鉄壁の少女 | ナノ

男と男のお約束



 東方仗助には、最近気になっている女の子がいた。それは、つい一か月ほど前くらいに杜王町に引っ越してきた少女・山吹桔梗である。彼女はひょんな事から知り合いになり、ある事情から共に過ごす時間が増えた。始めは、億泰のように、数少ない《スタンド使い》の仲間だったのだが、いつからか彼女が彼にとって特別な存在になって行った。
 気持ちを自覚したのは、何気ない出来事から。そう、確か、《レッド・ホット・チリ・ペッパー》の本体と対峙した時、べらべらと音石明が桔梗の裸の事を語りだしてからだ。あられもない姿のどこが良かったとか、胸の形とか、身体はどこから洗っていたとか、下着の色とか――それらを聞いた瞬間、横の康一は顔を赤くして「最低だぞ!」と吠えていたが、仗助は違った。怒っていたのは同じだが、ちょっと違う。
 腸が煮えくり返るような激しい感情、ぐつぐつと唸るように沸騰する怒りの原因、それは、嫉妬心からだった。まさかそこまで自分が彼女を想っていたとは予想外で、戸惑った瞬間もあった。まあ、問答無用で音石明の《スタンド》は倒したが。やはりもう少し殴っておけばよかったと後悔もした。
 今から思えば、桔梗とは億泰のようにかなり気が合った、という訳ではない。趣味が合った時もあったがそこまで多くない。
 惚れた一番の原因はあの笑顔だろう。最初から可愛いと思っていた。彼女が笑えば、ある時は安心したり、ある時は心が躍り、またある時は胸を焦がした。
 まあ、一言でいえば彼女の好きな物を知らない。にっくき岸辺露伴は知っている――病院に訪れた桔梗に《天国への扉》をけしかけやがったのだ――だろうが、この仗助さんは知らないのである。これは一大事だ。
 というわけで、さり気なく調査が必要である。そう、さり気ない調査――

「いいか木賊、おめーの桔梗姉ちゃんに《好きな男がいるのか》と《好きなモン》を聞いてくるんだ」

 末っ子である山吹木賊の力を借りる事にしたのだ。何も知らなさそうなぼけーっとした顔は桔梗そっくりである。他の兄弟である縹や茜は全く似ていないのに。

「いいけどなんで知りたいの?」
「……いーんだよ、男は黙って了解するもんだぜ〜」
「ふーん?」
「あ、誰にも言うなよ? これは男と男の約束だ、二人だけのな」
「男と男のやくそく……」

 途端に、木賊の表情がパアと輝く。秘密の共有というのはこの年ごろには甘く、冒険心をそそるのだろう。そんな彼に大きく頷いて「二人だけの約束」という事を強調すると、今度はキリリッ、と木賊の表情が真剣なものになった。

「頼んだぜー木賊!」
「任せてよ!」

 そうして木賊は帰って行った。
 それから数日後、仗助は再び木賊と公園で落ち合った。

「どうだ、木賊?」
「んーとね、好きな男の子はいないって」

 木賊の言葉を聞いた仗助はほっと胸をなで下ろす。しかし、彼の次の言葉でソレはもろくも崩れさる。

「でもちょっと気になる人がいるらしいよ」
「なにィ――ッ!?」

 好きなものは料理をする事食べる事、趣味は読書と散歩にゲーム、スポーツは球技が好き、等々――しかし、それらは頭に入ってこなかった。

「気になってる奴って!?」
「さー? でもおっきくっていい人って言ってた」
「大きくていい人ォ〜?」

 まっさきに思い浮かんだのが承太郎である。あのクールで見た目も中身も男前な空条承太郎ならば、桔梗が思いを寄せても不思議じゃあない。いやしかし、彼は既婚者である。絶対に叶わない願いだぞッ!

「承太郎さんじゃないって言ってたよ」
「そッ、そうか……」

 ちょっと安心した。それに少し希望も見えてくる。特に、《大きい》という点で。

「木賊、これからも協力頼むぜェ」
「男と男のおやくそくって奴だね!」
「ああ、それと報酬のチョコボールだ」
「いえーい! 仗助大好きー!」

 こうして仗助は桔梗ではなく、木賊との仲を深めていったのであった。





――――
あとがき

 木賊が仗助に懐いた(手懐けられた)話。策士(?)仗助君素敵! やっぱりイカサマ上手のジョセフさんの息子だからそういうイメージ強いのかな。
 イカサマ親子ー! オラ親子も好きー!



更新日 2013年 4月18日(木)
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