観覧席のある広場のほうへ向かっていくと、だんだん人通りが多くなって、思うように進めなくなった。
皆花火を観に向かっているんだろう。
のろのろとした進行ペースに、暑さも手伝い、苛々がつのる。
舌打ちをしそうになって、すぐ側に人が居るのだと、無理矢理自分を宥めた。


早く、早くしないと、花火が上がってしまうのに……!


とうとう我慢できず、人を押しのけるようにして前に進んでいく……と、広場のほうから大きな音が聞こえる。

喧騒の中、耳をすましてみるとそれは、悲鳴や爆発音だった。
何が起きたのかとざわめく人達。
誰かの叫ぶ声が聞こえる。


「闇の勢力の連中だ! 逃げろ!」


途端に、広場へ向かおうとしていた人々が、我先に避難しようと、方向転換して道を戻ろうとしだす。
大通りは混雑を極める。
見知らぬ誰かの泣き叫ぶ声。
耳をつんざくような爆発音。


「お前ら落ち着け! 姿くらましで逃げるんだ! この場は闇払いの者に任せてくれ!」


その声に、冷静を取り戻した人から順々に、姿くらましをして消えていく。
あれだけぎゅうぎゅう詰めになっていたというのに、たちまち通りは闇払いと、私しか居なくなっていた。
闇払いの方々はそのまま、広場のほうへ走り出す。


「逃げ遅れた奴を見つけたら、すぐに避難させるんだ!」
「くそっ……こんな時に……」


私も慌てて観覧席のほうに向かう。
一般の人が居なくなったおかげで、すぐに見えてきた。


「ここにヴォルデモートさんが……」


闇払いの方と、死喰い人さんが戦っている。
緑や赤の光線や誰かの叫び声が飛び交い、思わず足が竦む。

……大丈夫、行こう。

足を踏み出すと、ドン、と大きな音がした。
空を見上げると、髑髏が哂っている。

これは、闇の印。
ぎゅっと唇をかんだ。



つい先程まで笑顔で溢れていた祭りの場は、もうここには存在しない。
なんて、悲しくて、むなしい。
平穏が、こんなにも脆いものだなんて、知らなかった。


「name様」


聞き覚えのある声がして振り返ると、


「ル、ルシウスさん……」


やばい、これはやばい。
私の事を知ってる人に見つかってしまった。
しかも、よりにもよってルシウスさんだなんて。


「なぜこの場にいらっしゃるのですか?」


あなたは屋敷にいらっしゃるはずでしょう。

底冷えのする声色で、わざわざ、私にたずねてくださる。
邪魔者は帰れ、とアイスブルーの瞳が語っている。

……怖い、けれど。


「生憎私はあまのじゃくなのです」


帰れと言われてしまうと、ついつい留まりたくなるんです。


「そうですか、では」


彼がローブの裾から杖を取り出し、真っ直ぐに私に向ける。


「力ずくでもお戻り頂きましょう」


そう仰って、ルシウスさんは美しく微笑んだ。








一筋の赤い光。
失神呪文が飛んでくる。


「プロテゴ!」
「インカーセラス!」


今度は縛る呪文。
それもプロテゴで防いで、何とか勝算はないものか思考を巡らせる。

ヴォルデモートさんに魔法を習った事はある、でもそれはほんの少しだけだし、学校にも通っていないからほとんどが独学、魔法を使い始めたのもこっちの世界に来てから。

ルシウスさんに敵う筈がない。
最初のうちはまだ何とかなるかもしれないけれど、たちまち私は彼に負けるだろう。

何か勝てるとこってないかな、いやないな。うん、ない。
魔力の強さも経験も、何をとっても彼のほうが何枚も上手だ。


急がなきゃ、校長が殺されてしまうのに!


