なにやらリドルくんが怒っている。
本を開いていつも通りを装っているけど、それが格好だけなのだと私にはすぐわかった。
だってさっきからページが全然進んでない。
文章を追うはずの赤い瞳は、一点を見つめたまま、ちっとも動かない。
もしかして、私が何かしてしまったのだろうか。
そうだとすると、私から謝ったりするまでリドルくんは口も開かないまま、なんだろうな。
黙ったまま、私の隣に居て、なにも言わずに訴えてくる。
きちんと口で言ったほうがずっとはやいのに。
彼はとても意地悪なんだから。
でも私はそんなリドルくんときちんと目を合わせたいしお話もしたいと思うので、
「リドルくん、私なにかしちゃったかな、…………えっと、ごめんなさい」
ここは図書館なので、呟くように声をひそめて言うと、リドルくんは思いきり顔をしかめて、私のほうに目を向けた。
でも、どうやら地雷を踏んでしまったらしい。
「僕が欲しいのはそんな言葉じゃない」
リドルくんはそう言うなり、ばたんと本を乱暴に閉じ立ち上がった。
慌てて私も席を立って、リドルくんのローブの裾を引っ張り、無理矢理立ち止まらせる。
よし、これで逃げられない。
リドルくんの顔を見上げて、口を開く。
「じゃあ、欲しい言葉ってなに?」
ローブを強く引っ張る私を煩わしそうに見ながら、それでも振り払うことはしない。という事は、実は追いかけて欲しかったのかな、と思う。
やっぱり、口で言えばいいのに。
「それくらい、自分で考えれないの?」
本当に#name#1はばかだ、呆れるような声色と共に近づく顔。
「っ!」
ぱっとローブから手を離し、慌てて後ろに飛び退いた。
どくどくと早さを増す鼓動。
リドルくんの綺麗な顔は、時々心臓に悪い。
驚いて目を丸くしている私を、リドルくんは未だ怒った顔で見下ろしている。
「……」
仲直りしたいのに、言葉はいっこうに出てきてくれない。
どうしよう。
どうすればいいんだろう。
考えながらリドルくんを見つめ返したまま口をつぐんでいると、彼が先に口を開く。
「さっき、」
さっき?
「う、うん」
何を言われるのか見当のつかないまま、とにかく頷く。
「魔法薬学の授業があったよね、#name#1」
「うん……」
たしかに私達は、つい数十分前に魔法薬学の授業を終えたばかり。
「どうして僕と組まなかったんだい?」
怒りを含めた声で言われ、またまた私は驚く。目を丸くする。
「だって、リドルくんが大勢の女の子に囲まれてたから」
だから私は、他の人とペアを組んだっけ。
「そんな事関係ない。僕は……、」
形のいい唇から紡がれたその言葉に、どきっとする。
もしかしてリドルくんも、私と組みたかったのかな。
だとしたら、すごくすごく嬉しいんだけど。
黙って彼を見つめる私の瞳は、恋する乙女のあさましい期待の色が混じっているんだろう。
「……」
けれど、リドルくんはいつまで待っても言葉の続きを言ってはくれない。
「……とにかく、僕以外と組まないこと」
額に眉を寄せそう言うと、リドルくんはぷいっとそっぽを向いて早足で歩き出す。
ちらりと見えた、ほのかに赤く染まる頬っぺた。
肝心の言葉は言ってくれなかったけど、私には分かっちゃったよ。
私がリドルくんの感情の起伏にやきもきしたり、怒っているのに隣に居たり、追いかけたり、捕まったり、じょうずに言葉にできなかったり。
つまりは、そういうこと、なんだね。
そしてどうしようもなく嬉しくなった私は、今の気持ちにぴったりな言葉を口にする。
「リドルくん、好きだよ」
私の唇から、愛がひとつこぼれ落ちた。
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