鉄壁の少女 | ナノ

2-2



 仗助、康一、億泰は杜王グランドホテルにいる承太郎の下へと集まっていた。桔梗は《スタンド使い》ではないので、これ以上この件に関わる事になるのは危険と見たからである。彼女本人も、相当ショックであったのか、素直に帰宅した。
 これからの事、そして《レッド・ホット・チリ・ペッパー》(本体化は不明だが)が電話を承太郎によこした事を互いに報告し合った。億泰は、5,6年は暮らせる程のたくわえがあるので、父親と共にあの館で杜王町に住むらしい。学校にも勿論通う。
 現在所在がつかめないので、一先ず各自警戒しておくようにという事だけで終わった。

「あの、承太郎さん……」

 さて、帰ろうというところで、おずおずと康一が手を上げながらこれから発言するというアピールをだす。康一の妙な表情に、承太郎だけでなく仗助と億泰も少々気を引き締めた。

「僕らの他に、もう一人、あの場にいたって言いましたよね」
「ああ……最近越してきた山吹桔梗の事だな」
「はい、あの……僕の勘違いでなければ、彼女……《スタンド》が見えているんだと思います」
「何だとォ!?」

 康一の言葉に反応したのは、億泰であった。
 彼は、もし彼女が《スタンド使い》ならば《レッド・ホット・チリ・ペッパー》の本体ではないかと勘繰る。しかし、それをすぐさま仗助が否定した。

「《レッド・ホット・チリ・ペッパー》が言ってたじゃねえか。自分は形兆にスタンド使いされたってよ……それに、形兆と山吹は初対面だった。あいつがたとえ《スタンド使い》であったとしても絶対奴の本体じゃあない」

 まず、形兆は彼女を見て《スタンド使い》になれるか「弓と矢」で確かめようとしていた。この時点で、彼女は形兆によって《スタンド使い》になった事は否定される。そして、形兆は《レッド・ホット・チリ・ペッパー》の本体を知っている様であった為、また犯人の可能性は気薄になる。
 しかし、彼女が《スタンド使い》であるかないか、それは話が別である。

「何故、君は彼女が《スタンド》が見えると思ったんだ?」
「それなんですが……何ていうか、《スタンド》をしっかりと目で追っていた様に思うんです。《レッド・ホット・チリ・ペッパー》の時も、彼女は「見えていた」ような感じでした」
「うーん……結構曖昧だなァー」

 仗助は、顎に手を当てて、口をへの字にしながら考える。確かに、彼女は(暫定)《スタンド使いでない》割には、状況把握ができていた様に思えるし、目の前で奇妙な事が起こっている割には取り乱したりせず、寧ろ何かを「理解」していたように思える。
 《スタンド使い》でないと「不自然」になってしまう彼女の行動や佇まいに、今更ながら違和感を覚えてしまった。あの時は、「弓と矢」等の事に気を取られており、山吹が(暫定)《スタンド使いではない》という事を完全に忘れていた。

「ふむ……可能性はありそうだな。SPW財団に少し調査してもらう事にしよう。お前達の方でも、少し探りを入れてみてくれ」
「ウス」

 こうして、野郎四人の会談は終了した。
 彼らがそんな話をしている事などつゆ知らず、桔梗は明日の授業の為に予習と復習をしていた。

「えっくしッ」

 くしゃみを一つ。そして、体をブルリと震わせた。


 * * *


 今日一日がまた終わる。
 何だか、こんなに「普通」にスクールライフを過ごせたのは何年振りだろう、と考えてみる。確か、3、4年ぶりだった気がする。なんだか、「普通」がとても幸せな事だったっていうのがよく分かった瞬間だよ。
 私は、ぐっと体を伸ばして立ち上がる。鞄の中には既に教科書類などは詰め込んである。

「山吹ィー」
「ん? あ、東方君に億泰君、康一君も……どうしたの?」

 不意に声をかけられて振り返れば、東方君に億泰君というドでかコンビと、小柄な康一君という一見異色に見える組み合わせ。経緯を知っている私としては逆に馴染みやすいメンバーなんだけれども。
 私が首を傾いでいると、一緒に帰ろうというお誘いが来る。うぬ……お誘いはとても嬉しいのだが、私に女の子友達を作る猶予をくれないだろうか。――い、いや、そうっすね、そんな我儘言っている立場じゃあないっすよね、すんませんです!
 勿論、二つ返事でおーけーしましたよ。断るなんてなかなかできないんですすみません。

(あれ?)

