鉄壁の少女 | ナノ

20-4






 血を流したまま気絶している金田一の血の所為で一時、仗助君の身が危うかった――血で手が滑って鉄塔から落ちそうになった――が、《クレイジー・ダイアモンド》で鉄塔を殴り、その反射エネルギーで自分を殴らせて鉄塔の中に戻って解決した。
 金田一にはもう戦う意思はなく、鉄塔の中に帰らせて欲しいと嘆願してきた。なんでも、写真のおやじに唆されただけであり、もともと人と接する事が苦手でこの自給自足な生活を始めたようだった。……何て人騒がせな奴なの。
 お詫びに薬草で傷の手当や山菜でパーッと食べようなど、お詫びにスズメをとって来ようなどと申し出てきたが全て遠慮した。スズメはともかく前二つの奴は彼の……あれだ、ウンコがかかっている。そんな事はいいから、と私達は彼の話を遮り――

「写真のおやじだがよ、何か言って言ってなかったか? 息子……『吉良吉影』の居場所とかよ、なんでもいいんだ」

 仗助君がそう問うと、金田一は静かにこう言った。

「『コーイチ』という《スタンド使い》いますか? この杜王町に?」

 私達は戦慄した。嫌な予感が渦巻く。そんな私達の表情を見て、金田一は心当たりあるという事が分かったのだろう。
 はやる気持ちを抑えられず詰め寄る仗助君に、落ち着くよう金田一は構え、ゆっくりとした口調で言った。

「いいですか、写真のおやじが何気なく会話の中でチラッとだけ言った事なのです。私は詳しくは聞かなかったし奴も細かくは話さな買った事なのです」
「だから康一がどうかしたのかよォーッ!」
「おっ億泰君っ!」

 今にも掴みかかりそうな億泰君を私が抑えると、彼はしぶしぶ握っていた拳を解く事はなかったが肩の力を抜く。そして、金田一は静かに語った。私達が危惧していた事を――

「『始末した』と言っていました。今朝……新手の《スタンド使い》が」

 写真のおやじは既に『吉良吉影』の居場所見つけており、『これからは息子を守るだけではない、積極的にこっちから攻める番だ』と言っていたらしい。

「『すでに新手の《スタンド使い》が今朝、康一という《スタンド使い》を始末した』、ただそう言ったのです」


 * * *


 金田一の証言を、私達は承太郎さんやジョースターさん、由香子さんや露伴先生等々――みんなに知らせた。今朝、登校中に襲撃されて行方知れずの康一君を、みんなで探している。そんな中、仗助君は何か手がかりがあるのか一人、行く先を告げずにどこかへと言ってしまった。
 私の方と言えば、少しでも人手を増やそうと兄弟ら全員に康一君の姿を探させている。けれど、一向に見つける事はおろか、情報すら得られなかった。康一君が消えたと思われる場所には、彼の鞄のみが残されていたらしい。

(そういえば、康一君の鞄を仗助君が持って行ったんだっけ……)

 私は仗助君の家へと向かった。彼がどこへ向かったのか分からなかったので、とりあえず、といった感じだ。家の前に着くと私はインターフォンを押す。

「……出て来ないなあ」

 二、三回ほど押してみたが出て来る気配がない。なんとなく玄関のドアノブに手をかけて回してみると――ドアが何と開いてしまった。恐る恐る開けて入ってみると、一組のハイヒールを見つけた。朋子さんの物だ。
 なんとなく違う東方宅の空気に、私の心臓が嫌に心拍数を上げていく。手のひらはじとりと汗が滲み、呼吸は浅く、回数も増えて行った。
 私は朋子さんの名前を読んでみた。しかし返事はない。家に上がる事に戸惑いがあった私は、気が付けば東方宅を飛び出していた。ゆく当てはなかったが、なんとなく商店街まで走ってみる。すると、ベンチに寝かされている朋子さんを見つけた。一体どいういう事だ、なんで朋子さんは靴も履かずに外に出ているんだ。
 近くに、悠々と景色を眺めているご老人のカップルを見つけたのでそれとなく聞いてみると、突然道の真ん中に現れたタクシーが走ってゆくのを見たという。走ってきたならわかるが、突然道のど真ん中タクシーが現れるのは不自然だ。私はタクシーが向かった方向を聞き、そちらの方へと走って行った。……何だか杜王町に来てから走ってばかりな気がする。
 しばらく走っていると特徴的なリーゼントと逆立った金髪、そして見覚えのない男子生徒が一人いた。

