鉄壁の少女 | ナノ

4-1



〜第4話〜
少女、己を考える




 何故木賊は操られてしまったのか。承太郎さんに報告へ行った時に彼と私と仗助君の三人で何か覚えている事はと尋ねてみるも、木賊は「急にクラってなってブワッてなって、お姉ちゃんが怒っても止まらなくて――」とやはり日本語でOK?みたいな訳の分からない事を言っていた。しかし、承太郎さんは彼が、操られていた時の事を覚えている所に目をつけた。
 今まで「奴」に操られてきた人間は思い通りに動かされ、まるで「奴」自身がそこにいるかのようだったが、木賊の場合、本人の意思はあるが体が言う事を利かないという状態だった。「奴」の「操る」という能力において、木賊と他の人間との差は一体何か?

「《スタンド使い》かそうでないかだと俺は思っている」

 確かに、スタンド使いという事は、すなわち「闘いの本能」とやらを強く持っているという事。「奴」の操作に反発しようという意思があることだと思われる。しかし、安易に能力を決定付けるのは懸命でない為――奴が態と「そう」している場合とか――慎重に検討していく。できればもう一度、それでなくとも本体を探したいところである。
 まあ、そんなこんなでも、私のスクールライフは刻々と日をまたいでいくのだけれど――。
 東方君から、仗助君呼びになってから数日の事だった。いつもの様に、仗助君、そして今日は康一君とも一緒に下校する。ふと、校門の前でぽけェ〜とした表情で立つ最近よく知った人物、玉美さんを見つけた。彼は、こちらに――正確に言えば康一君に――気づくと表情を和らげて片手を挙げる。

「康一殿ォ〜!」

 彼を見ると思う。康一君、君は本当に彼に何をしたんだい。

「なんだ玉美じゃあねーかよー。学校の前で何やってんだァ〜〜? また何か悪どい事してんじゃあねーだろーなー」

 仗助君が言うと、玉美さんは表情をムッとさせて言った彼に顔を詰め寄らせる。なんでも、彼は正義の味方になったのでとやかく言われる筋合いはないとの事。しっかり就職もしているらしく、仕事らしい仕事をやっていると言う。彼のスタンド能力がピッタリな金融関係の集金の仕事で、ざっくばらんに言えば取立て屋をやっているらしい。ああ、確かにピッタリだよ。
 ちゃんとしている所なので安心してくれと本人は言っているものの、前回の件があるので仗助君と私はいまいち信用できずにいた。ボソッと仗助君が「ウソくさい」と漏らすと物凄い勢いで玉美さんは彼に突っかかった。身長の差が激しい――仗助君180越えに対し、玉美さん150前半――ので玉美さんが仗助君に飛び掛る形となる。そんな彼を、呆れながら康一君が引っぺがす。な、なんて凄いんだ康一君!
 康一君のおかげで漸く仗助君から離れた玉美さんは「フンッ」と鼻を鳴らして一枚の写真をポケットから取り出すと、驚くべきことを愚痴をこぼしながら口にした。

「ムカつくぜ! 《スタンド使い》の情報をつかんだからよー、仗助! おめーの下校すんのを待っててやったのによーっ」

 彼の言葉に私たち三人は玉美さんを凝視しながら驚く。彼は、取り出した写真を自身の顔の前にヒラリと出すと神妙な面持ちで言うのだ。

「この野郎だぜ。どーも俺と同じに形兆の《弓と矢》で《スタンド使い》になった「らしい」ぜ〜〜っ」
(「らしい」?)

 やけにそこを強調する玉美さんに私は首を思わず傾ぐ。彼の持つ写真をみると、私が仗助君や康一君、億泰君のようにスッキリとした髪型に慣れている所為か、やけに鬱陶しそうに見える髪型をした青年が写っていた。表情もどことなく暗くみえる。写真写りが悪いのかな?
 玉美さん情報によれば、写真の青年の名前は「間田敏和」、そしてなんとぶどうヶ丘高校三年のC組とは……。今の写真は去年のではあるが、一年やそこいらで見た目は変わらないだろう。
 写真を受け取った仗助君は半信半疑だが、玉美さんも、スタンド使いだとは確定していないと念を押してきた。本当かどうかは仗助君自身が確かめろのこと。

