鉄壁の少女 | ナノ

さりげない口約束






「あれ? 裕にぃだ!」

 今は夏休み。取り巻きの女たちと共にプールへ訪れていた。備え付けのパラソルの下でビーチベッドの上に寝そべりながら、取り巻き達がカキ氷を持ってくるのを待っていた噴上裕也。兄、と言うにはたどたどしい言い方に苦笑しながら目を開けば、珍しく大胆な格好をした妹分の山吹桔梗が立っていた。

「よぉ、桔梗……その、なんだ……結構大胆な格好をするんだな」
「こっ、こここここれはっ、私の趣味じゃないっていうか、ほ、本当はもっと落ち着いた奴がよかったんだけど、んと、えーっと!」
「まあ似合ってっから大丈夫だ、そんな慌てて否定するような程じゃあねえよ」

 桔梗は結構いい体をしている、と噴上は思っている。胸は大きすぎず小さすぎない安定のCカップ、筋肉は余りないが女の子らしく細くなった腰、ちょっと大き目なお尻は安産体型だ。アウトドアよりインドア派なのだろう、肌は不健康でないくらいの白さ。
 それでは彼女の身に着ける水着を見てみよう。淡い水色で夏の爽やかな感じを出しつつ、ちょっと開き気味な胸元――うむ、あざとい。これを選んだ人間はよく分かっていらっしゃる。

「他の奴らはどうした?」
「あっ、今かくれんぼしてるんだ」
「かくれんぼォ?」

 高校生にもなって、プールにてかくれんぼをするなんて、恥ずかしくはないのだろうか。そう思いつつも、改めて考えると確かに、童心に帰ってみんなではしゃぐには丁度いいのかもしれない。

「裕にぃもする?」
「いや、俺は連れがいるから遠慮しておくぜ」
「ああ……」

 桔梗はちょっぴり顔を青ざめさせて苦笑した。そんなに苦手なのか。

「それに、裕にぃが鬼になった瞬間、みんな直ぐに見つかっちゃいそうだしね」
「俺は警察犬かよ」
「ううん! それ以上だよ! 鋭い嗅覚に人間的思考を持ち合わせているだなんて、警察犬以上に凄いことだよ。どんなところに居ても見つかっちゃいそうだなぁ」
「おう、なんなら迷子になったとき探しにいってやるぜ。どこに連れてかれようが必ず見つけてやるよ」
「おおォ〜!」

 髪の毛を掻き上げ、得意げに言うと感嘆の声を上げる桔梗。彼女にそうやって尊敬の眼差しを向けられるのは悪くない。

「ん? おお、どうやら億泰の奴がどんどんこっちに近づいてきているみてぇだな」

 くんくん、と鼻を引くつかせて匂いを確かめれば、やはり億泰、と康一と由花子の匂いも感知した。

「えっ! やっやばい見つかっちゃう。裕にぃそれじゃあね。教えてくれてありがとう!」
「おお」

 億泰が鬼で、康一と由花子は見つかってしまったようだ。
 桔梗は慌てて探す場所を探す旅へと行ってしまった。暇になったころ、彼の取り巻き達がタイミングよく戻ってくる。

(もし、聞かれたりしても庇ってやるか……可愛い妹分のためだもんなァ)

 ふんふん、と上機嫌に鼻歌を歌うと、取り巻き達は不思議そうな表情をしたが、彼女達は彼が上機嫌ならばそれでいいのだろう。満面の笑みでカキ氷を掬ったスプーンを三人仲良く彼の口に運んできたのだった。


 * * *


 私は、裕にぃと別れたのち、億泰君達がやってくる方向とは逆の方へと逃げた。とにかく、早く身を隠す場所を探さなければならない。
 私達は、ちょっとしたゲームをしていた。一番最初に見つかった人間が次の鬼になるのは定番だが、それだけだとちょっと物足りないので、一つルールを追加した。そのルールとは、1〜4から適当に一つ数字を選び、その数字と同じ順番で見つかった人には特別に罰ゲームを科すというものだ。最初は可愛い罰ゲーム(語尾に《わん》や《にゃん》を付けるとか、脇をくすぐられるとか、テストの点数公開とか)であったのだが、今回の罰ゲームはなんと、3番目の人が好きな人の好きなところを言う。
 待て待て待て、何だその公開処刑は。私に仗助君のどこが好きなのかを洗いざらい吐けというのか。とにかく、私は見つからないように全力で隠れる。だってこの罰ゲーム恥ずかしすぎる。

(うーん、ここら辺に隠れておけば大丈夫かなぁ?)

 人の気配が少なく、ちょと暗い場所。なんだか、いかにも「出ます」みたいな場所で怖かったが、それでも罰ゲームの恥ずかしさと比べれば、なんてことない。
 私は運がないのか、罰ゲームの殆どに当たってしまっている。今回こそ回避したい。だから、恐怖をも克服するのだ!
 辺りを見回していると、丁度良い隠れ場所を見つけた。流石ウォーターパークだけあって探す側への障害物が多い。

「桔梗!」

 ソロリソロリとあたりを伺いながらプールの中に入ると、アーチ状になっている橋の下に隠れようとした。その時に丁度声をかけられて心臓が跳ねる。見つかったか、と思って振り返ればそこには若干崩れたリーゼントを懸命に直しながらこちらに歩み寄ってくる仗助君が立っていた。
 なんというか、ちょっとリーゼントが水で崩れるとなんだかセクシー……って違うっ。