そう考えている間にも、容赦ない攻撃は続いている。
対して私は、それらをプロテゴで防ぎ、彼に比べたらすずめの涙ほどの攻撃呪文を唱えるのが精一杯だ。


「さあ、name様。そろそろ降参した方が身の為なのでは?」


優雅な笑みで私を追い詰めながら、楽しそうに仰った。
あれだ、この人、いつも私にからかわれたりしてるから、鬱憤晴らしてる真っ最中なんだ、今。
やけに楽しそうだなと思いましたよ。道理でね。


「……残念ですけど、そのつもりはありません」


睨みつけて言うけれど、どう見ても負け犬の遠吠えです本当にありがとう御座いました。


こんなペースじゃ、魔力がもたない。
ヴォルデモートさんを止めるという大仕事が、私には残されているのに。

ああもう、本当に、厄介な事をしてくれる!
や、向こうもそう思っているでしょうけれどね!


「はあっ……、デフィンド!」
「プロテゴ、ステューピファイ!」


防ぎ、攻め、また防ぐ。

私は息を荒くしているというのに、ルシウスさんは余裕の態度だ。
さすが現役死喰い人さん、格が違いますね!とか言ってる場合じゃない。


「クルーシ、」
「フィニート!」


とっさに呪文を唱えた。
そして呆然とする。


許されざる呪文の一つ……服従呪文。
それを今ルシウスさんは、私に使おうとした。


「ルシウスさ、」
「エクスペリアームス!」


隙だらけの私に向かって、光線が飛んでくる。
もう少しで当たりそうなところで、慌ててプロテゴで防いだ。


ルシウスさんの顔を見ると、先程と変わらず、わらっている。
なかなか歪んだ、素敵な表情だ。


「そうですか、なるほどね……」


少しの欠片程の、手加減も容赦も、いらないってわけだ。

ようやく理解する。
彼は私を、なかば殺しにかかっているらしいという事を。


そしてまた、失神呪文だのなんだのと、攻防戦が再開される。


どうして私は、ルシウスさんと戦っているのだろう。
何とも言えない、微妙な気持ちを覚える。
悲しいような寂しいような、そしてむなしさが胸に広がっていくような。

若干、腹ただしさもある。
もう、無駄にしていい時間など残されていないのに。


ああでも、もうだめだ。

このままじゃ私は負ける……!



何か、隠れたり出来る場所はないだろうか。
目線はルシウスさんから外さずに、周囲を見る。
彼と戦っていて気づかなかったけれど、すぐそばでは死喰い人さん達と闇払いさん達がなかなか激しくドンパチを繰り広げていた。


闇払いさん……。
そうだ、闇払いさんに助けを求めよう!


でも、私が少しでも隙を見せたら、彼は容赦なく攻撃呪文を放つだろう。
背中を向ける事なんて言語道断だ。

何か、何か目くらましでも出来ればいいんだけれど……。
オブスクーロで目隠しを……ああ、魔法はだめ。簡単に防がれてしまう!


何か使えるもの……。


ぱっと、浴衣の袂に入れた巾着の重みを思い出す。


花火!


シリウスさん達から頂いた、花火がある……!


あれを爆発させて、そうしたら少しは注意を逸らすことが出来るかもしれない。

こんな稚拙な作戦、上手くいかないかもしれない。
でも、やらないよりかはマシだ。
みすみすと負けるよりかは、せいぜい、精一杯、足掻いてみせよう。


袂に手を入れ、巾着から素早く花火を掴み、彼と私の間に放り投げ、ばらまいた。
それが石畳に落ちる前に杖を花火に向け、


「エクスパルソ!」


ばちん、と大きく弾ける音がして、何色もの光が飛び出す。

赤、緑、青、黄色。

四方八方へと、まるで意識を持つかのように。
きらきら、きらきらと、夏の夜空に散る。


色とりどりの閃光に遮られ、ルシウスさんの姿が見えなくなる。
その瞬間、私は闇払いさんの元へと走り出す。


「逃げるが勝ち!」


走りながら、また巾着の中から取り出した花火を撒いていく。
たちまち、辺り一面、閃光だらけ。
小型の物だけれど、数だけは大量にある。お得な詰め合わせセットをなめるなよ。
ルシウスさんの怒声が背後に聞こえるけれど、花火が上手に邪魔をして、姿は見えない。