「こっこの三年生が、スッスタンド使いだと思う理由はあるの?」
「いい質問スねー、流石康一どのォ〜〜!」

 仗助君と康一君の明らかなる扱いの違いには、私も仗助君も口をへの字にせずにはいられない。
 玉美さんは、もっと寄って欲しいと先ほどよりも少し声のトーンを落として言うので、私たちは彼を囲むように近づいて聞き耳を立てる。

「いいスか……今年の三月の事でさあ〜〜、つまり、康一どのがこの学校に入学する前の話です」

 内緒話でもするような――いや、実際内密にしなければいけないんだろうけど――感じで語りだす玉美さんは「お嬢さんにはちょいと刺激が強すぎるかもなァ」なんて言いながら語りだした。
 間田先輩は、ある日、親友とほんの些細な事で口論になった。理由は好きなアイドルだかアニメだかを「貶した」というそんなくだらないものらしい。その喧嘩はそのまま終わったのだが――

「その晩、その親友ががね、自宅で何を思ったのか……自分で自分の左目をシャープペンで抉ったんだと」

 私は余りにも玉美さんの語りにリアル感を感じたためブルリ、と身震いした。
 自身で左目を抉った間田の親友は、医者や両親に何故このような事をしたのかと問われると、自分でもよく分からず、気が付けばそうして、そんな左目を右目で見ていたという。なんて、異常な話だろう。
 玉美さんは、間田の《スタンド》が何らかの方法で親友の左目を抉ったと睨んでいる。だからこそ、それを調べさせる為に仗助君にこの話を持ち出したのだ。違う可能性もあるが、一応、と報告をしてきたのだそうだ。まあ、スタンドは一般には見えない存在だものね。

「だが、確かによー、異常な話だぜ〜〜。確かめてみる噂ではあるな」
「そうだね。もし彼が「弓と矢」を持っているのだとしたら回収しなくちゃ」

 玉美さんが校門で張っていた情報によれば、間田さんはまだ出てきたところを見ていないので未だ校舎内だと推測される。私と仗助君はクルリと方向転換して、校舎の方へと歩き出した。その後を康一君もついて来る。その彼の背中に「貴方もいくのか」と焦ったように呼び止めた。康一君は止まらない。この町に何かが起こっているからこそ、自分の大切な人々を守る為にも原因を突き止めなくてはと彼なりに覚悟を決めて立ち向かおうとしているのだ。そんな彼のタフな心意気を知った玉美さんは感動し――たものの、自分はやっぱり帰るらしい。まあ、玉美さんらしいから、ね、うん、別に。
 根性なしな彼を置いて、私たち三人は間田さんのクラスである三年C組の教室をのぞいてみる事にした。行く途中、ちらちらと視線を感じたものの、屈強な戦士である仗助君――え、違う?――が居るので私と康一君は無事に目的地へと辿り着く事ができた――三年生、怖い――。写真を頼りに、だべっている生徒がいる教室内を見渡してみたが、それらしい人物は居なかった。

「教室内には、いないみたいだね」
「ね。どこ行っちゃったんだろう?」
「……」

 教室内を適当に見渡しながら言う康一君と私。ふと、無言の仗助君が気になったので声をかけると、彼は少々嫌な汗をかき苦笑してこう返すのだ。

「間田って奴、もし本当に友人の目抉ってよー、あんな風に学校生活に溶け込んいでるんなら……不気味だよなー、こいつよーっ」

 仗助君は教室でだべっている先輩方を見ながら言った。確かに、と私と康一君は頷く。だって……親友って大事な存在のはずでしょ? それを――クダラナイ喧嘩内容の癖に、その友人の左目を抉って、そんなことを下にもかかわらず、平然と日常に溶け込んでいるだなんて。信じられない。
 気分が悪くなってきた。ここには手がかりがなさそうなので今度は彼のロッカーを調べに行った。目的の名前を見つけて、あたりを見渡すものの、それらしい人物は見当たらない。もう帰ってしまったのだろうか、と諦めかけた時だ。私と康一君は「バギバギ!」という凄まじい音を耳にする。驚いて音の方へと振り返れば、やはりと言うべきか、仗助君の《クレイジー・D》が先輩の鍵の掛かったロッカーを力ずくで抉じ開けていた。

