うおっほん。あー、皆の衆。
それぞれ大いに楽しんでいるようで、まことに結構じゃ。
ところで、今ワシがはまっておるレモンムースの作り方なんじゃが、これが案外……、おお、本題を忘れる所じゃった。歳をとるといかんわい。
この祭りの花形、たのしい打ち上げ花火の観覧時の注意をしておこうかの。



「ダ、ダンブルドア校長……!」


どこからか響くしわがれたその声は、まさしくその人だった。
きょろきょろと辺りを見回しても姿が見えないので、きっとソノーラスを使っているのだろう。
この声を聞くかぎり、ぴんぴんしていらっしゃるようで良かった。まだヴォルデモートさんとは会っていないんだろう。
でも、時間が無い事に変わりは無い。


ダンブルドア校長はそのまま、花火が上がっている最中は箒で飛ばないようにとか、持ってきたカエルチョコが暑さでどろどろに融解した事とか、観覧席でのマナーとか、レモンムースの事とかを喋った。
関係無いお菓子の話題の時には、決まって周囲から、くすくすと笑い声が聞こえた。本当に、おちゃめというか、子供のような老人というか。ていうか花火まで上がるんですか。素直にすごいと思う。


では皆の衆、各々悔いが残らんように、存分に楽しむのじゃ!


そう締めくくって、声は聞こえなくなる。
本当に楽しそうだなダンブルドア校長。ヴォルデモートさんに殺人計画立てられてるとも知らずに。しかも現在進行形で実行されてる。


でも、これはまずいかもしれない。
花火が上がったら皆きっと、そっちに夢中になる。
そうやって注意が薄れている内に、ヴォルデモートさんが、本格的に動き出しでもしたら……。
ううん。
きっと、花火で警戒が手薄になるのを狙っているんだ。だから今まで、何もしなかった。
ヴォルデモートさんは、彼は、こういう事に関してはまったく容赦が無い。
息を潜めて、獲物をじっと見定め、そして、


ひとおもいに、このお祭りを壊してしまうだろう。
お祭りを楽しむ人々の笑顔を。
日常を、平和を、幸せを、すべて。


「どうしよう……!」


嫌な汗が背中を伝う。
どうしよう。どうしよう。
何とか、何とか止めなくては。
事情を言って花火を中止……だめ、信じて貰える訳が無い。説得するしても、その時間が無駄だ。
それ所か怪しまれて、よくあるちょっと署まで、みたいな展開になりかねない。よってこの案はボツ。

何か他に良い方法は無いの。


……あ、そうだ。

ダンブルドア校長の所に行こう。
そして、皆をすぐ避難させるようにお願いして……。
信じて貰えるだろうか。
でも、あの人なら、ダンブルドア校長なら……!


すべてを話しても構わない。
私は、このお祭りを守ってみせよう。
私の大切な人も。


「あのっ!」


たった今すれ違った、見知らぬ通行人さんに声をかける。
ふくろうのお面をかぶって、手には、様々な屋台で勝ち取ってきたであろう戦利品の数々。
突然、鬼気迫った様子で声をかけられ、彼は驚いたように、眼鏡越しに目を丸くする。
黒いくしゃくしゃの髪は、誰かさんを沸々とさせる。


「えっと、何か僕に用?」
「ダンブルドア校長の居場所って、どこかご存知ありませんか? どこそこで見かけた、とかそういう些細な事でもいいですからっ」


ずいっと詰め寄る私に若干引き気味になりつつ、それなら、と彼は口を開く。


「観覧席のすぐ近くの、塔の最上階で花火を見るって聞いたから、多分そこだと思うね。塔はこの辺りで一番大きな建物だからすぐ分かるよ、ほら、あれ」


そう言って、出店の袋をいっぱいにさげた腕をすっと上げ、遠くを指差す。
その指先にピントを合わせて辿ると、たしかに、にょきっとのびた塔がある。
夜空に向かって姿勢よく佇むその姿を確認すると、私は走り出す。


「どうもありがとう御座いました、それじゃ失礼しますあっこれお礼ですよかったら、どうぞ!」


立ち尽くす彼に向かって、巾着から取り出した、グリーンのキャンディを投げる。あの三人から貰った物。思いもかけないところで、役に立つ。
まるで有名なクディッチ選手のように、上手にキャッチした彼は人懐こい笑みを浮かべて言う。


「これ、僕の好きな子の瞳の色と一緒だ」
「それはよかった!」


あれ?何か引っかかる。
でもまあいいか。
私も満面の笑みを返して、手を振りながら、提灯や子供や夜店や、腹立つリア充カップルなどの間を走り抜けた。


きっとゴールはもう、すぐそこだ。





  



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