対して目的は、見えてきた。


「闇払いさん、助けてっ!」


思い切り被害者ぶって叫んだ。
走ってくる私に気づいた闇払いさんが目を丸くする。
一瞬警戒の色を見せるけれど、私はどこからどう見ても善良な普通の女の子なので、すぐに驚きに満ちた表情に変わった。


「くそ、まだこんな所に一般人が居たのか!」


そりゃね。
自分の意思で避難しなかったんですもの。

で、したたかに演技スタート。


「た、助けて、くださっ……死喰い人に、襲われ、」
「ちっ……姿くらましは出来るか?」


出来ない、と首を振る。
ヴォルデモートさんに教えて頂いたので本当は出来るけれども、出来ると言ったら、今この場でしなくちゃいけなくなる。
そしたら、塔には辿り着けない。


「分かった、いいか、あの道を真っ直ぐいって左に曲がると、クディッチの店がある。そこで、箒を借りて安全な場所まで避難するんだ。この騒ぎで無人だろうが……この際仕方ないからな、後で返しに行けばいい」
「はいっ……ありがとう御座います!」


純度百パーセントの笑顔でお礼を言ってから、言われた通りの道を走っていく。


箒。
それは、良いことを聞いた。

箒に乗れば、塔のてっぺんまでひとっ飛びだ!
わざわざ登る必要は無くなる。


闇払いの彼が言った通り、クディッチ店はあった。
ゆっくりしている暇はないので、店の扉を思い切り開けると、からんからん!と、ベルがけたたましく鳴る。
店の中は暗い。どうやら、人も居ないようだ。闇の帝王が攻めてきたのだから、当たり前か。

ルーモスと唱え杖先に明かりをつけ、棚を順番に照らしていくと、やっと箒が飾られているコーナーを見つけた。
杖で照らしながら、箒についているプレートを読み上げる。


「こっちはスピード抜群、これは落ちても壊れない頑固者、うーん……」


どれもいまいちだ。
というか私、箒に乗った事無かった。どうしよう、かなりの誤算。

かといって、今更あの場に戻るのも危険すぎる……もしも、死喰い人さんに気づかれたりしたら……。

箒を照らしていきながら、悶々と悩む。


「あ」


何の変哲もない箒。
そのプレートには、『クディッチ入門者におすすめ!安定性抜群』と書かれている。

これなら、いけるかも……!


「ごめんなさい、ちょっと貸して下さいね」


高いところに飾られてあるのでアクシオを使い、その箒を手にして店の外へ出る。
後で返しにきます。多分。私が忘れなかったら。


箒を地面に置いて上がれ、とかやっている暇がないので、仕方なくぶっつけ本番で箒にまたがる。
少し深呼吸してから、念じてみる。


飛べ、飛べ、飛べ……。


心の中で呟くたびに、ぐらぐらと不安定に箒が揺れだす。
下を見てみると、少しずつだけれど浮いていた。
そうっと、地面から足を離す。

さすが、入門者におすすめの箒。

どんどん高くなっていく。
少し怖い。
落ちたらどうしよう落ちたらどうしよう。
でも、がくぶるしてる暇すらないんだよね。ああ、嫌になっちゃうよ本当に!


落ちないように箒の柄をぎゅっと握り、思い切ってスピードを出してみる。

足元には、ダイアゴン横丁の町並みが広がっている。
夜空の月や星に、ぐんと近づいた気がする。
暗くて明るい、綺麗な夏の夜の空。


ああ、どうしよう。
私これ、結構楽しんじゃってるかもしれない。

まあ、手は震えているんですけれども。
怖いから、とかではなく、あるいは武者震いの類かもしれない。


上空から見ても不自然なほどにょきにょき生えている、ダンブルドア校長が居るであろう塔に向かう。
夏の風を身体いっぱいに受けて、そっと思う。

すべて終わって帰ったら、ヴォルデモートさんと箒二人乗りしてみてもいいかもしれない。
色んな事、話したい。伝えたい。
面白くて優しい人達に逢ったとか、生まれて初めてゴーストと逢った事とか。
それからチョーカーも渡して、それから、いっぱい笑おう。
ヴォルデモートさんはまた、怖い顔をしていると思うから。








そうやって空の旅も無事終了し、時計塔のすぐ目の前に来れた。
少し戸惑ったけれど、小さな窓を見つけたので、それを魔法で割り、中に入ろうとすると、誰かの怒鳴り声や物音が聞こえる。


「この声は、ヴォルデモートさん……?」


よく聞こえないけれど、多分きっとそうだ。
ダンブルドア校長のもとに、来てしまっていたんだ。私よりずっと早く。
止めなきゃ!


急いで窓の中に身体をねじ込ませ、ようやく中に入る。
音や声は、頂上のほうからだ。
きょろきょろと見渡すと、階段があった。上へと続いている。
箒をそっと石壁に立てかけ、杖に明かりを灯し、階段を駆け上がる。


そこに居たのは、やっぱり、


「ヴォルデモートさんっ……!」


彼の杖から緑色の光線が溢れ、それが……対峙するダンブルドア校長の杖の赤い光と繋がっている。
私に気づいたヴォルデモートさんが、一瞬驚いたように表情を崩す。
けれどもすぐに険しい顔に変わり、来るな、と、その赤い瞳が言っている。
有無を言わさない、視線。
……けれど、ここで引き下がる訳には行かない。
ヴォルデモートさんがダンブルドア校長に視線を戻した途端、私は杖を、赤と緑の光の中心に向ける。


「フィニート!」


二人の呪文を強制終了させる。
ばちっと火花が飛び、光は途切れた。

ヴォルデモートさんとダンブルドア校長が、突然割り込んできた私に目を向ける。


「name……!」


怒りをあらわにした様子で声を荒げる。
その声を無視して、すっと杖を下ろして、初めて、手足が小刻みに震えているのが分かった。
でも、私は。


「ごめんなさい。邪魔をしてしまって」


無理矢理笑みを作って言うと、彼が苦虫を噛み潰したような顔をする。


「お前には、待っていろと言った筈だ……それがこんな所まで来るとは、どういうつもりだ?」
「用事があって来たんです。とっても大切な」
「後にしろ! この場はお前が来るような場所ではない、帰れ!」
「ダンブルドア校長」


視線はヴォルデモートさんを見つめたまま、声をかける。


「姿くらましをして、今のうちに、逃げて下さい。私に任せて、早く……!」
「name、貴様!」


私の言葉を聞いたヴォルデモートさんが、ダンブルドア校長に再び杖を向ける。
それと同時に、私も彼に向かって杖を向け、


「ステューピファ、」
「エクスペリアームス!」


呪文を言い終える前に、ヴォルデモートさんの放つ呪文によって、杖ごと私は吹き飛ばされる。
堅い石壁に背中を打ちつけ、痛みが走る。


「っい……!」


痛みに歪む視界で、ヴォルデモートさんが早足で近づいてくるのが見える。ダンブルドア校長は、姿くらましをしたらしい。ああ、よかった。

ぼんやりと思いながらおぼつかない手つきで杖を探し回るけれど、なかなか見つからない。
気づけばヴォルデモートさんが目の前に迫っていて、杖を探す手の甲に激痛が走る。


「い、たっ……!」


ぎり、と。
彼の足に踏まれているのだと、その痛さに喘いでからようやく理解する。


「お前は裏切るつもりか、私を……!」


苦しそうに搾り出す声が、頭上から聞こえた。
暗くて表情が見えないけれど、たぶん、この人は……。


「ヴォルデモート、さ……」


手の甲から足が退けられ、ふっと痛みが無くなる。
ヴォルデモートさんが床に膝をつき、私の顎を持ち上げた。


「答えろ、name!」


ああ、きっと、この人は。

悲しんでる。


まるで、置いていかれる子供のような声色をしている。
先程まであんなに、怖い顔をしていたのに。人を殺そうとしていたのに。
母親に置いてかれた、子供みたいに、今は……。