「誰か来たらよォ〜、教えてくれよな康一、桔梗。ちとコイツのロッカー調べてどんな奴かみっからよー」
「そ、そう言うのは……」
「先に言ってから壊してよ〜〜っ」

 私と康一君はちょっと勝手な仗助君に文句をぶつくさ言いながらも、すぐに廊下へと出てあたりを警戒する。今のところ、誰も来ていないみたいだけれど……こっこんな所見られたらまずいよね。うう、今まで別に気取ってた訳じゃあないけれど「優等生」で通ってるから不安だなぁ。下手したら、退学とか――笑えないってば。
 仗助君とはいうと、ロッカーの扉を破壊したので、その辺にそれを転がしておいて中をあさっていた。

「まず……外ばきがあるぜ! まだ学校いるぜ。その辺気をつけろよ」
「う、うわぁ……私あんまり目がよくないんだよなぁ……」

 視力がないって結構……いや、かなり不便。おかげで私は授業中だけだけどメガネをかけるはめになっているのです。視力って結構遺伝するんだよ! だってお父さんメガネでお母さんもあんまし目がよくないし!
 まあ、私の視力なんて今はどうでもいっか。とりあえず私と康一君は周囲への警戒を強める。頼むからこのまま誰も来ないで欲しい。……こんなとき、《来て欲しくない場所に誰も寄せ付けない》っていう《スタンド》がいたらいいのになぁ、なんて思う。そしたらこういうハラハラする事態もいくらか楽になれるのにさ。
 祈るようにしながら見張っている間に、仗助君はロッカーの中身から間田という人物がどんな人なのか調べている。彼の呟きから「テニス部」で「漫画好き」という事が分かった。漫画は私も好きです。というか、本が全般的に好きかな。SFもファンタジーもサスペンスも色々、ドンと来い!……って、こんなことよりも見張り見張り。

「問題は、こんなモンより「弓と矢」があるかどーかだな。……しかし物の多い野郎だな」

 うう、やっぱりハラハラする。仗助君が乱暴にロッカーの中身を引っ掻き回す音が聞こえる度に心臓がいやに跳ねる。まあ、彼には《物を治す》という能力を持つスタンドだから多少損傷したって元通りになれるんだけど、さ。
 ドクンドクンと落ち着かない心臓を抱えた胸で手を抱いたまま、私はあたりときょろきょろと見渡す。未だに人は来ない。はやく、はやく済ませて欲しいと思っていると、調査中である仗助君の不穏な声が聞こえた。どうかしたのか、気になった私と康一君は彼を振り返って尋ねる。

「ロッカーの奥によォ〜〜、でっけえ人形が入ってんだ。《スタンド》かと思って間抜けにもビビっちまったぜ」

 あら以外。屈強な戦士に見える仗助君も、ビビる事ってあるんだぁ。あ、そういえば億泰君と初めて出会った時も、お化けは怖いって言ってたっけ。……ちょ、ちょっと可愛いかも。
 大きな人形は、画材屋で売っているスタイルクロッキー用のような物だという。うん、そんな物がロッカーの奥に入ってたら、スタンドを知らない人でも普通にビビると思う。

「ロッカーん中に「弓と矢」がないんなら、早いとこ出した物しまってロッカー直してよ。もし、こんなとこ誰かに見られたら僕ら大問題になるよ」
「ああ、分かってるよ〜〜……」

 せかされる仗助君はどこか他人事のように返事する。もう、どうして彼はこんなに暢気なのだろう。いや、これは暢気というより――慣れてる?……まあ、喧嘩なれしてる事は間違いないでしょうね。

「しかし怪しい人形……」
「?……仗助君、どうかし――」
「だ、誰か来たよ! 早く直し――」

 私の後に続いて康一君が切羽詰ったように仗助君を振り返った。そして、私たちは「ロッカーから現れた仗助君」を見た。

「え、じょ……仗助君が、二人……?」

 ロッカーの中身を全部ぶちまけて、その中にいるのは、「仗助君」だった。その前には、さっきまでロッカーを調べていた仗助君が愕然とした表情で立って私たちと同じように見ている。

「触ったら俺になりやがった。よりによってよォ〜〜……しかし、これでハッキリとしたな、間田は《スタンド使い》だ!」

 ――と、仗助君はすぐさま表情を剣呑なものにさせると身構えた。その代わり身の素早さに、やはり「慣れている」と実感した。


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