鉄壁の少女 | ナノ

6-4



 私と承太郎さんは、何があったのかを手短にだが仗助君と縹に説明した。西尾氏の事、「奴」の事、覆面達の事、そして――私の《スタンド》の事。
 自分の意思で動かす事も出し入れする事も出来るようになったというと、仗助君と縹は目を輝かせて「みせて」という。なので、ついに、御開帳……とは違うけれど、初のお披露目です!

「これが私の《スタンド》だよ」

 そう言って出したのは、青い紋様が美しいラインを描く純白の甲冑と同色の盾を身に纏う女性型のスタンド。射程距離は短くて大よそ4,5メートル。防御に特化している事もあり、それなりにパワーがあるので近接パワー型だと位置づけられた。それにしては些か短すぎると思うけれど、ね。

「で、名前は?」
「ああ、うん。二人が来るまでにずっと考えてたんだけどね」
「何ていうだよ?」

 ふふ、私のハイセンスなネーミングを聞いて驚くなかれ!

「形があれだから《ドデカ・マンジュウ》にした」
「やめろォオオ―――ッ!!」

 縹が猛反対した。……なんで?
 仗助君は椅子からひっくり返っているし、承太郎さんは戦闘中でも吹っ飛ぶことなく装着されたままでいた帽子が床に落ちてしまっている。

「えー、なんでー?」
「ふつーに考えてねーちゃん! 《スタンド》が余にも可哀想だから!」
「そっそうだぜ桔梗……戦闘中にそんな名前を叫ばれてみろ、みんな笑い転げて戦いどころじゃなくなるぜ」
「いけ! 《ドデカ・マンジュウ》!!」
「ぶはっ! だからやめろってェーのッ!」
「みんなが笑えば世界は平和になるよ」

 結局《ドデカ・マンジュウ》は却下されました。そんなー、いい名前だと思ったんだけどなあ。
 じゃあどうしようか、一同が――なにやら、《ドデカ・マンジュウ》の印象が強すぎたらしい――悩んでいると、おもむろに縹が手を上げた。

「じゃあさ、呑気な姉ちゃんがちっとは戦闘向きになれるように《レディアント・ヴァルキリー》っていうのはどうっスか?」
「良くないよ縹。思いっきり名前負けしてるよ私の《スタンド》」
「じゃあそれに見合うようになればいいじゃん」
「……うわー」
「なんだよ! あきらかに《ドデカ・マンジュウ》よりましだろ!」
「それこそ何で!?」
「ああ、桔梗のあれはないぜ」
「仗助君まで酷い……」

 しまいには承太郎さんまでもが縹の《レディアント・ヴァルキリー》で行こうなんて言いだす始末。三人とも、口をそろえて《ドデカ・マンジュウ》よりましだなんて言うから、もう私は不貞腐れるしかなくなった。仕方なく……そう、「仕方なく」縹の言った名前を採用しました。

「そうだ、仗助……桔梗の《R・ヴァルキリー》の防御力がどれほどの物か試したい。お前の《クレイジー・D》で彼女の盾を思いきり殴ってみろ」
「ええ!?」
「女子に殴りかかるのは些か気持ちのよくねー仕事っスね」
「今後の彼女の為だ。どれほど耐久性があるのか把握するに越した事はないだろ」
「確かに、そうッスけど……」

 驚愕する私に対して仗助君はそこまで驚いていない様子。まるで予想していたかのようだ。けれど、余り彼は納得していない様子で、このままでは埒があかなそうだ。私は、自ら仗助君に申し出る事にした。
 大丈夫なのかと心配して来る彼は本当に優しくて嬉しくなるが、今は私の為に心を鬼にしてその力強い拳を叩き込んできて欲しい。私は《R・ヴァルキリー》を出して、盾を構えさせた。

「ばっちこい!」

 私の覚悟を感じ取ってくれたのか、彼も《クレイジー・D》を出す。そして、大きな拳を握りしめて、「ドラァアッ!!」という掛け声と共にラッシュを繰り出す。

「ッ〜〜!!」

 なんて重い拳なのだろう。次々に繰り出される拳の一発一発に彼の強い思いが込められているかのような衝撃だった。衝撃がさると、私は恐る恐る盾から顔を出す。三人の表情をうかがうと、程度は違えど皆驚いている様子だった。
 盾は全て衝撃を受け止めきれていたわけではなく、持っている《R・ヴァルキリー》の腕が、余りの強い衝撃にほとんど稼働できなくなっていた。なんてすごいラッシュなんだ。まともに食らったら絶対私、立っていられないって。

「無傷って……俺、それなりにパワーあると思ってたんだがよォ〜〜」
「いや、正直、もう盾も持てない程腕がジンジン痺れて痛いくらいだよ」

 これは、毎日腕立てする必要があるかもしれない。せっかく頑丈な盾でも、使う側がこんなざまじゃあ使い物にならないよ。完全に宝の持ち腐れだ。
 痺れる腕を振ってなんとか早く治らないかなと思う。……承太郎さんの《スター・プラチナ》だったら多分、後ろにひっくり返るだけでなく後ろの机まで殴り飛ばされてたな。

「なあ、それって防御できんのはいいけどよォー、前が見えねーんじゃああんまり意味ねーんじゃあねーか?」
「ああ、大丈夫だよ。ほら」
「おッ!」

 私は、《R・ヴァルキリー》の持つ盾の裏面をみんなに見せた。

「すっけすけじゃあねーか! 前からじゃあ全然見えねーのによォ〜〜」
「そうなんだよ。どんな材質なのかはさっぱりだけど、裏からだと見えるんだよ」
「便利だなぁ、防御に対しては完璧じゃねえ?」
「かねー?」

 なんだか、今思えば《スタンド》を使えるようになってみたら、案外あっけなかったと思う。きっかけさえあれば、どうとでもなったのか。
 ――いや、キッカケだけじゃあない。これは、多分、なるべくしてなった事だから、成ったんだと思う。なんとなくだけど。

 承太郎さん、仗助君、そして縹と共に今後の事を少し話したのち、もう夜も遅いので私たち学生組は帰宅する事になった。
 気絶した西尾さんや覆面達はSPW財団が責任を持って帰すらしい。SPW財団って今更だけど、色々と凄いよね。私の過去やスタンドの事とかどっから情報を仕入れてくるんだか――。いや、まあ私なんて一般人の情報なんて適当な所にゴロゴロ転がっているでしょうが、ね。
 明日は、億泰君や康一君……それと、由香子さんにお披露目したいな!

 私は浮かれていた。仗助君も一緒になって浮かれていた。縹も無論。
 だから、全く考えていなかった。いや、気が付いていなかったんだ。――「奴」がまだこの町に潜んでいるという事を。


.
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -