鉄壁の少女 | ナノ

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 少年は涙を流しながら悲痛な叫び声を上げた。その声に彼の母親が「珍しく返事をした」と驚きながら部屋を後にする。彼はそれを見送ると荒い呼吸のまま時計を見た。7時36分。あれから《また》一時間戻ってきた。
 掌編は絶望する。防ぐことを、運命を変える事を、できなかった挙句、《岸辺露伴》の仲間である《空条承太郎》や《東方仗助》《虹村億泰》《広瀬康一》《山吹桔梗》まで殺してしまった。

「もうだめだ……僕がどんな風に努力しても、望みは何もない。強すぎる、キラ・ヨシカゲは化け物過ぎる!」

 少年、名を《川尻早人》は絶望に打ちひしがれながらベッドに顔を埋めて涙を流した。

「これから一時間後《運命》はあの五人も露伴の時のように消滅させてしまう。あいつが死ぬか僕の中の《バイツァ・ダスト》をキラが気まぐれか何かで《解除》しない限り、もうあの四人は確実に死ぬんだ……」

 ふと、彼は自分の言葉でハッと我に返る。涙はひっこみ、絶望もいつの間にかどこか遠くへと飛んでゆく。代わりに腹の底から湧いて出て来るのは、何か得体の知れないグツグツと体を発火させてゆくような気持ち。
 彼は床に無造作に転がるランドセルからカッターを取り出した。

「あいつが死ぬか、自ら《解除》しない限り……」

 彼は天井を見上げた。いや、彼は天井を見てはいない。《そこ》に《隠され》た《存在》を見ていたのだ。

 ――今まで、ぼくはこの自分が「人殺し」なんか絶対に出来ないと思っていた。

 早人は、部屋を出ると屋根裏部屋へと続く階段を上る。

 ――誰でもそう思う……11歳のちっぽけな少年にあんな『化け物』を殺せるわけなんかないと、考えさえもしないと思う。

 屋根裏部屋に着くと、とある一角に目をとめる。そこには鉢植えがあり、いい気な布で覆われていた。
 早人にも、11歳の小僧にも、たった一つだけ『化け物』を倒す方法があった。彼を殺害できる『可能性』がたった一つだけあった。その『可能性』は真っ暗な屋根裏で、兵器庫にしまわれている拳銃のように眠っていた。
 小さな彼がそっと布を取ると、彼が前見た時よりも凶悪な顔になっていた。そして、彼は生まれて初めて『神様』に祈りをささげたのだ。

 ――どうか、この僕に人殺しをさせてください。





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