鉄壁の少女 | ナノ

7-1




〜第7話〜
少女、己を乗り越える




 失敗してしまった。それどころか、相手に能力をひけらかしてしまうような形となってしまった。

(ああ、久しく感じた彼女の本気……それが見れたのが細やかな収穫だが、奴らのおかげである事が一番憎たらしい)

 彼・嬬恋晃は知っていた、彼女は追い込めば追い込む程成長し強くとも儚い人間になっていくのだと。その成長した瞬間にみせる表情がたまらなく好きなのだ。強かでいるのにどこか儚く見えるあの表情が、たまらなく愛おしいのだ。
 彼は、次の作戦を考える。次はもっと残酷でもっと悲惨なものにしたい。そうして、それを乗り越える彼女の姿が、みたい。

「君はもっと強くなれるよ、もっと……もっと……」

 ああ、だから君の周りの人間を消していこうか。
 彼は狂ったように笑った。
 いや、もとから狂っていた。
 愛しさ故に――


 * * *


 承太郎さんと共に遭遇した事件の翌日――
 私は登校しながら、漸く目覚めた《スタンド》である《レディアント・ヴァルキリー》を億泰君と康一君の前にお披露目した。それを見た彼らの反応は――

「うおっ、本体の見た目に反してなかなか強そーじゃあねーか!」
「億泰君、それ失礼だよ……でも確かに強そう。それに、とっても綺麗だね!」
「いっいやぁ〜だな二人とも、そんなに褒めても何もでないぞー!」
「でもよォ〜、康一の言う通りだぜ〜〜。結構綺麗な《スタンド》じゃあねーか。本体これなのによォ〜〜」
「億泰君ひっどっ! さりげなく傷ついたよ私!」

 本当にさり気なく毒を吐かれて傷ついたよ。不貞腐れていると、億泰君が私の表情に気づいてバシバシ背中を叩きながら「いちいち気にスンナよ〜〜」と言う。まったく、デリカシーないぞ君! それと、そんなに強く叩かれると痛い上に呼吸が苦しくなるのですが!?

「おい億泰ゥ、桔梗が苦しそうにしてんじゃあねーかよ」
「おお、わりーわりー」

 さすが仗助君! そんなさり気ない優しさが好きだ!
 背中があまりにもヒリヒリするので、なけなしに自分で撫でていたらこれまたさり気無く仗助君が《クレイジー・ダイアモンド》で治してくれました、優しい!
 痛みもすっかりなくなったので、背筋を伸ばして歩いいていると、不意に横を通った人物に目が留まった。その人は男の人で結構身長が高く、おしゃれな上着を着ていた。その服がなんとなく目に留まっただけだが、一回気になるものを見ると目が離せなくなってしまうタチの私は、大きな歩幅でどんどん先へ歩いて行ってしまう彼を見えなくなるまでずっと見てしまっていた。

(あの鞄からしてサラリーマンかなにかかなぁ、お父さんと同じ会社だったりして)

 引き付けられる見た目だった服装の男が視界から去ったのち、私は再び仗助君達とのおしゃべりを始める。

「にしてもよォ〜〜桔梗のスタンドってなぁにかに似てんだよなあ〜〜」
「何かって?」

 億泰君が言いだすので、私はそんな頭を抱える彼の為に再びスタンドを出してみた。これを見て何を彼は思い出しているのだろう。そう考えていると。ふいに彼が素っ頓狂な声を上げ、《レディアント・ヴァルキリー》を指して言うのだ。

「分かった! 白くて丸いからデッケー饅頭に見えんだ!」
「そっそれは!」

 私は勢いよく仗助君を振り返る。きっと今の私の目は爛々と輝いているに違いない。だって、今、気持ちが高ぶっているのだから!
 対して仗助君は眉間に皺を寄せているのだけれど。

「これはっ、《ドデカ・マンジュウ》と改名するフラ……」
「いや、それはねェよ」
「なぜっ!」

 きっぱり即答で却下されてしまった。……何故っ、何故《ドデカ・マンジュウ》の素晴らしさが分からないんだ!
 億泰君も康一君も「なにそれ」みたいな顔してるから説明すれば「それはないわー」みたいな返事するし……。
 いいもん、いいもん。私一人だけでもそう呼ぶから。《レディアント・ヴァルキリー》、またの名を《ドデカ・マンジュウ》。……うん、我ながらカッコイイと思う。


