリと横になって青空を見上げた。今は屋上で、由花子さん以外この場所にいないから問題ない。
 私の頬をヒンヤリとした屋上に吹く風が撫でた。それでも、私のこの胸の高鳴りとヒートアップしていく体を冷やすにはまだまだ足りない。

「ふふふ、変な笑みがこぼれてきて仕方ないですよ!」
「今のあなた、とても気持ち悪いわ」
「へへへー、ごめんなさーい」
「……」

 今の私の顔のユルユル具合は、例え由花子さんの《ラブ・デラックス》をもってしても、きっと締まる事がないんだろうなあ。そこらへん、ちょっと自信がある。
 はあ、というあきれ返った由花子さんのため息を聞きつつ、私は青空に浮かぶ雲の数を数え始めた。


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