「ヴォルデモートさん……」


目から熱い雫が湧き出て、たちまちこぼれそうになる。
彼の紅い瞳には、情けない顔をした私。

私は、震える両手を彼の両頬に添えて、ぐっと首をめいっぱい伸ばした。
唇が、重なり合う。


ゆっくりと離れていくと、ヴォルデモートさんは驚いた顔をしている。
キスをしたせいで、私の流した涙が彼の頬に伝っていて、まるで彼が涙を零したかのように見える。
でも、先程は、本当に涙を流しそうな顔をしていた。
だから、私は、たまらなくなって……。


「……name、」


ヴォルデモートさんが言葉を続けようするのを、彼の唇に手を添えて止める。
何も言わないで。
そう、目だけで訴えて、左右に首を振った。

そして私は、ヴォルデモートさんの紅い瞳をまっすぐに見つめて、口を開く。



「かえりましょう」



紅い瞳が、驚きの色に染まる。



「かえり、ましょう」



声を震わせながら言ったと同時に、また涙がこぼれ、私の頬を伝う。

ヴォルデモートさんが、怪我をした私の手を取り、少し、苦しそうな顔をして、目を細める。
彼の顔がゆっくりと、近づいてくるのが、涙で滲んだ視界から分かる。
やさしくやさしく、頬に手を添えられ、私はまた、目を閉じた。









「起きろ、name」
「っ!」

顔面にぼふっと何かを投げられ、意識が浮上する。
急いで身を起こしてみると、顔面に被せられていたそれはクッション。
辺りを見渡すと、いつもの私の部屋だった。
何も変わらない。カエルチョコなどのお菓子でちらかしたままのテーブルも、お気に入りのティーカップも、読みかけの本も、何もかも。


改めて、声をした方を見てみる。


「……ヴォルデモートさん」
「いつまで昼寝をしているつもりだ」
「……ひる、ね?」


昼寝。昼寝。お昼寝。

ああそうだ確か私は、本読むのに少し疲れたから、って、ソファーで休んだっけ。


あれ、待ってよ。
じゃあ今までの事は?


「お、おまつり、は……」


寝起き特有のたどたどしい声で尋ねる。


「何の事だ? ……どうやらまだねぼけているようだな」


訝しげに私を見下ろす、ヴォルデモートさん。


……うそだ。
まさか、まさかまさか。


「ゆ、夢?」


今までの全部?
え、いやいや、誰かうそだと言って。
そんな、そんな夢オチなんてチープな……!

ていうかあまりにリアルすぎ……あ、もしかして、色々とおかしな点が多かったのは、ゆ、夢だったから……とか……?


「うそ……うそだ……」


信じられない。
だってたしかに、体温を感じたのに。
……あ、そういえば私、自分から、き、キスを…………。


「ああああああ」


ありえない、ありえない!
恥ずかしすぎる。
いくらその場の流れとかノリとか空気に流されてしまったからって、だからってさあ……!


「苦しそうにうなされていたかと思えば、まったく訳の分からない……まあいい。これから食事だ、さっさとしろ、name」
「は、はい……」


ヴォルデモートさんが部屋を出てから、深く深く、溜め息をつく。


今までのが、全部夢だなんて。
……どれだけ長い夢見てるんだ。
窓の外を見ると、真っ暗になっていた。私が眠りについた時はまだ、明るかったというのに。


夢。


夢の中でのヴォルデモートさんは、なんだかおかしかった。
そして私もおかしかった。
でもよく考えれば当たり前なのだ、だって、夢なのだから。


最後の、ヴォルデモートさんの苦しそうな表情を思い出す。


「夢でよかった」


口に出し、しみじみと深く、本当に純粋に、そう思った。


夢でよかった。


あれが夢じゃなかったら私はどうなっていたことか。
私だけじゃなく、原作も……。


でももうすべて、過ぎた事だ。それに、所詮は夢なのだし。

難しいこと考えるのは、やめよう。そしておいしいご飯を頂こう。


「わ、髪ぼさぼさ」


とりあえず、ヴォルデモートさんが魔法で出してくれるおいしいご飯にありつくために、私はブラシを探すのだった。





    



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