鉄壁の少女 | ナノ

23-4






 私と康一君、そして露伴先生はコンビニ「オーソン」の所へ来ていた。鈴美さんに、会うために。そこで、私達は聞かされる事になる――彼女との、別れを。
 まだしばらくここに居ていいんじゃないか、いなくなったら寂しいし不安だ――康一君はそう言葉を紡ぐが、鈴美さんは首を横に振るばかり。
 彼女とアーノルドのやるべきことはもう終わったのだ。殺人鬼からこの町を救うという、役目を終えたのだ。だから、彼女達はいかなくてはならない。魂が帰るべき場所へ。

「それとも露伴ちゃん、あたしが居なくなったら寂しいって泣いちゃうかしら?」
「バカ言えよ! 何故僕が寂しがるんだ? 君は15年も前に既に死んでるんだぜ! 前にも言ったがこの世の未練とか何とか言ってないで……さっさとあの世へ行くってのが正しい幽霊の在り方だってのは変わらない意見なんだぜ……」
「……」
「……」

 私は「フン!」と鼻を鳴らす露伴先生を下から睨み上げる。じーっと根気強く見ていると、彼は私達を一瞥し、ほんの少し、寂しそうな顔になった。

「ああ! 分かったよ! 最後だから本心を言ってやるッ! 寂しいよ! 僕だっていって欲しくないさ!」
「ふふっ、漸く素直になりましたね」

 私と康一君はパチリとハイタッチする。
 鈴美さんは、ぽろり、と綺麗な涙を流した。

「あっ……」

 気が付けば、私達だけでなく、仗助君や承太郎さん、ジョースターさん、億泰君とそのおやじさん、由香子さんに未起隆君、噴上君、玉美さん、トニオさん、間田さんまで来ていた。みんな、鈴美さんにお別れを言う為に――

「ありがとう、みんな……さようなら、みんな……」

 アーノルドと共に天に上る鈴美さん。彼女のその姿は薄れ、やがて青空に浮かぶ雲に溶けて行った。
 ありがとう、そしてさようなら。貴方は杜王町の守護霊でした。



 * * *



 あの事故から数日後――
 結局、ジョースターさんと仗助君が拾った赤ちゃんの親は分からなかった。ジョースターさんが養子として引き取る事になり、名を《静・ジョースター》となった。承太郎さんも、彼と彼女と共にこの町を去る。

 そして現在、私は学校を遅刻覚悟である場所へと向かっていた。段々と近づいて行く海――去ってゆく船を見つけ、私は足を速めた。

「元気でなー!」

 仗助君の声だ。大手を振る彼の横まで走りきると、私は呼吸を整える間もなく、叫んだ。

「承太郎さーんッ、ジョースターさーんッ、静ちゃーんッ、どうかっ、お元気でェ――っ!」
「お、おめー学校はどうしたよ!」
「彼らの見送りと学校じゃあ、見送りを優先させなきゃダメでしょ!」
「真面目か不真面目かわかんなくなるセリフだな、それ」

 大きく手を振ると、遠くの大柄な二人がひらひらと手を振りかえしてくれるのが分かる。それが嬉しくて、私はまた大きく手を振るのだ。

「あれ、仗助君その財布はどうしたの?」
「えっ! あ、あ〜〜まあちょっと、な」
「……あやしいィ〜〜」
「あっあやしくなんかねーぜ! ふつーだふつー!」
「ふぅ〜ん?」

 仗助君は鞄に財布をねじ込むと、私の手を取って歩き出す。彼に引っ張られるようにして、私は歩いた。

「……ねえ仗助君」
「ん?」
「私……強くなるからね」
「はあ? なんだぁ、いきなり」

 私は笑って仗助君を見上げた。

「仗助君がこの町を守るなら、私はそんな君を守るってこと」
「……」
「それでプラマイゼロ!……って言いたい所だけどまだまだ私じゃできる事なんてたかが知れてる」
「……」
「けどね、ずっと君の事、支えて行きたいと思ってるんだよ!」
「……」

 仗助君はずっと押し黙っている。彼の顔は、私の所では上手く見えなくて表情がうかがえない。
 ちょっと先走り過ぎたかな、と不安を抱いていると、不意に彼のぽってりとした唇が上下に開いた。

「桔梗、おめ〜そりゃあプロポーズって奴か?」
「へ?」

 私はちょっと考えてみた、振り返ってみた。すると、確かにそう取れなくもないかも、と気づく。気づいて、段々を顔を真っ赤にしていった。自分ではあまり恥ずかしいと思っていないのに、自覚がないだけか、とても頬が熱かった。

「あ、今のは、そっそーゆーのじゃっ、なななくてですねっ!」
「はーんふーん」
「もっもう! 意地悪!」

 繋がれた手を照れ隠しに外そうとするも、大きな仗助君の手がそれをさせてくれない。しっかりと繋がれたそれは、まるで彼が「ずっと離さない」とでも言っているかのようだった。

 ――守ろう。

 私の大好きな杜王町を。

 ――支えよう。

 私が、大好きな……いや、初めて心から愛した《彼》を。

 強くなってやる。私の《スタンド》は《守る》というのが能力の《レディアント・ヴァルキリー》。輝く戦いの乙女。
 けれど、私が目指すのは、鉄壁。厚く、頑丈で、絶対に崩れない鉄壁の守りを持った《スタンド》になってみせる。
 輝かしい未来を掴むために――
 隣の、大切な人を守る為に――

 ――私は、成長する。






〜Girl of the impregnable guard〜
The End






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