「じょっ仗助君ッ、それに康一君まで!」

 近くにあったタクシーをチラリと一瞥してから私は仗助君とそして、無事だった康一君に駆け寄った。

「ぶっ無事だったんだ! 良かったぁ……」
「うん、心配かけてごめんね」

 ニッコリと微笑む康一君に、安堵のため息をつかずにはいられない。

「ええっと……そちらは?」

 私は、すらりとした背の高く――仗助君程じゃあないけれど!――なかなかに色男な男子学生を見上げた。彼はなにやら疲れ切っているような表情をしているが、私を見るなり綺麗な笑みを浮かべた。

「ああ、そいつは《噴上裕也》だ」
「こっこの人が《ハイウェイ・スター》の本体!?」

 あんなちょっとねちっこそうな《スタンド》の本体が、こんな綺麗な人だとは流石に思っていなかった私は目を見開いて驚いた。すると、それに気をよくしたのか、色男・噴上裕也は更に笑みを深めて私に歩み寄ってきた。
 噴上君は、《ハイウェイ・スター》を身に着けてから嗅覚が異常に向上したらしい。それはもう猟犬並み。人間的思考を合わせればそれ以上だ。どうやら、これで康一君を《捕まえて》いた敵を見つけて倒したらしい。最終的には仗助君が――敵の《スタンド》である《エニグマ》が持ってきた――シュレッダーと敵を一体化させて本にし倒したという。

「はっ初めまして、山吹桔梗って言います」
「ああ、仗助も言っていたが噴上裕也だ」

 噴上君は言うと、何故かクンクンと鼻を引くつかせる。まるで臭いを嗅いでいるようだ。さっきまで走っていたから絶対汗臭いと思うので、なんとなく嫌だなあ、なんて思っていると彼は――

「石鹸の良い香りがするなぁ……清潔感があっていいな、爽やかだ」
「へ、え?」
「さっきまでずっと走り回っていたのか? アドレナリンの匂いと汗のにおいがするぜ」
「えっえっ……」

 なんだか段々距離が近くなってきている噴上君の顔に目を白黒していると、彼は面白そうな表情を浮かべる。この人、私で遊んでいるのかっ! 何か言い返そうと思ったが、上手い言葉が見つからない。

「えーっと、あの……」

 とりあえず何か、何かを言おうとしたその時、お腹あたりに太くて頑丈な物が当たったと思えば私はそれによって後ろへと勢いよく引っ張られた。背中に温かく弾力があるが硬い壁に当たったと思えば、目の前を見覚えのある腕が交差した。その先には、ポカンと茫然とした顔になっている噴上君。

「ん? え?」
「裕也ッ! てめー人の女に手ェ出すはと良い度胸してんじゃあねーか!」

 ええ〜〜ッ!?
 私は叫びそうになった口を慌てて押さえる。気づきたくなかったが、自覚せざるを得なかったようだ。今、現在進行形で仗助君に後ろから抱きしめられている。しかも、康一君はともかくとして初対面である噴上君の目の前で。
 恥ずかしすぎて顔に熱が集中していくのが分かる。これ以上熱くなったら頭から湯気が出て来るんじゃあないだろうかっていうくらいだ。

「おいおい、彼女、仗助の女かァ? まさかだろォ、おい。そんな可愛い子、おめーには勿体ねーくらいだぜ。どうやって捕まえたんだよ?」
「ええッ!?」
「おうよ、運命的出会いだぜ」
「んん!?」

 私にはもう手におえない状況だった。私は近くにいる常識人である康一君にSOSシグナルと言う名のアイコンタクトを送ったのだが、康一君は微笑ましいと言いたげな表情で手を振りながら見ているだけだった。

(そりゃないよォ、康一君ン〜〜〜〜ッ!)

 仗助君に抱きしめられるのは嬉しいしとてもドキドキして幸せな気分になるのだが、場所が場所なだけに恥ずかしい。後ろからだから彼がどんな表情をしているのか分からないけれど、噴上君がとてもニヤニヤとした笑みを浮かべて私を見ているので、きっと私が見たらもっと私が恥ずかしくなるだけだろうと思って、事が自然消滅するまで俯いている事にしたのだった。





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