 なぜかは分からない。けれど、何だか嫌な予感というものを感じた。それは何だか三人の様子がどこかよそよそしいからである。妖しい、実に妖しい。
 ふと、私はこの前の出来事を思い出す。億泰の家であったあのスタンドバトルだ。その時、私はおそらく何かしら「スタンド見える」と言う事実を彼らに匂わせてしまったのだろう。ど、どうしよう、どうやって隠そう。いや、このまま打ち明けてしまうのもアリか? あ、でもタイミングこれじゃあ悪くない?
 え、結局どっちにしろヤバくないか?

(と、と、取りあえず、いきなり幽霊……じゃなくってスタンドを出されても吃驚しないようにしなきゃいけ――)
「なあ、山吹」
「ん?」

 私は、俯き気味だった顔をあげて東方君を見た――いや、見ようとした。私の眼前に広がるのは彼のスタンド《クレイジー・D》の横半分の顔。一瞬、呼吸が止まったが、なんとか平常心を保つことができた。未だに、ジッと彼のスタンドが私を横から見ている。
 なかなか話し出さない彼を催促する言葉を発すると、彼は適当に取り繕ったような話題を振って来た。や、やっぱり、嗾けて来たのか……あッ危なかった。

「なあ、何かみえねえのかよ?」

 億泰君が背後から話しかけてくる。私は、条件反射で「何かって?」と返してしまう。……あれ、今この場面って「見えるよ。実はずっと見えてましたちゃっちゃらーん」とか言ってこの場を和ませるチャンスだったんじゃあなかった?
 ……やっ、やってしまったッ。今更訂正で出来ず、私達はそのままただ歩く。なんだか、背後から億泰君の「あやしい、あやしい」という視線がビシバシ感じるのは……気の所為じゃあないよね、知ってる。
 この状況をどうやって打破しようかと考えあぐねいていると、不意に前方から「お姉ちゃんだ!」

「あ……木賊」
「あれ、桔梗さんの弟?」
「うん」

 康一君の質問に対して短く答える。木賊は、私の存在に気づくと、野球のバットを抱えたまま私の方までかけてくる。ああ、また転ばないでよー。
 私の心配も杞憂に終わり、木賊は、威圧感バリバリの億泰君や東方君が傍に居てもまったく怖気づいた様子も無く、ニコニコと小学生らしい無邪気な笑みを浮かべて私に言うのだ。「おかえりなさい!」
 まだ家にはついていないが、私のいつのも習慣で反射的に答える。「ただいま」
 東方君たちへの挨拶がまだだったので、紹介と一緒に済ませてやる。なんだか億泰君の表情が少しだけ和らいだ気がしてちょっと助かったかも。

「あ、お姉ちゃんお姉ちゃん! はやくおやつ! おやつ作って下さいよォ〜!」
「あー。そういえば今日は作る日だった」
「なになに? お前兄弟のおやつ作ってんの?」
「まあね。週に二回か三回のペースでだけど」

 まあ、ようは食糧費削減です。

「はやくはやくはーやーくー!」
「分かった、分かったから制服引っ張らないでよ。伸びる。それともあんたがクリーニング出してくれるの?」
「ヤダ」
「この悪がき」

 デコピンの一発。拳骨だけじゃないだけましだもんね。
 私は、弟がこんなんだからと適当に言いつくろって三人と別れた。あの中に居たら、きっとぼろが出てしまうしね。
 あまりにも急いで家に駆けこんだからか、私は気が付かなかった。三人が、ついてきているという事に――


.
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -