2012 HappyBirthday | ナノ




 
嫌な汗が一筋、首を伝って流れた気がする。上昇しきった体温は一向に下がる気配を見せず、痛いくらいに鼓動を早める心臓は、今にもこの身体を飛び出していってしまいそうだ。
こんな状態になってしまっているのは、誰でもないリドルのせいだ。私をソファーに縫いとめる彼を、無駄な抵抗だと思いつつもじとりと睨んでみる。けれど彼は笑みを深くするだけで、掴まれた腕が解かれることはなかった。


「リ、リドル……落ち着こう?」
「どうして? 君が望んだのに」
「そ、それは」


そうだけど、違う。
確かに事の発端は私だ。前もって教えてくれたらよかったのに、今日は彼の誕生日だということを彼の口から初めて聞いて、それなら何かプレゼントでも、と思ったのだ。でもいきなり何かを用意するのは思ったより難しく、結局私は何も用意出来なかった。
他の子はちゃんと知っていて祝ったのに、私だけ何も知らなくて何も出来ないのだと思ったら、少し悔しかった。だからつい、あんな下らない冗談を言ってしまったのだ、「じゃあプレゼントは私ね!」だなんて、今時流行らない。


「あの、だから、さっきのはね……、」


冗談だったの、と言いかけた言葉が止まる。


「黙って」


リドルは、私の上に重なるようにして倒れ込んだ。
散らばる髪の海に、彼は目を閉じて顔を埋める。そうして吐いた溜め息が首筋に当たり、くすぐったくて私は小さく肩を震わせた。
ちらり、と彼の様子を伺うと、眉を寄せきつく目を閉じた、ひどく疲れた表情がそこにあった。


「……name」


低く掠れた声がすぐ耳元でして、顔が熱くなる。


「リドル、」


どうしたの、と問いかけそうになった口を閉じた。少しの間、このままにしておいた方が良い、そんな気がして。

掴まれていない方の腕をそうっと伸ばして、彼の頭を撫でてみる。さら、と短い黒髪が手に馴染む。驚いたのか、彼はぴくりと身体を揺らしたがそれだけで払いのけられはしなかった。
石だけで作られた無骨なこの談話室は、長時間居るには少し寒く、私とリドルの体温は指先からゆっくりと冷えていく。

よく分からないけど、疲れてるのかな。だとしたらもう少しこのままで居よう、と思った時、


「……知ってるよ、name。ただの冗談なんだろう?」


目を薄く開いた彼がそのままの体勢で言った。
少し迷って、


「うん……ごめんね、リドル」


なんにも用意出来なくて、と、天井から吊るされた、ぼんやり光る緑色のランプを見つめながら答えた。
その言葉に、いや、と彼はゆるく首を振る。


「君に言わなかったのは僕だ」
「……うん」


いつも意地悪で腹黒くてしたたかな彼が、こんなふうに弱っているなんて珍しいことだ。
何があったのかは分からないけれど、ひとまず私が今言える言葉は。


「……誕生日、おめでとう。リドル」


目を見開いた彼の頬に、唇を寄せた。ちょっと羨ましくなるほど滑らかな肌が、一瞬だけ私のものになる。


「……えへ」


唇を離すと、なんだかとても気恥ずかしくなってしまったので、照れ笑いをして誤魔化した。
それに吊られたのか、彼も表情を和らげ微笑みを零す。


「ありがとう、name」


頬に手が添えられ、また二人の顔が近づく。
そうして今度は、唇が重なった。
 
 



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