鉄壁の少女 | ナノ

ある意味ハイセンス






 様々な過程を経て、漸く己の《スタンド》を自分の物に出来た少女、山吹桔梗。彼女は一見温厚で戦いなんて出来そうにないが――見た目通り、喧嘩ははできない。しかし、闘争本能で操る《スタンド》にその身を蝕まれる事なく、今日を過ごせるのは、やる時はやる彼女の精神力あってこそだろう。
 そんな彼女は今、何故自分が「このような」状況に置いてあるのか分からないでいるのだろう。きょとん、と人畜無害な顔で「彼ら」を見上げている。
 彼女達が居るのはとあるファストフード店の一角。そこで膝を突き合わせていた。桔梗をこの場所に呼んだのは、まぎれもなく、「彼ら」である。

「ええっと……?」

 無言の圧力に耐えかねてか、桔梗は何か話そうと口を開くも再び閉口してしまう。縋るような気持ちで彼女は横に座っているクラスメイトの東方仗助を見た。ちなみにこの場に呼んだ張本人である。
 二人の前には、何故自分までがいるのだと呆れ顔な空条承太郎、そして強い威圧感を放つ彼の隣で冷や汗をかきながら座る広瀬康一、虹村億泰。

「桔梗」
「うん?」

 沈黙のなか、仗助は徐に桔梗の目の前に何かを置いた。それはかえるの置物だった。

「こいつに名前を付けるとしたら?」
「え? 名前?」

 桔梗は暫くカエルの置物を見ていると、うん、と頷いて一言。

「『ド根性ざえもん』」
「ぶっ……!」

 向かい側に座る億泰が噴き出す。そんな彼の反応に、桔梗は訳が分からないと言う顔で首を傾いだ。ふと彼女が横を見れば、仗助も口元を手で覆い、肩をぷるぷると震わせている。

「なっなんで、『ド根性ざえもん』なの?」
「なんとなく」
「ぶふッ……」

 康一に尋ねられた桔梗は素直に答える。すると更に億泰が噴き出した。

「あー、えーっと、じゃあよ、これは?」

 次に仗助が取り出したのは、刀を持った侍っぽい置物。桔梗は暫くそれを見て再び頷くと一言。

「『へいき滝之助』」
「ギャハハハハ――ッ!」

 今度こそ耐えきれなくなった仗助と億泰は大口を開けて笑い出した。腹を抱えて机をたたく彼らは他の周りからしてみればはた迷惑の何物でもなかった。数十秒笑い通した彼らは、漸く周りの視線を集めている事に気づいて慌てて口を押える。余り意味はないだろう。

「なんで『へいき滝之助』?」
「桃太郎じゃありきたりかなって」

 それがなにか? と言いたげに再び首を傾ぐ。康一は、いろいろ言いたい事があるのだが、例え言ったとしても目の前にいるしっかり者の癖にどこか鈍い所のある彼女は余計に訳が分からない、といいたい顔をして終わるのだろうと思い、言うのを躊躇った。
 仗助と億泰は、何を思ったのか、桔梗を連れて外へ出ようと言い出す。彼らの考えている事が康一と承太郎には分かってしまったのか、やれやれ、とため息が出てしまった。
 状況を理解していない桔梗を連れて店の外に出ると、仗助と億泰は次々に何か物を指して問う。「名前を付けるとしたらどんな?」と。すると彼女は、何も疑う事などせずに、ただ素直に思った事を口にする。「きりきりまいまい」「こっぺぱん」「ぴよ吉」――一体どこから来るのだそのセンス。

「あれは?」
「『熱血バッタ』」
「なんで?」
「冬に備えて働くアリに対して冬眠に備えてなかった怠け者な《彼》と逆の性格にしてみた」
「それ、『キリギリス』な」
「……語呂がいいからいいんだよっ!」

 ときどきこんなドジをしたり。

「『バック転少女』」
「何で少女がバック転?」
「カッコイイと思ったんだ」
「そ、そっか……」

 康一は、己には一生桔梗のセンスが分からない、と確信した。
 ハトだから「ハト丸」、まめつぶだから「豆鉄砲」、その後も、「肉まん」「ラーメン」「わたあめ」「リンゴパイ」――

「途中から全部食べ物だよ!」
「いやあ、お恥ずかしながらお腹すいちゃって」
「本能か……」

 あの史上最強の《スタンド》を持つ承太郎も苦笑する。

「でもさ、なんでみんなしてあれの名前はとか聞くの?」

 今更である。集合してから1時間以上は余裕で経っているのに、今頃聞いてきた桔梗。鈍いのか、それとも意外とずぼらなのか、それとも流されやすいのか。どちらにせよ、今が説明する機会だろう。

「ああ、お前がネーミングセンスねえなってー事を確かめようとしたんだぜ〜」
「ばっ、億泰ッ」
「ええっ!? なにそれ!」

 もう少し、言い方が! と仗助が億泰に詰め寄ろうとした時だ。ひどい、と鼻声のようなものが聞こえて彼らが振り返れば、悲しみに表情を歪める桔梗の姿。そんな彼女を見て仗助、億泰、康一は慌てた。承太郎は、「そら見た事か」と呆れ顔である。
 おろおろする二人の巨人と一人の小人が、肩を落として俯く一人の少女を囲んでいる光景は、あまりにも目を引くもので、通行人がなんだなんだと視線を向けている。そんな事を当事者たちは知る由もなく、唯一の年長者である空条承太郎は「やれやれだぜ」と呟くと、落ち込む桔梗の頭をぽん、と撫で、仗助たちに言った。

「逆に考えてみろ、ある意味ハイセンスだぞ」
「!」

 その一言で気を取り直す事が出来たのか、バッと顔を上げた桔梗の表情は明るい。

「やった、承太郎さんに褒められたよ」
「いや、褒められてるかは微妙なラインだぜ?」

 承太郎の一言で機嫌がよくなってしまう事が面白くないのか、仗助は少々不貞腐れた感じに言う。折角、機嫌がよくなったにもかかわらず、また落ち込ませたらどうするのだ、と康一が危惧するも、それは杞憂に終わった。彼の一言を特に気にした様子もなく、桔梗はニコニコと上機嫌だ。流石、自分の《スタンド》の名前を《ドデカ・マンジュウ》にしようとしただけの事はある。いろいろと鈍い。
 承太郎は承太郎で、仗助の様子が分かっているのかいないのか、ニヤリと不敵に笑って肩を二回、叩くのだった。





――――
あとがき

 承太郎さんに褒めて欲しかっただけさ!(ドーン)
 他は大丈夫なのに、ネーミングセンスだけは皆無というかズレている所を強調したお話です。





更新日 2013年 4月20日(土)
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