鉄壁の少女 | ナノ

不思議ちゃんの扱い方






 最強の《スタンド》と呼ばれる《スタープラチナ》を操る空条承太郎。年齢28歳。常に冷静沈着で、冷静で鋭い判断力と数多の場数を踏んで得た経験によって、叔父にあたる仗助と共に危機を乗り越えてきた。しかし、そんな彼でもどうにもなりそうにない問題が今、ここで発生している。
 長身である彼の足もとに居る一人の少女。とても小さなその存在は己の娘(空条徐倫)を連想させるには充分であった。無邪気で大きな瞳をこれでもかと言う程に開き、首が痛くなるであろうに全く気にしない様子で見上げてくる。その視線の色は珍しい物を小さい子供が見つけて興味津々になるものと同じ。その中に、憧憬の色も混じっていた。
 ごく普通のガキンチョならば無視を決め込んでさっさと去ってしまっていただろうが、相手はなんと山吹桔梗の妹、山吹家の三女である山吹蒲公英であった。彼女を無碍にも出来ず、かといって彼女が全く次のアクションを起こさないのでどう対応すればよいのやら、判断しかねていた。
 《スタンド使い》の才能は、色濃く血によって受け継がれる。兄弟や親族が《スタンド使い》であったりする場合、高確率でその者も《スタンド使い》の才能を持つ。長女の桔梗や長男の縹、そして末っ子の木賊、三人もの《スタンド使い》がいる山吹家は確実にその条件が顕著に表れていた。故に、足もとにいるこの蒲公英も《スタンド使い》の才能を有している可能性が高い――しかし

「おっきい……」

 ついに何かをしゃべったと思えば、承太郎が言われ続けてもいた単純なことだった。

「おねーちゃんの言うとーりだ! おっきい! あとカッコイイ!」

 この、蒲公英という少女、明らかに闘争本能の薄そうな性格であった。例え、《弓と矢》か何かのきっかけで《スタンド》が目覚めたとしても、扱う事は出来ないだろう。そう、承太郎の母であるホリィのように。桔梗もそのことについては把握しているらしく、《スタンド使い》が絡んだ出来事には絶対に巻き込まないようにしている。特に《弓と矢》にはかなり警戒しているようだった。

「どうやったらお兄さんみたいにおっきくなれる?」

 無垢な瞳で見上げてくる蒲公英。彼女は、身長が低めなためか、大きい事に憧れているらしい。どうやったら大きくなれるか、正直承太郎でもよく分かっていない。母親方に高身長だったジョセフ・ジョースターがいた為に自分も大きくなったのだろうと思っていたからだ。

「牛乳を飲め」
「でもお姉ちゃんは牛乳は骨がぶっとくなるだけって言ってた」
「……」

 ――そうかい――
 承太郎は防止の鍔を持ってくい、と下げた。

「あ、なわとび使えばいいって言ってた!」
「……」

 ――なら、そうしろよ。やれやれだぜ――
 自然とため息が出てしまった。

「むー、でも伸びない」
「……」

 ――劇的に変わるわけじゃあないんだぞ――
 蒲公英は急にぐぅーんと身長が伸びることを想像しているらしい。

「むーん」
「……」

 ぐるぐる、ぐるぐると承太郎の周りをまわり始めた蒲公英。様々なアングルで承太郎を眺めているようだ。
 正直、承太郎も限界である。これがもう少し大き――およそ中学生か高校生あたり――ければ確実に「喧しい!」やら「鬱陶しいぞ!」と怒号を張り上げていただろう。しかし相手は小学生かつ精神的には保育園児並み。確実にややこしいなことになるのは必至だ。

「あ、蒲公英! なにやってんの!」

 コメカミあたりに力が入り始めた時だった。救世主とでもいうような声がかかる。その声の主は足早にこちらへと駆け寄ってくると、承太郎の周りを旋回していた蒲公英を承太郎から引きはがした。

「す、すいません承太郎さん。妹がなんだか迷惑をかけたようで」
「いや」

 ぺこぺこと謝るさまは、姉と言うよりは親に近いと承太郎は思う。

「おねーちゃーん!」

 蒲公英は、姉である桔梗の腕からするりと抜け出たと思えば、クルリと体を捻って向かい合うと雛が親に甘えるようにすり寄る。本当に桔梗という人物は肉親に相当な信頼を向けられている。

「あのねあのね、お姉ちゃんの言った通りだった! おっきくって、すっごくカッコイイ! いけめーん!」
「ぶばっ!? ちょ、蒲公英ッ」

 リンゴほっぺなので常に朱色の頬だったのが、まるで湯だったタコのように首まで顔を真っ赤にさせると、彼女はオロオロと狼狽しながら蒲公英と承太郎を交互に見やった。
 高校時代で、散々、黄色い声で叫ばれた内容であったが、桔梗に言われる分には特に嫌な感じはしなかった。それは彼女であるからか、それとも慣れたからなのか――いや、これは言うまでもないだろう。
 承太郎はフッと微苦笑を浮かべると歩き出す。妹の対応で困っている桔梗の頭にポン、と一度手を乗せて数回撫でるように叩いた。ふわりと柔らかい感触に思わず目が細くなる。

「お前も大変だな」
「へ、あ……」

 桔梗の返事も待たずに、承太郎は再び歩き出す。後ろでは、未だに駄々をこねる妹を必死に宥めている弱弱しい彼女の声が聞こえていた。





――――
あとがき

 お、おお……見事に承太郎さんと蒲公英しか会話をしていない。困った、パンナコッタ。
 蒲公英は圧倒的に天然さんです。超ド級の天然さんです。そんな子相手ならきっと承太郎さんもタジタジになるだろうと、ふぁい。



更新日 2013.06.23(Sun)
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