「なんとか見つかってねえようだな」
「うっうん……仗助君も」
「ああ……だがよぉ、康一と由花子が見つかっちまってあとがねぇ」
「ええ!? じゃあ私か仗助君が罰ゲームってこと!?」

 私はショックだった。がっくり、と肩を落としてプールの中に沈んだ。

「どうして私はいつもこう……罰ゲームに当たりやすいのぉ」
「まだそうとは決まっちゃいねーだろ」
「じゃあ仗助君が……」
「いや、遠慮しとくわ」
「ほら!」

 水から飛び出て仗助君を睨み上げれば、彼はにやり、と口元を歪めて私に詰め寄ってきた。あれ、なんで私が起こってるのにちょっと私の方が劣勢なの。

「もう罰ゲームは懲り懲りなんだろ?」
「うん」
「そんでもって、俺も罰ゲームはごめんだ……そこで、だ」
「?」
「俺とお前、両方同時に見つかるようにすんだ」
「同時に?」

 ピッ、と人差し指を立てて仗助君は言った。

「おうよ。そうすりゃどっちが三番目なのかわかんねーだろ?」
「あ、そっか……で、でも二人ともやることになったら?」
「そこは誤魔化しようだぜ……いいか? とにかく俺らは単体で見つかることをしないようにすんだよ。でねーと俺かおめーのどちらかが罰ゲームを受けちまうんだからなァ」
「う、うん」

 こういう時の仗助君はずる賢いと思う。でも、それがいざっていうときに頼りになるのだ。例えば、スタンド使い同士の闘いとか。

(あれ、でもそういう時ってずる賢い事こと考えてたっけ? あれれ?)

 私は思わず首を傾いだ。そういえば、割とゴリ押しだったような気がしたのだ。いやいやそんなはずは、と私は再び意識をかつての戦いの場面を思い出す。そのときだ、突然腕を引かれた。驚いて見上げると一瞬仗助君の顔が見えたが、次の瞬間には彼の胸板に鼻を激突させていた。人間の急所だけあって、軽く打ち付けただけなのに物凄く痛かった。

「じょっ仗助くっ」
「しーっ」

 見上げた仗助君は、橋下の外の様子を伺っていた。どうやら、何か物音が聞こえたらしく、ちょっとはみ出していた私を寄せて単体で見つからないようにしたらしい。

(だとしても、わざわざ抱きしめる必要ってあるのォ〜〜ッ?)

 私の眼前には、彼の逞しく分厚い胸板。どうやったらここまで鍛えられるのかはなはだ疑問だ。食べ物が違うのか。いや同じ杜王町に住んでるのだから大きな変化はない筈だ。

(うぅっ、パーカー着てくるんだった……)

 暑いし、そろそろ気分的にも自分の格好になれて来たから、パーカーを脱いでかくれんぼをしていた。それが今の状況では仇になった。むき出しの肩と腰には仗助君の熱くて大きくて無骨な手が添えられている。直に触れられて何だか気がおかしくなりそうだ。
 ばくん、ばくん、と仗助君の心臓の鼓動が直に感じられる。それに呼応して、私の心臓の鼓動も早まっていく。
 周りが異様に静かな気がする。頭上から落ちる彼の息遣いが聞こえ、私の呼吸も熱くなる。

(ど、どうしよう……なんだか、変な気分になってきた)

 頭の中にもやがかかったような感じだった。身体が急激に熱くなっていって、燃えそうだ。
 離れなければ。直感的にそう思った。私は彼を見上げて離してもらうよう頼もうとした。しかし、私の口は彼の名前を言う前に音をなくす。
 強く爛々とした瞳。それが私をじっと見下ろしていた。どれくらい、いつから、見ていたのだろう。そう思った瞬間、顔に熱が集まってゆく。
 ――何か言わなくては。やばい、やばい、やばい――
 何かに急かされるように私は閉口しかけた口を再び開いた。

「仗助さん! 桔梗さん!」

 そのときだ、これまた聞きなれた声が私達の名を呼んだ。二人で振り返れば、長い髪を揺らしながらニコニコと嬉しそうな表情で私達に駆け寄ってくる未起隆君の姿があった。彼の姿を視感した瞬間二人はどちらからともなく慌てて体を離した。

「ぐっ偶然だね未起隆君。お母さんと来たの?」
「ええまあ。でも途中で億泰さんたちと出会ってかくれんぼに参加させて貰ったんで――」
「あァ――――ッ!」

 未起隆君が全てを言い終える前に、大声がその場に木霊した。勿論、私と仗助君のモノではない。

「やっと見つけたぜェッ! やっぱ二人一緒にいやがったなコラァッ!」

 びしり、と私達三人を指さすのは億泰君。その後ろでは、苦笑して立つ康一君とそんな彼にべったりな由花子様……うーん熱い。億泰君が哀れだ。
 この後、未起隆君が率先して罰ゲームを行なったために、私達もやらざるを得ない状況になってしまったのは言うまでもない。





――――
あとがき

 ふぃ〜。これでようやっと一つ区切りがつきました。
 次回からはまたちょっと変わってく……るのかなぁ?
 ちょっとだけ、助平なシーンがあったけど私が書くと全然そう感じない。なぜだ。そうか、私がまだまだお子ちゃまなのね、ぴくしょー。

 みんなでワイワイするのって楽しいよねっていう話。



更新日 2013.07.31(Wed)
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