 * * *


 私って結構おバカなのかもしれない――いや、《スタンド》の名前を《ドデカ・マンジュウ》としたセンスは結構いいと自負しているけれどさ――。
 若干鬼のような形相――私が一方的にそう見えるだけかもだけど――の由花子さんを前にして、ふと思った。
 朝、学校に無事到着してから人づてに、由花子さんを校舎裏に呼び出した。あ、べっ別に彼女を責めようとしているわけじゃあないよ。彼女に、自分のスタンドを見せたいから、それと……――

「何の用?」
「えっとですね……」

 何故彼女に自分の《スタンド》を見せたいのか、何故彼女と話がしたいと思っているのか、それは私自身、よく分からない。けれど、康一君を見るときのあの儚い視線に、私は何もせずにはいられないんだ。
 とりあえず、自分が何を彼女に伝えたいのかを整理するために一呼吸置く。それでも結局考えは纏まらなかったけど、私の口は私の意識とは無縁に動き出す。

「その、残念、でしたね……康一君の事」
「……私をあざ笑いにきたの?」
「ちっちがッ、違うんです! 私、ただ、貴方を放っておけなくて……その、とても、幸せな気持ちと切ない気持ちが両方、貴方の視線から伝わってきて、どうしても、報われてほしくって、ええっと、その……つッつまり! 私ッ、ゆっ由花子さんとお友達になりたいんですッ!!」

 意味不明!
 前半と後半で全く話の筋が通ってないじゃんッ。由花子さんを応援するっていう気持ちと彼女の友達になりたいっていう気持ちが混雑して訳分からない事くちばしちゃってるよ。うわあー、自分でも自分のセリフに引いちゃう程だよおおおお。
 私は項垂れた。その場で蹲って頭を抱えてしまう程、焦燥し半ば絶望した。こんな事言えばきっと「なんなの此奴」ってなる。
 昔からそうだ。私は結構口下手で、気持ちをうまく言葉に表現できないせいで、相手に私の思いを伝える事が出来ず、変な誤解を生んでしまう。ああ、本当に、私は心から彼女を応援しているんだ。恋する乙女を、応援したいんだ。それが、ただの自己満足だとわかっていても。

「……あった時から思ってたわ」
「え?」

 不意に上から由花子さんの言葉が落ちてきた。思わず顔を上げると、美しいがキツメな風貌の彼女の瞳と視線が絡む。

「貴方、恋に恋してる。人の応援をする事で自分もまるで恋しているような感覚に浸ってる……本当の恋も愛も、全然わかってなんかいないわ」

 私は、言葉を失ってしまった。彼女の、ズバリその通りだからである。

「恋がなんなのか分からない奴に、応援なんか……ましてや同情なんかされたくもない」
「あ、う……」
「……でも、」

 そこで、彼女は綺麗な瞳を閉じ言葉を切った。強い印象を植え付けるような彼女の眉毛が、次に上がるとき、その時に開かれた彼女の瞳は、ほんの少しだけ、優しいように見えた。

「成就して欲しいと、幸せになって欲しいと願うその気持ちに嘘はない……そんな所だけは気に入っているわ」
「ゆ、かこ、さん……」

 綺麗だ。本心から思った。
 何がきれいか――彼女の、微笑だ。ほんのり嬉しそうな気持ちがにじみ出ている表情だ。この顔を、少しでも康一君に見せていれば、彼女の妙に熱すぎる思いをもう少し押さえていれば、恋人でなくとも友達から少しずつ進展していったのではないだろうか。
 過ぎてしまったものをいつまで考えていてもキリないし、正直無駄だという事は分かっているけれど、考えずにはいられない。

「あ、の……また、こうやってお話しする機会、貰ってもいいですか?」
「……時間があれば」
「ッ!……ありがとうございますっ!」

 よっしゃぁあああっ。女の子友達二人目げっとかぁあああ!? まだ認めて貰えているかは怪しいけれど、ほんのちょっぴり彼女との距離が縮まった気がするぞ。こんな綺麗な子と友達になれたら鼻が高いよぉ〜〜、ムフフ。
 その日、仗助君や億泰君、康一君に「やけに上機嫌だね」なんて言われ理由を聞かれたけれど、私は答えなかった。「内緒だよー」とニヤけながら口を塞いで言わないようにした。三人があの手この手で喋らせようとしてきたので、「女の子同士の秘密なんですー」とほんのりほのめかせば「じゃあ俺たち男ははいれねェー」と諦めてくれた。
 ……もう少し、もう少しだけ時間を置いて、正式に由花子さんと「お友達」になれたら教えよう。きっと驚くだろうなあ。ちょっとワクワクする。
 私は、今日の授業が全て終わるまで、ずっとにやにやしてしまっていた。友達の花ちゃんにまで、不思議がられてしまう程ニヤニヤしてしまっていたと気づいた時は、正直驚いてしまったけれど――



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