「むむむ……」

人っ子一人居ない図書室で一人、頭を抱える。
今はまだ夕食時で、皆大広間の方に行ってるから、この広い机も全部、私の独占状態、だって一人だもん。

……や、そりゃ司書さんは居るかもしれないけれど、私の居るこの席は端っこのほうなのでカウンターは見えないし遠い。
なので実質、ここには私一人みたいなもんである。
で、なんで図書室なんかでぼっちで唸っているのかと、いうと。


「魔法薬学なんて爆発したらいいのに……」


主に、私の前に立ちはだかる魔法薬学のレポート1メートル、という大魔王のせい!

自慢じゃないけど私は、天文学の授業中「流星群には願いをかなえる力があると言われている土地がある」と聞いて、それだ!と思い立ちその晩、校則破って星に願い事をしに行ったもの。
もちろん、魔法薬学をこの世から消してくださいって。

友達がすすめる本などをありったけかき集めて見ても、ぜんっぜん分からない。
ここに来る前、魔法薬学なんてとるんじゃなかった。とグチを零すと、必須科目だよ頑張ってね私は行かないけど。と一番の親友であるはずの彼女から実に冷たい反応を頂いてきた。
ひどいよ……。

「あーあ……もうやだわかんないよマジ課題ふぁっ、」

ヤケになって言っちゃいけない放送禁止用語をぼやこうとした時、小さい足音が聞こえてきた。
夕食時なのにこんなとこ来るなんて、いったい誰なんだろう。
物好きとしか思えない。
……あ、もしかして、私と同じで課題を片付けにきた人とか?

チャーンス!
先輩か同級生なら、教えてもらおう!

慌てて姿勢を正して、羽根ペンを握りなおす。
よしっこれでパっと見「私今まで勉強してました」感を装えるよ!
私ちょう天才。

でも、足音がだんだん大きく聞こえるにつれて、ちょっと不安が募ってきた。

もし、スリザリンの怖い先輩とかだったらどうしよ……。
バカにされちゃうどころじゃない気がする。
ハッ、もし襲われたら……?
どうしようどうしよう!やっぱり人の居ない図書室なんて来るんじゃなかった魔法薬学のバカー!


「ミスみょうじ……?」


え。
杖を取り出そうとポケットに伸ばしていた手が止まる。
このイケメンボイスは聞いたこと、ありますよ奥さん。


「ト、トム・リドル……?」


そこには、同学年の、ホグワーツきっての優等生と称される、トム・リドルの姿が。
こんなに近くで見たのは初めてかもしれない。
彼の周りにはいつも誰かしら集まっているから。主に女の子。マジハーレム。

そんな人がなんでここに。
あ、予習でもしにきたのかな。……課題に追われる私とは核が違う。さすが、ぱねぇっすわー、リドルさん。

目を丸くしてほうけている私と裏腹に、彼はにこっと人懐こい笑みを浮かべた。


「君、夕食は食べないの?」
「あっあー……もう食べてきた、かな」
ていうかかっこんできたんです、胃袋に。
「そう……それ、魔法薬学だね」
「あっえーと、はいソウデスネ……魔法薬学デス……」

言いながら、あわてて参考文献で未だ真っさらな羊皮紙を隠した。
けど、どうやら見られてしまったらしい。
ホグワーツ一の秀才が笑っている。恥ずかしいことこの上ない!

「それ、明日までだったよね? 僕でよかったら手伝おうか?」
「えっ!」

こんな頭いい人が手伝ってくれるですと!

「い、いいの……?」
「もちろん。困ってる人が居たら助けるのは当たり前だよ」

やばいなんか私の存在がカスみたいに思えてきた。
トム・リドル様天使じゃん。


「ありがとう! じゃあ早速お願いします、えっとその、どこが分からないかっていうと、満遍なく分からないのですけどもその……」
「…………ああ、うん……頑張ろうか」


これにはさすがに、優等生さんも苦笑だ。
私の頭の出来がよくないばっかりに、ごめんよ、リドルくん。

それから三十分ほど、魔法薬学の基本的な手ほどきをして頂きました。


「ほら、簡単だよ。」
「……う、う、ん……で、なんでこれ入れたら緑になるの? ぶっちゃけホウレン草入れればよくない?」
「…………さ、次に移ろうか」

あれ、無視された?
ホウレン草はだめなのかそっか……だから私の鍋はいつも爆発してたのかぁ。
やっと真相がわかったよ。


「#name#ってバカなんだね」
「あはばれちゃった? 実は…………え?」

友達にからかわれたりするいつものノリで、おちゃらけようと、したけど。
とっさにレポートから顔を上げて隣のリドルくんの顔を凝視。
にこやかな笑顔はさっきと変わらない……よね?


「ほら、手を動かして」
「あっ、はい……。…………?」


疑問が残りつつも、早くこれを終わらせないといけないので、気にしない事に、しよう。
今バカって言ってなかったっけ……。
おっかしいなリドルくんってそんなキャラだったっけ……。

「はい、終わり」
「うん、ありがとう! 私一人じゃこんな風に書けなかったよ!」

レポートをくるっと丸めて、笑いながらあらためてお礼を言う。

やっぱりリドルくんていい人なんだなー。
自分の時間削って教えてくれるなんて、私にゃマネできない。

「じゃあ、帰ろうか。寮まで送るよ」
「えっありがとう!」

リドルくんマジ天使……。
ここまでスマートで紳士な行動が同年代の男子に出来るでしょうか。
いえ、こんな事が出来るのはリドルくんだけでしょう。
私の学年の男子って全然そういうの出来なさそうだし。


何はともあれ!
レポートは完成して、きっと評価ではAを確実に取れるだろうし、予定より早く終わったし、リドルくんイメンだし、いいことだらけだよ!

晴れやかな気分で手元の、これまでで一番よく出来たレポートを見ていた、ら、

ぐいっと、腕が引かれて、


「#name#はバカはバカでも理解しようとするバカなんだね」


そっと、耳元でささやかれる声。


「……えっ、あれ……?」


状況が理解できないでぼうっとしていたら、ぱっと腕を放されて、いつも通りのリドルくんに戻っていた。


「レポートと本、僕に貸して。持つよ」
「え、あ、あれ? ……うん?」

よく分からないままリドルくんの手に渡る荷物。
やっぱり紳士だね……。



ところで、さっきのは何だったんでしょう?



(思えばこの時、彼の本性を知るまでそう遠くはなかった)





   



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