7-4
「いいのかよォー、あんな簡単に赦しちまって」
「え?……ああ、うん。正直、まだ不安だけれど……」
彼の名前は「嬬恋 晃」というらしかった。今まで彼の名前も、どこで出会ったのかも知らない。けれど、彼は昔私に会っていて、そこで一目ぼれしたらしい。彼……嬬恋君は刑務所に送られるらしい。できれば、新聞なんかに載らずにいればいいな。だって、彼の人生がそれで大きく変わってしまう気がするから。
私は、横に立つ大きな仗助君を見上げた。
「きっと、大丈夫だよ。彼の目、なんとなくだけど「目が覚めた」って感じだったし」
「う〜〜ん、俺はただ単におめーが甘ちゃんだから勝手にフィルターかけてるようにしか思えねえぜ」
「そんな事ないよー」
きっと大丈夫。確信はなかったけれど、妙な自信はある。だって、長い間因縁のあった相手だもの。ちょっと癪だけど、なんとなくわかるんだ。
「にしてもよォ〜〜おめー、結構ぶっ飛んだ事すんなあ」
「へ?」
「まさか親友の顔をあんなんにしちまうなんてよォ〜〜。顔パンパンだったぜェ?」
「だってそれは……じょっ仗助君の《クレイジー・ダイアモンド》の能力があるって思ったから! そっそれに、グーよりはマシだよ。流石に女の子にパンチはできない」
「ま、それもそうか」
仗助君は後ろに腕組みをして沈んでゆく太陽を見上げた。
「日、沈むな」
「うん、ごめん」
「ん? 何が?」
「帰りが遅くなっちゃったのと、あと……」
「あと?」
不思議そうに見下ろしてくる仗助君。けれど、彼はすぐに私の言わんとしている事を悟ったのか、丸くしていた目を細めて、苦笑して、大きくて優しい手を私の頭に置いた。
「迷惑なんかじゃねーよ。友達だろ」
「うん…………へへ、ありがとうっ!」
友達、そういわれた時とても嬉しかったのと同時に、胸のあたりがほんの少しチクリとした。それがなんなのかよく分からなかったけれど、きっと大した事じゃなさそうだから放っておいた。
「よし、じゃあ迷惑ついでにおめーの手作り菓子をくれ」
「迷惑じゃないってさっき言ったばかりだよ!? 言ってること違くない!?」
「いーじゃねーか。もらえそうなもんは貰っとくもんだぜ。特に桔梗の作る菓子はうめえからよ」
「食いしんぼだね、仗助君」
紳士なのか飄々としたウソつきなのか。結構長く一緒にいるとちょっと分からなくなるけれど、そんな仗助君が面白いから傍に立っていたいと思うのだろう。
ぽつぽつと星が瞬き始めた空の下、私たちは談笑しながら帰路に立つ。
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