鉄壁の少女 | ナノ

19-3



 ぶどうヶ丘総合病院に着いた。ずっと走りっぱなしだったため、ドクドクと脈打つ喉と胸に苦しい思いをしながら荒い息を整えて病院のフロアで『外科病棟』を探した。五階だった。けれどそれだけじゃあなくて、何号室なのかを知りたい。それと、「少年A」の名前も。
 私は、フロントへと倒れ込むように駆け寄った。

「すっすみませんッ、お尋ねしたいんですけど、二日前『二ッ杜トンネル』でバイク事故起こしてここに運ばれた、そのっ『少年』……の『病室』が知りたいんですけど、何号室でしょうかっ……」

 露伴先生と仗助君の命がかかっている。けれど、迂闊にそんな事を口にはできない。そもそも、説明が出来ない。《スタンド》は一般人に見えないからだ。だから結構言葉を濁して頼んだ。しかし、目の前にいる看護婦は全く私の話を聞いていなかったように書き物をしている。

「あのっ、急いでいるんですが!」

 病院なのであまり大きな声は出せないが、私はできるだけ棘のある声音で言った。すると、書き物をしていた看護婦は、私を嘲笑するような表情を浮かべるとある物を指でさした。

「あなたね〜、そこに書いてあるのが分からないの?」

 彼女の指すプレートには『本日面会は終了しました』の一行。ああ、見えてなかった。けれど、私は面会に来たわけなんかじゃあない。あと、この看護婦の対応はなんなわけ? 仮にも看護師という立場ならばもっと大人な対応とかできないわけ?
 目の前にいる看護婦の対応に物凄く腹が立っているが、ここで怒鳴り散らしてもなんのメリットもない。私はここで、冷静な大人の対応をしたいと思います。

「面会じゃあありません。ちょっと事情があって、彼の部屋番号が必要なんです」
「貴方、親族?」
「……えっ、いっいえ」
「じゃあ駄目ね、また明日出直しなさい」

 このヤロウ。私はそう口を滑らしそうになった。今にも悪態をつきそうな口をなんとか気持ちを抑える事で制し、私は数歩下がった。その後、康一君が私同様に病院へと駆けこんでくる。

「どうだった!?」
「まるでだめ、全然取り合ってくんないよ」

 今度は、康一君があの性悪看護婦に挑んだ。しかし、彼も会えなく撃沈、暴走族と間違えられた挙句、帰れと直球で言われてしまった。

「どっどうしよう、康一君……」
「……こうなれば……」

 康一君は、《エコーズ ACT3》を出すと命令した。
 がたがた、がたがた、と性悪看護婦の横にある高い棚の上にある大きな薬瓶が揺れる。それはグラリ、とバランスを崩すと床へと向かって傾いて行く。看護婦は慌てて支え、元の位置へと戻した。どうやらこの薬、一本5万円はする高価な薬らしい。
 にやり、と私と康一君の口角が上がった。
 看護婦がほっとしたのもつかの間、瓶は再び傾きだした。しかも、今度は『重く』なっている。看護婦は瓶に押されている気分になっているだろう。

「ちょっちょっとあんた達! て、手伝ってッ。崩れそうなの、支えて頂戴ッ!」

 様子を見ていた私たちはあたりをキョロキョロと見渡し、わざとらしく自分を指して「私ですか?」なんて言う。

「あの〜〜ひょっとして、ぼくらを呼んだんですか? 『ちょっとあんた達』って僕らの事?」
「そうよッ! あんた達しかいないでしょッ! 何だか知らないけどこれ凄く重いのよッ!」
「そ〜〜言われてもな〜〜〜〜っ」
「今帰れって言われちゃいましたしね〜〜〜〜っ」
「やっぱり帰らなくちゃあ、ぼくらぁ〜〜っ」
「ね〜〜」

 焦り過ぎて鼻水が出ている看護婦に私と康一君は二人でふざけ合いながら彼女の悲痛な叫びに答えた。ちょっと罪悪感はあるけれど、仗助君と露伴先生を助けるためだ、仕方ない。

「それ全部落としてわっちゃったら、上の人に叱られちゃったりするわけですか? そうなったら OH・MY・「ガッ」ですね」
「ひゃあ、上司とか怖そうッ」

 康一君はドア枠に掴まって体をぶーらぶーらとさせ、私は持っている自分の鞄を揺らして遊びながら言った。そんな私達に痺れを切らしたのか、看護婦は分かったと泣き叫ぶと。

「525号室よッ、噴上裕也なら525号室、そこのエレベーターを五階よ!」

 言った。同時に、ガラスばりである病院の入り口をぶち破って入ってくるバイクが一台、現れた。乗っているのは、仗助君。彼はフロントにいる私達を見つけると不敵な笑みを見せた。

「分かったかッ、康一!」
「525号室だよ! 名前は噴上裕也!!」
「でも五階なんだよ! この病院を五階上で、上らなくちゃあいけないんだよッ」

 仗助君は、私達にお礼を言うと、バイクをおよそ時速70、80キロ程で、康一君の《エコーズ》で開けたエレベーターへと突っ込んだ。衝撃は《クレイジー・ダイアモンド》で何とか凌いだようだが、バイクはボロボロだ。
 臭いを覚えられていない私達の横を《ハイウェイ・スター》が時速60キロで過ぎて行った。それは真っ直ぐに仗助君へと向かってゆく。

(エレベーターの閉じる速度が間に合わないッ)

 私は《レディアント・ヴァルキリー》でいくつか弾く。その間に仗助君はエレベーターの扉を《クレイジー・ダイアモンド》の怪力でで無理矢理閉じさせたのだ。しかし、運悪く、一匹だけ挟まってしまった。

「まっまずいっ!」
「《エコーズ ACT3》――ッ!」

 康一君の《エコーズ ACT3》が、挟まっていた一匹を《重く》した。挟まったまま、ずん、と下へと叩きつけられ動きを封じる。おかげで問題なく仗助君を乗せたエレベーターは上昇していった。

「流石、康一君っ」
「で、でも『ACT3の3 SREEZE』は一撃一か所しか攻撃できない! 残りの奴は仗助君を追っていくッ」

 くんくん、と《ハイウェイ・スター》は仗助君の匂いを探すと、通気口からどんどんともぐりこんで行った。

「止めなくちゃ!」

 私は《レディアント・ヴァルキリー》の持っている盾で何匹かの《ハイウェイ・スター》の上に覆いかぶせて閉じ込める。下からバンバンと暴れる衝撃が押さえつけている盾から振動として伝わってくる。しかし、《遠隔操作型》なためにパワーがないので《レディアント・ヴァルキリー》を押しのける事が出来ないでいた。

「仗助君……」

 私は、康一君と共に五階に着いたエレベーターを見つめながら、《ハイウェイ・スター》の本体である噴上裕也を倒せるように、と祈った。
 私達の背中には、仗助君によって砕け散ったガラスばりのドアからぬるい風が吹きつける。


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